第一章『勿忘草』 二十節『試験本番~格闘~』
遅くなりました! 初めての戦闘描写に手間取ってしまいました……
文字数も少なめですが、楽しんでいただけると幸いです。
では、また。
二十節『試験本番~格闘~』
先手はイカリさん。
どんな戦い方、なんだろう。と思っていたけど、かなりフィジカル系っぽい。
瞬き一回、ないくらいの予備動作。そこから繰り出されたとは思えないほど速い左上段突き。五メートル以上もあった間合いが一瞬で詰められる。
すごい速さ。でも、見えないこともない。
右に躱し背中側の隙を突こうとする。
避けられても両の目がしっかりと僕の動きをとらえている。
でも、その体勢から追撃は出来ない。
その思考のあとに感じたのは衝撃。
顎に直接、回し蹴り。もらっちゃった。平行感覚を失う。
「痛い」
どうやって? 確かに背中側を取った。攻撃はかなり難しい、はず。
疑問が頭を悩ます。
しかし、相手は待ってくれない。
僕がよろけたところに、すかさず足刀。後ろに飛びながら力を殺す。
まともに、お腹に食らってたいたら、死んでいただろうな。ガードの手を緩めて構え直す。
そろそろ、反撃しないと。
「ほっほっほ。少し変わりましたかな?」
イカリさんは、そう言いながら後ずさり。防御の構え。
踏み込んで、左中段突き。前足でもう一度踏み込み、逆右中段突き。からの回し蹴りのモーションと思わせて裏回し蹴り。
それらの三段攻撃を左手、右手と足と一歩一歩下がりながら受けられた。最後のフェイントはいとも簡単に見抜かれ、足をつかまれる始末。後ろにあった右足で僕の軸足を払い体勢を崩される。
僕は地面で体を打つ直前、両手と膝を付いた。そして空いている方の足で、下から蹴り上げる。
体には当たった。けど、手、いや足ごたえがない。
「ほっほっほ」
「あったまってきましたの」
あっちはまだ、余裕ありそう。でも、油断は一切見られない。
「ところでですがの、最初に掘っていた穴は何ですかな」
やっぱり、気になってる。まあ当然か。
「さあ」
「これは手厳しい。教えてくれてもいいではないですか」
こっちの判断力の低下、ミスを、狙ってる。と思う。けど、ここで一歩踏み込む。しかない。
多分もう、長く持たない。さっきから、ずっと押され続けてる。手数も、経験も、力も、技術も、何もかも、負けてる。
ただ一つ、気持ちを除いて。その気持ちが、どこへ向いているのか。それはわかってる。多くの人、にとって、この状況で、必要のない感情だったとしても。僕にとっては違う。
ただ一つ、目標のために。役立つと、証明するために。もっと、見てもらうために。
膝をしならせ一気に伸ばす。後ろ脚に体重がかかる。地面がえぐれるのが分かる。足があったところには、既に土埃しか舞っていない。
僕はもう、別のところで舞っている。力と技術のぶつかり合い。感情が交錯する場所。
ああ、ここだ。やっぱりここが好き。もっと続けていたい。
見て。今の僕を。この僕を!
拳を握り直す。
蹴る。
突く。
防御する。
蹴る。
突く。
防御。
蹴り、
突き、
防御、
蹴り
突き
防御。
だんだんと、意識が遠のいていく。
蹴り
突き
防御。
手は、足は、緩めない。
蹴り
突き
防御。
攻勢に変わった。確かに、それを感じた。
イカリさんが、少しずつ、後ろに押される。だんだんと、近づく。最初に入れた切れ目に。
切れ目とイカリさんとの距離が一メートルほどになった。
今だ……
僕の集中力は体全体から右の拳に集約される。息を大きく吸い込む。
堅き手を 志とともに 真っ直ぐに 全てとともに 地を揺らすように
地が揺れる。小さな切れ目が、その眼を見開き、巨大な眼となる。
そこに三本の矢が、風を斬って突き刺さる。
瞬く間にその眼は木の根で埋め尽くされる。まるで何かが、涙を求めるように。




