9話 〜浪漫とは〜
10話は水曜に更新します!!
やっと12話まで書けたので!!
……ん。
眠たいよ……
ノア──
「おはよう。」
私は、そこにいない誰かに呟いた。
朝なのに雀の声一つ聞こえない。
わかっているのに、どこか寂しい。
「……嫌だなぁ。」
壁に掛かった時計は6時半を指している。
秒針の先が発光して、それを知らせている。
寝起きでも、そのおかげではっきりと見えた。
朝だというのに、辺りは暗闇に包まれている。
日の出の光は、窓のない部屋には刺せないから。
「なんで、かなぁ……」
私しかいない部屋。
医務室でもなんでもない。
ただの、部屋。
同年代がいないのはそりゃそうだろうけど。
私だけ部屋が隔離されてるのがよくわからないんだよ。
結局、切り札ってなんなの……
敵にとって、私はどうしても取り返したかった存在。
味方からしてもそう。
「名前……」
なんで、あの敵は知ってたんだろう。
私の名前。
ワンチャン、前の私の名前だったのかな。
なんて、考えたら考えるだけ妙な焦燥感を感じてる。
「わかんないよ……」
あの敵を撃っても良かったのか。
私自身が何者か。
「おはようございます……?」
私は格納庫の中に入る。
まだ早いのに、もう働き始めている整備士さん達を横目に、私のスーツの整備をしているルミネさんの元に──
「何をしてるんですか?」
「あっ、アイリスちゃん!!」
ルミネさんは私の方に駆け寄ってくる。
目をキラキラさせて──
いや子供かな?
本当は20代らしいけど。
「見てよ!
君が寝込んでた2日の間に、伝導系を刷新したんだよ!」
「……別に、寝込んでませんが?」
確かに戦闘で怪我を負って2日間包帯巻かれてたよ?
安静にしろって。
でもそこまで深くなくて、昨日の夜にはもうほぼほぼ治ってたから外されたんだよ。
なんならむしろ訓練の見学とかしてたし……
「ほら、ここのパーツとかね?
今までの劣化品じゃなくて、ちゃんとした戦闘機にも使われるようなものに変えたんだ。
アイリスちゃんなら、多分これでも動くんじゃないかなって。」
マシンガントークが続く。
かと思ったら……
"でも、わざわざ試作品とはいえ高級なパーツの一つも使わせてくれないのって、上層部酷いよねぇ。
それも生産コストを抑えるためなのはわかるんだけど?
どんだけこの計画に期待してないんだよってさ、本当に?"
サブマシンガントークが始まった。
それも、上司、ないしは本部の人間への陰口。
ここの艦の人間に対してじゃないことは、声色でわかった。
「そういえば、これってどうやって動いてるんですか?
見たところエンジンとかなさそ──」
「じゃあ、説明するね?」
「……はいっ──!?」
私が、答えを返す前に。
「まず、60年前の天才達が生み出したこの天使のリアクターと呼ばれてる部品!
正式名称は長いから略すけど、こいつが無限のエネ──」
長くなりそうだなぁ。
そう思った。
「で、だよ!
こいつは更にブースターでかっ飛ばすという無茶苦茶な機構をしてるんだ!
私だって、初めに見た時には度肝を抜いたさ。」
「もう──いいです。
わた──限界──」
我慢した。
だいぶ我慢したよ?
何時──2時間経ってるじゃん。
このスーツについてだけで。
「要するに、神話由来の超エネルギーで電磁浮遊して、それをブースターで飛んでると。
で、ついでに思考を読み取るシステム組んでそれで動くようにしたと。」
「アイリスちゃん、理解が早いね。」
早いじゃなくて──
なんでその技術自体の歴史を語り出すかなぁ?
それも、きっちり作業は進めながら。
「それで、伝導系以外の改修もあるんですよね?
多分。」
「もちろん。」
ルミネさんは手を止める。
カタンと手に持った"それ"を置いて、鎧の方を私に見せてくる。
「とりあえず、関節と腕だけでも補強しておいたよ。
そこばかりは怪我したら継戦が難しくなるからね。」
理にかなって入るのかな?
いやでもなぁ?
「胴体というか心臓周りの方がメリット多いんじゃ──」
全部言い終わる前に、ルミネさんは鼻歌を歌い出してしまう。
それに、気がついたらさっき置いてた"もの"をいじり始めていた。
「さっきから気になっていたんですけど。
なんですかそれ?」
「あぁ、これかい?」
持っていた、その"銃"をこちらに見せてくる。
側面に、赤い文字で"狐火"と書いてある。
漢字……
確か、遠い異星の言語だったよね?
「これは"狐火"だよ!
30年前の骨董品だが、ちょうどこの頃規格が再整理されてね。
現行で動く名作ってわけさ。」
「……"きつねび"じゃないんですね。」
名作かはともかく、名前の方が気になった。
ルミネさんは文字の方を見つめる。
そして"そうだよね〜"と呟いた。
「その時代は資料が焼けたり型式の方で不備が沢山生まれた年だから。
よくわかんないな。
この世界に姿もない国の言語なんて、翻訳する必要あったのかな?って。
私は思うし。」
「じゃあ、なんでその漢字を使ったんでしょうね?」
今、気がついた。
なんというか、ルミネさん。
表情が哀しそうというか。
何かを懐かしむような、そんな顔をしている。
「えっ、なんだって?」
「あっ、いや─」
「そうだった、なんで漢字使ったかだっけ?」
ルミネさんはニコリとする。
純粋な笑顔。
でも、どこか自慢げに見えるところもあって──
「こだわりがあったんだよ。
私のお父さんにも。」
へー……
……お父さん、かぁ。
ルミネさんは、その影響もあってこんな技術職の方面に行ったのかな……
「……お父さん、ですか。」
「アイリスちゃん。
自分のお父さんのことは覚えてる?」
急に、そんな質問を投げかけられる。
それもシンプルに興味の顔で。
「名前も、覚えてないです。
私のお父さんはあまり、家に顔を出す人じゃなかったですし。」
何故か、ここで違和感を感じた。
なんでお父さんは家にいなかったんだろう。
お父さんは私達を愛していた。
その記憶だけは思い出せる。
記憶、だけは──
「そっか。
まぁ、仕方ないよね。」
そう言うとルミネさんは銃の整備に戻った。
その瞬間、懐かしい匂いがした気がした。
鼻の奥をつんざく、金属の──
「まぁ、思い出せたらいい─」
「私のお父さんは……」
息を吸う。
名前も思い出せない。
それは本当。
でも、情景は思い出せたんだよ。
「お父様は技術者でした。」
目の前のルミネさんと私のお父様の影とが重なった。
そんな、気がした。




