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目覚め


 微睡(まどろ)んでいる。

 夢うつつに過ぎ去った日々を見ながら。

 明日どうなるかもわからぬ、その日暮らしの日々だったけれど。

 弟妹(きょうだい)達に囲まれて、そしてーープリシラが俺を見て微笑んでいた頃の夢。

 穏やかな夢だった。

 こんなにも、心静かに微睡んだのはいつ以来だろう。


 手のひらに感じる暖かさに、俺はうっすらと目を開く。

 見慣れた天井がそこにある。

 何度も()()ぎして、穴を塞いだボロ布でできた天井。

 あぁここは、俺の。俺たちの家だ。


 やけに重たく感じる身体で首を回してみてみれば、決して上等とは言えないベッドの両脇に弟妹の姿が見えた。

 どうりで手のひらが温かいわけだ。

 右手にはリリーとデイジーが、左手にはジュードが、それぞれ俺の手を握っている。


「にいちゃ?」


 身動(みじろ)いだ俺に最初に気がついたのはジュードだった。

 眠そうに目をこすりながら顔を上げた下の弟の頭を、そっと撫でてやる。

 途端にジュードは飛び起きて、駆け出した。


「マルクにいちゃ! テッドにいちゃが!」


 舌足らずに声を上げながら、布切れで出来た部屋の仕切りを跳ね上げて走って行く。


「ちょっとジュード!」


 慌ててデイジーがジュードを追いかける。

 見慣れたいつもの風景。

 ふと、右手を握られる力が増して視線を向ければ、リリーが静かに涙を流していた。


「心配、したんだよ。テッド兄さん。でも、良かった。目が、覚めて」


 辿々しい言葉から、彼女の心のうちが伝わってくるようだった。


「ごめんな……」


 そう口にしたところで、やけにリリーの血色が悪い事に気がつく。

 まだ霞む目を凝らせば、手も腕も包帯だらけだ。


 ーーまさか!


 そこに来て、自分の身体の状態に気がついた。あれほど深く傷を負ったのに、その殆どにもう痛みがない。

 それはつまりーー。


「リリーお前……!」


 勢いよく飛び起きようとして、全身を襲う痛みに悶絶する。

 パタパタと軽い足音が二つして、仕切り布をめくって入ってきたのはマルクだった。


「気がついたんだねテッド兄さん。ダメだよまだ寝てなくちゃ」


「マルク、お前リリーに力を使わせたのか!?」


 問い詰めるような言い草になった俺に、マルクは少しだけ身をすくめた。


「怒らないで、兄さん。みんなで決めた事なんだよ」


 そう言ったマルクの姿をよく見れば、マルクも包帯だらけだ。

 遅れて戻ってきたジュードとデイジーも、程度に差はあるけれど、みんな包帯を巻いている。


「教授がね、言ったんだ。兄さんの傷は深すぎるから、リリー一人じゃリリーの方が危ないって。けど、みんなで少しずつ傷を分けたら或いはーーって。だから」


 教授? またアイツか。

 勝手なことしやがって。

 ぎりりと音がするほど奥歯を噛み締めた俺に、マルクは静かに口を開く。


「わかって、兄さん。本当に危なかったんだ。僕は感謝してる。僕たちに兄さんを助けてられる方法を教えてくれたんだから。傷を縫ったのだってあの人なんだよ?」


 諌めるようなマルクの言葉に、少し冷静さを取り戻す。

 業腹な話だけれど、どうやらまたアイツに助けられたらしい。それに、経緯はどうあれ、マルク達にも助けられたんだ。

 八つ当たりするようなことを言った事を俺は恥じた。

 謝らなきゃ、いや。違うな。

 今、俺が言わなきゃならない言葉はーー。


「みんな、ありがとうな」


 そう言ってぎこちなく微笑ってみせる。

 叱られた犬みたいに縮こまっていたジュードとデイジーが、わっと抱きついてくる。

 ぶつかったところがやたらと痛かった。

 そんな下の弟妹達に、リリーもマルクも小言を言いながらも笑う。

 俺の弟妹(きょうだい)達、俺の大事な家族。

 それからふと、思い出す。

 大事な、とても大事な事だ。


「マルク、プリシラは……どうなった?」


 恐る恐る切り出したその声に、マルクは少しばかり目を伏せた。


「教授のところだよ。プリシラ姉さんの身体は特別だからって。テッド兄さんが目が覚めたら訪ねて欲しいって、伝言を頼まれたよ」


「そうか、じゃぁ行かないとな……」


 そう言って寝汗で張り付いた髪を搔き上げる。

 そしてようやく気づいた。

 自分の手だ。

 視線が指先から二の腕に泳ぐ。


 (……そうか。まぁしょうがない、よな)


 俺の腕は、まだら模様みたいに所々鱗が生えたままになっていた。

 思いのほか落胆は無かった。まぁ全くないといえば嘘になるけれど。

 それでも、この程度で済んだ幸運を喜ぶべきだと思った。

 ベッド脇に腰掛けて立ち上がろうとして、膝に力が入らないことに気づく。

 よろめく身体をどうにか支えると、マルクが肩を貸してくれる。


「四日も寝てたんだよ。まだ無理しない方が……。って言ってもどうせ聞いてくれないんだろうね」


 やれやれと肩をすくめるマルクに苦笑いを返す。


「でも、プリシラ姉さんの様子が気になってるのも確かだよ。もちろんみんなね。だから、行ってきてくれるかい兄さん?」


「もちろんだ」


 確かな頷きを向けて、俺はシャツに袖を通した。教授が置いて行ったのだというそのシャツは、少しばかり上等な肌触りだった。


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