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なけなしを持ち寄って


 答えにほぼ(・・)辿り着いている?

 どう言うことだ。

 頭の中は疑問符ばかりだ。思わず顔を見合わせた弟妹(きょうだい)達もみんな一様に困惑した表情をしている。

 そんな事など御構い無しに、興奮冷めやらぬ教授はまくし立てる。


「教えてくれ諸君。どうして動く骸骨(ミートレス)の骨なのかね?」


 妙な事を聞くもんだ。

 そんなのは決まってる。

 それはあの骨が、俺たちが手に入れられる唯一の呪物だからだ。


「アレしかないんだよ。俺たちが手に入れられる範囲にはな」


「成る程、道理だ。であるならば、つまり試していない訳だね?」


 教授がずいと顔を近づける。

 美人と言える部類の顔だ、それなのにその表情がまったく頂けない。

 目の前の狂気じみた笑みに、背筋が寒くなる思いがする。

 それにしても、試す? 一体何を?

 質問の意図を汲みきれず、言葉に詰まる俺に教授は畳み掛ける。


「わからないかい? では質問を変えよう。君は今まで散々試してきたと言った。だが、本当にそうかね? 同じ失敗をただ何度も繰り返す事を、試行錯誤を尽くしたとは言わない」


 目を細め穿つ様な視線が俺に突き刺さる。

 教授の言いたいことは分かる。

 失敗したのなら何故他の方法を探さなかったのか? と言いたいんだ。それは分かる。それは道理だ。

 けどーー。

 

「けどそれはーー!」


「おっと、気を悪くしないでくれよ? 理解はできるとも。君の事だ、努力を怠ったのではない。君はいつも最善の選択肢を選んできたに違いない。ただ、君には取りうる選択肢が他に無かったのだろう」


 言い返そうとした事を、そっくりそのまま代弁されてはぐうの音も出ない。

 鼻白んだ俺は、それでも教授が何を言おうとしているのかを理解した。

 教授はこう言いたいんだーー。


「他の呪物を試すべきだ。そうは思わないか? 異なる種の呪い同士に何らかの反発作用があることは君達がすでに証明している。それでも重度に進行した異形化に効果が現れないのは、おそらく足りない(・・・・)のだ。取り込む呪いに起因する要素の量か、あるいは質かはわからないが、そう考えて然るべきだ」


 大げさな身振りで満足げに言葉を締めくくった教授に、俺は頷きを返した。

 確かに筋は通ってる。そう思う。

 けどそうなれば、別の問題が生まれる。


「ーー動く骸骨(ミートレス)の骨よりも強い呪いの力を持った呪物をどうやって手に入れるんだよ? 口で言うほど簡単じゃないぞ。それに、仮に手に入れられたとしても、それを使って効果があるって保証もない」


 他の呪物、そう言われてすぐに思いつくのは肉屋(ブッチャー)共だ。

 どうやらそれは教授も同じだったらしい。


「例えばあの醜い豚の様な異形、確か君は肉屋(ブッチャー)と呼んでいたか。アレに起因するものはどうだろうか? そうだな肉か血液か……、試したことはないのだろう?」


 ケロリとした表情で、あの醜悪な異形の肉を食うなんて発想を口にした教授に、流石に気分が悪くなった。

 けどまぁ、論外だ。

 生理的に受け付けないってのも、もちろんある。けど別の理由もある。


「期待できない……と思うけどな。アレは動く骸骨(ミートレス)と同列か、もしかしたらそれ以下の異形(フリークス)だ。質、と言う意味で言えば代わりになるとは思えない。それにーー」


「あまりあれこれ試すのは得策じゃないんじゃないかな……って、思うんだけど……」


 控えめに会話に割り込んできたマルクが、俺の言いたかった事を言った。

 途端に教授の好奇心に満ちた瞳が、マルクへと注がれる。


「どう言うことかね?」


「えっと、その。さっき兄さんも言ってたでしょ? 『これは応急処置で対処療法だ』って。何度も繰り返すと段々効き目が無くなっていくんだよ。生きてた頃のプリシラ姉さんはもう黒骨じゃ効き目がなくなってた。だからーー」


 そうだ、効き目の怪しい物を使って、チャンスを減らす事になりかねない。

 マルクの遠慮がちな言葉を聞きながら、教授はまたウンウンと頷きながら思案を始めた。


「成る程、理にかなった推論だ。では、質の面でもっと強力な呪いの力を持った異形(フリークス)に由来するものでなければならないと言う訳だね」


 ふぅむ。と唸り教授は考え込む。

 強力な異形(フリークス)

 真っ先に思い当たるのは、市街地の主。枢機卿(カーディナル)だ。

 アイツは動く骸骨(ミートレス)たちを従える親玉だ。呪いの強さで言えば、動く骸骨(ミートレス)なんかの比じゃないだろう。

 けど、アイツをどうにかして呪物を奪うなんて想像もつかない。アイツにも黒骨みたいなものがあるのかどうか、それすらわからないんだ。

 そんなのは余りにも分の悪すぎる賭けだ。

 やっぱりこの方法には無理がある。


 またブツブツと言いながら考え込み始めた教授を見ながら、何か他の方法を考えるべきなんじゃないか? と、俺がそう思い始めたその時だ。


「いや? そうか、なんだ簡単な話じゃないか」


 パンッと手を叩く音が響く。

 思わず視線を向けたその先で、教授はクツクツと肩を揺らした。


 (笑ってる……のか?)


 まさか、アレをどうにかするなんて言いださないか、内心ヒヤヒヤする。


「私としたことが、こんなにも簡単なことを見落とすとは。ふふふ、何、簡単な話だ。居るじゃないか……。他にも強力な呪いを発する者が」


 そう言って怪しく光る教授の瞳に、俺は酷く悪い予感がした。


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