解決策
ほんと、何なんだよコイツは。
何もかも見透かしたような言葉に、苛立ちが募る。
でもそれだけじゃない。
こんな奴に理解されたって事が、面白くないんだ。
ちくしょう。ちくしょう。
気に入らない。あぁまったく気に入らない。
でも、自分の無力さを嘆いているだけなんて、教授の言った通り滑稽の極みだ。弟妹達の前で、そんな醜態を晒すのは御免だった。
「……良いぜ、口車に乗ってやる」
意を決して啖呵を切った。
それから、弟妹達に順番に視線を送る。
マルク、ジュード、リリー、それにデイジー。不安げに身を寄せ合う弟妹達の姿に、胸が締め付けられる。
「こんなことに巻き込んじまってーー」
「やめてよ、巻き込んだだなんて。これは兄さんだけの問題じゃない。だってプリシラ姉さんが関わってるんだろう? だったらぼく達みんなの問題だよ。僕達は兄妹だって、家族だって。いつも兄さんが言ってるんじゃないか。そうだろテッド兄さん」
思わず下を向いた俺にマルクの声が響く。
そうだよ、と。口々に駆け寄ってくる弟妹達に勇気付けられる。
(ありがとう。すまないーー)
弟妹達の頭を順に撫でてやる。
ーー腹は決まった。
俯いた心に蹴りを入れて、俺は改めて教授に向き合った。
何ができるのか、まるでわからないけれど。ここでただ座っている訳にはいかないんだから。
「……それで? 大口を叩いたんだ。お前には何か考えがあるんだろうな教授?」
俺は努めて挑発的に教授の様子をうかがった。教授の立場を考えれば看守どもがまた騒ぎそうな言い草に、教授はニッと歯を見せて笑う。
「ははは、良いぞ。調子が戻ってきたじゃないか。君はそうでなくてはな。だが、うむ。そうだな、一つ気になっていた事がある……」
そう言って、応接テーブルの向こう側に掛けた教授は半身乗り出した。
思わず身構えてしまう自分の小心さが悔しい。
またあの目だ。心底嫌になる。
知識欲を満たすことしか考えていない時の目。
けどこうなった教授は、俺には思いつかないことを思いつく。
今はそれに賭けるしかない。どうせ今より悪くなることなんて、そうはないんだ。
「……なんだよ」
「君の身体のことだ。あの晩最後に君を見た時、君の身体はかなり異形化していた。それなのに、だ。次にあった時には君は元の姿に戻っていたね。プリシラのあの状況を見るに、自然に元に戻ると言う訳でもあるまい。あの時君は意識を失っていた。と言うことはだ、私が思うにーー」
意味深に言葉を切って教授は視線を泳がせた。
その切れ長な目がとまった先で、マルクがビクりと体を震わせた。
「マルク君、君が何かをしたんだ。違うかね?」
「それは……その……」
しどろもどろになって、俺と教授を交互に見るマルクに助け舟を出してやる。
「それには俺が答えてやるよ。俺たちはある程度の異形化なら止める手立てを知ってる。でもそれはあくまで応急処置で対処療法だ。根っこの部分からどうにか出来る訳じゃない」
「ほぅ……。あるいはそうではないかと思っていたが、やはりそうなのか。是非とも詳しく聞かせてもらいたいな」
教授の瞳が怪しく光る。
コイツのこう言うところが本当に嫌いだ。ある程度予想のたっている事を、わざわざ相手の言葉で確かめるような。そういうやり方だ。
しかもその予想が的外れとも言えない所が、尚のこと始末が悪い。
「初めて会った時の事を覚えてるか? あんたが動く骸骨に囲まれたあの大通りで、俺にマスケットを向けた時の事だ」
教授はただふむと小さく頷く。
「あの時、あんたは俺に動く骸骨の呪骨をどうするのかって聞いたな。……それが答えだよ」
教授は目を見開き、そして黙り込んだ。
細い顎に手を添えて、考え込む。
何やらブツブツと口にしながら、しまい目には立ち上がった。
ソファと執務机の間をウロウロと歩き回り始めた教授に、流石に胡乱な視線を向ける。弟たちが不安げに俺に視線を向けた。
「あぁすまない。興味深い話だ、続けてくれ」
教授の奇行に弟妹達が戸惑っているのがわかる。教授の突拍子もない行動を多少は見慣れたはずの俺でさえ流石に鼻白んだんだ。耐性のない弟たちに戸惑うなっていうのは酷な話だ。
まぁでこ、こうなった教授を見るのは初めてじゃない。
あの晩、地下水路の小部屋でも、教授はこんな風だった。
「まぁ別に何か特別な事をする訳じゃない。あれを砕いて飲むんだよ。そうすると、ある程度呪いの力が弱まるんだ。めちゃくちゃ気分が悪くなるけどな」
そう言った途端、教授は立ち止まった。
ピタリと動きを止めて、そういう彫像にでもなったみたいだ。
それから不意に顔を上げたかと思うと、声を上げて笑い出す。
「ははは! そうか! 服用するのか。体内に他の呪いに起因するものを取り込む事で、何らかの拒絶反応が起きるんだな? なるほどなるほど、符合する、符合するぞ。であるならばーー!」
「盛り上がってるところ悪いが、あそこまで異形化したらこの方法じゃ元に戻らないぞ。それはもう何度も試したんだ。間違いない」
興奮気味にまくし立てる教授に半眼を向けてやんわりと釘をさす。
そうだ、この方法じゃダメだ。プリシラの時も、もうここに居ない兄や姉の時にもそれは散々試したんだから。
苦々しい思いが、辛い記憶と共に湧き上がる。
ーーだけど、教授はそうは思わないらしかった。思わず俯いた俺に教授は告げる。
「いいや、それは違うぞテッド君。その方法で良いんだ。やっぱり君達は素晴らしい! 君達はほぼ答えに辿り着いていたんじゃないか!」
高らかに語る教授の声は、まるで熱に浮かされた様だった。




