7-美容は大切でござるよ?
「今日の夕飯はチャーハンだ。……冷蔵庫に物が無くてな。あり合わせで悪い」
洗面所から出ると落ち着いた静かな声で次郎が料理を机に並べていた。
「気にしないでくれ。こちとらタダ飯恵んでもらってる立場だ。文句なんて言えないし、言うつもりもない。あり合わせでも旨そうだしな」
と、俺が返すと次郎は慌てた声を出した。
「ドライヤーの場所を教えてなかったでござるな! 洗面所の──」
元の口調と明るいトーンに戻った次郎の声を俺は遮った。
「ああ、知ってる。視界に入る場所にあった。でもま、タオルと自然乾燥で十分だろ」
「ダメでござる。拙者が乾かすのでそこに座るでござる」
有無を言わせぬ口調に仕方なく指定されたソファを背もたれにするような場所へ座った。
「髪がある程度長いなら、ドライヤーは必須でござるよ。サボるとハゲたりカビが生える原因になるでござる」
「ハゲにカビか……それは嫌だな。切っちまうか」
風呂の度髪を乾かすのは面倒だからな。
「そんな、もったいない! 折角綺麗な髪なのだから、そのまま育成するでござる!」
「えぇー……それよか飯食おうぜ飯。冷めちまうよ」
チャーハンに目をやって俺は言った。
「あと少し……これでよし。どうせ使ってないと思うでござるから先に言っておくでござるけど、次からはリンスも使うでござるよ?」
「へいへい」
どうせバレないだろうし使ったフリでもすればいいか。
「我が家のリンスは匂いが強いから使わなかったらすぐ分かるでござるよ?」
「エスパーかよ……」
思っていたことをピタリと言い当てられた。
「あと、化粧水と乳液をつけるでござる。お肌のケアは男女問わず必須でござるよ?」
次郎は二つのボトルを取り出し俺に渡した。
「だからお前いつも肌つやつやだったのか」
内心面倒に思いつつ指示通りに化粧水と乳液を塗った。
「それじゃあ夕食でござる」
「ようやくか」
二人で手を合わせ、食事の済んだ後は次郎特製のケーキを堪能した後、久しぶりに二人でゲームをして過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよう、葵」
1LDKの狭い部屋。ベーコンを炒めるかぐわしい匂いで目が覚めた。何回か見た覚えのある天井だ。泊めてもらっている身で昨日に続き朝飯まで世話になるとは、申し訳ない。
俺はもぞもぞと布団を抜け出した。
見ると、次郎は板前やシェフがつけるような下半身だけを覆うエプロンをつけていた。
「おはよう、次郎。朝食まで作ってもらって悪いな」
「一人分も二人分もそう変わらん。さて、できたぞ。ベーコンエッグとトーストだ」
二人分の料理を持って食卓へ運ぶシェフエプロンの屈強で顔立ちの整った男。
うーん、絵になる。
「さて、食べるでござる。いただきます」
次郎は丁寧に手を合わせて箸を手に取った。俺も追って手を合わせ箸を手に取る。
「流石、昨日のチャーハンもだが、料理も上手いな」
「ベーコンエッグ程度で料理の上手い下手は分からないでござるよ」
俺の口が小さくなって食べる速度が落ちたのか、前は一緒に食べると俺の方が早く食べ終わっていたのが次郎が先に食べ終わった。
「ご馳走さまでした、でござる。さて、拙者は仕事の時間故そろそろ家を出たいのでござるが……」
申し訳なさそうに次郎は言う。
恐らくは鍵の問題だろう。
「俺ももう出るよ。泊めてくれてサンキューな」
少ない荷物を持って俺は立ち上がった。
「これくらいなんともないでござるよ」
そう言いながら次郎はドアの鍵を開けた。
「では、拙者はこれにて」
ペコリ、と友人にするにしては大げさな礼をして次郎は右方向──つまりはエンジェルと逆方向へ向かった。
「今の時間は、と……」
スマホで時刻を確認した。時刻は八時ちょっと前。十一時の始業にはかなり早い。
折角だし家に荷物でも取りに行こう。で、今晩は店に泊まらせてもらおう。




