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生きる意味


「不甲斐ないなテッド君。黙って聞いていれば、なんて体たらくだ」


 教授の冷ややかな視線が俺に見下していた。

 けれど、なじるようなその口調に、反論する気力もない。

 不甲斐ない。そんな事は言われなくたってわかってる。呪われた命に、その一生に疲れ果ててしまったプリシラに、かける言葉も見つけられないでいるんだから。

 呆けたように見上げた先で、教授はフンと鼻を鳴らして俺から目を背けると、つかつかと歩き始める。


「いや……、来ないで! お願い……!」


 弾かれるように窓辺に身を乗り出したプリシラに教授は足を止めた。

 教授は酷く大仰にため息を一つついて、それから口を開いた。


「先ほど君は『全て覚えている』と言っていたねプリシラ。ならば、よもや忘れてはいないだろうね? 君が未だ私の所有物(・・・)だという事を。だから私にはこんな事もできるーー」


 意味ありげに言葉を切った教授は目を伏せた。それからたっぷりと間を取って、鋭い視線をプリシラに向ける。


「そこから降りなさいプリシラ。これは命令(・・)だ」


 教授が口が言葉を発した途端、プリシラの身体がびくりと跳ねた。それからゆっくりと、ぎこちない動きで窓辺から離れる。

 その様に、俺は拳を握り締めた。


「やれやれ。これで少しは落ち着いて話ができるなーー」


「……ってたのかよ」


 くぐもった絞り出すようになった俺の声に、教授は少しばかり眉をひそめた。


「知ってたのかよ! プリシラがこういう状態だって! 命じて辞めさせられるなら、なんでっ!」


 がなりたてた俺に教授は少しばかり驚いた表情を見せる。だけどーー。


「なぜ最初からそうしなかったのか、と? まさかそう言いたいのかね?」


 そう俺の声を代弁した教授は薄ら笑いを浮かべた。

 だってそうじゃないか。

 やっと理解できた。教授が手を焼いていると言った意味が。

 教授にはこうなる事がわかっていたんじゃないのか?

 なら、なんで俺に話させた。


 酷く惨めな気分だった。

 死ぬ思いをしてまで助けたのに、でもそのせいで、プリシラは自分を責めて自ら命を断とうとしている。

 自分のせいで俺が傷ついたから、と。

 だったら俺に何が言えるって言うんだ。


 歯が砕けてしまうんじゃないかと思うほど奥歯を噛み締めて、俺は教授を睨みつけた。

 だけど、教授が俺に向けた視線は、まるで俺を憐れむようで。


「私はこれでも、君たちの感情を忖度(そんたく)したつもりだったのだがね。君はまたプリシラを人形扱いして欲しかったのかね?」


 教授の呆れたような物言いに、俺は目を見開く。自分が何を口にしたのか、その意味がわかってしまったから。


「確かに命じて辞めさせる事は出来た。だがそうしなかったのは彼女の人間性を尊重したからだ。呪いという超常に立ち向かう君たちに敬意を払えばこそ、君に解決を委ねたのだよ? どうやら私の買いかぶりだったようだがね」


 教授はまるで興味をなくしたように俺から目を背けると、窓辺で身を硬くするプリシラに歩み寄る。

 愕然としながらその背を眺めたが、教授はもう俺に振り返りもしない。


「プリシラ。これを見なさい」


 そう言って教授は白衣のポケットから何かを取り出す。それから指先でつまみ上げ、日にすかすように目の高さにソレを掲げてみせた。

 それは、透明な液体の入った小瓶のように見えた。

 教授は諭すような声でプリシラに語りかける。


「これはキミの異形化した腕から作った、異形化の抑制薬だ。もちろんキミには効果がないが、そこのテッド君や他の弟妹(きょうだい)達にとっては、動く骸骨(ミートレス)の骨などよりははるかに効果の高い薬になるだろう。現に、キミとの戦いで重度に異形化したテッド君もこの薬であそこまで元に戻せた」


 振り返った教授が手を差し伸べて俺を指す。

 教授とプリシラの視線が俺を捉える。


「キミ自身の異形化を抑制するために、今後もキミは異形化の進行した手足の交換を余儀なくされる訳だが、この薬はその副産物として作り続ける事が出来る。この意味がわかるかね?」


 またプリシラに向き直った教授がどんな顔をしているのか、俺には見えない。

 でも、あの人を食ったような笑みを浮かべているだろう事は想像ができた。


「キミは生きている限りキミの家族にこの薬を提供し続けられるのだ。キミは先ほど、生きている価値がないと言ったが、それでもまだそう思うかね?」


 プリシラが苦しげに俯いたのが見えた。

 ひどい二択もあったもんだ。

 自分の命と、俺たちの身の安全を天秤に掛けさせるだなんて、今のプリシラにはあんまりな話だろう。

 まったく、教授らしいといえば教授らしい。

 けれど、それでプリシラが納得する事を期待してしまっている自分にも気づく。

 俺も十分、人でなしだ。

 身を苛む自己嫌悪に俺は思わず目を背けた。苦しむプリシラを見ていられなかったんだ。


「ふむ、どうやら納得してもらえたようだね」


 項垂れ、華奢な拳を握り締めたプリシラに、教授は満足げに頷く。

 それから俺に向き直って、顔をしかめた。


「いつまでどうしているつもりだテッド君。ーー全く不思議でならないな」


 酷く呆れた声だった。

 一体何が不思議だって言うんだ。

 見上げ見た教授は、心底理解ができないとでも言うようにかぶりを振る。


「君達はこれほどまでに苦しんでいるというのに、どうして根本的解決を図ろうとしないのかね?」


 根本的な解決。何を言ってる?

 いや、本当はわかっている。

 それが意味するところはーー。


「君達は、呪いそのものをどうにかしようと考えたことは無いのかね?」

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