5-流石にあの数には勝てない。戦うつもりもないが
「んじゃ、閉店作業入るから次郎はまた後で」
オープンからラストオーダーまで居座っていた次郎に声をかけて閉店作業を始めた。
「委細承知。裏口前で待っているでござるよー」
敬礼をして会計を済ませ、店を出ていく次郎。ウチの店、結構なぼったくり価格なんだがアイツはよく頼んでくれるし、ウチの店はアイツで成り立っているのかもしれない。
「綾香、閉店作業くらいやってくれ」
客席で煙草を吸っている綾香に文句を言いつつ机を拭いた。
「はいはい。でもそれならあそこの未だにパフェばっか食ってる乳女にも言ってくれない?」
十数個目になるパフェをパクついている咲喜を指して綾香は言った。
「咲喜。片付け始めんぞ」
と声をかけると、
「ふぁーい!」
と元気な返事が返ってきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふう……」
ひとしきり片付けも終わり、客席で一息ついた。
「ねえねえ」
咲喜が近づいて声をかけてきた。
「ん?」
「新しい人? これからよろしくね!」
咲喜は手を差し伸べながら言ってきた。
咲喜は営業中に客にパフェをねだるところと、とある一点を除けばとてもいい子だ。やれば仕事も丁寧だし。
「あー、俺、葵」
かくかくしかじかと説明すると、
「ええー! そんなお薬があるなんて知らなかったー! すごいんだね、お父さん!」
そう、これが普通の反応だ。他の連中が麻痺してるだけで。
「すごいはすごいんだが……」
他人への迷惑を考えない辺り尊敬はできない。
「あ、そしたらこれからはキャストもやるんだよね? 今日もやってたし」
「ああ、そうだな」
「それならねー、接客のコツ、教えるね!」
得意げに咲喜は言った。
確かに咲喜はパフェを食べているとき以外の接客はいい。
「ありがたい。どんなコツだ?」
「ほら、私も葵ちゃんもお胸が大きいでしょ?」
たわわに実った自分の乳を持ち上げて咲喜は言った。
「ああ、そうだな」
俺のは咲喜以上にデカい。おかげでか、今日一日だけで肩が凝った。
「だからね、お皿とか置く時に、お胸を両腕で挟んでお胸の谷間をギュッってすると皆嬉しそうにするんだー。それで常連さんになってくれた人もいるし」
言いながら実演してくれる咲喜。
これは確かに威力が高いな……
「オッケー、分かった。確かにこれは男にとっちゃ最高の眺めだ」
俺が答えると、
「ねね、ちょっとやってみてよ!」
実践するよう言われた。
「今か? あー……分かった」
キラキラした純粋な目で見つめられると断れなかった。
「ええと……こう、か?」
なんだか気恥ずかしい。しかしそれを押し殺して胸をギュッと寄せた。
「そうそう! じょーずじょーず!」
咲喜は俺の頭を撫でた。
「やめてくれ、恥ずかしい」
俺がその手を払いのけると、
「あっ、ご、ごめんね……」
少し悲しそうにする咲喜。そして、
「咲喜お嬢様が傷ついているぞ!」
「取り囲め!」
黒のスーツにサングラスをかけた男数人が一瞬で俺を囲んだ。
……そういえば咲喜に関わるとこうなるのだった。
「皆、メッ! これくらいなんともないよー! 葵ちゃんに何かしたらパパにいいつけるからね!」
そう、これが欠点その2。咲喜の父親は大企業の社長で、咲喜はかなり過保護に守られている。それこそ、周りに黒服が数人常駐するくらいには。それがまあ過保護過保護。これくらいで取り囲まれちゃ客はたまったもんじゃない。人気はあるものの、少しでも入れ込むとこれのせいで客足が遠のいてしまう。困ったものだ。ちなみにその父親はその中で金融屋もやっているらしく、雄二の借入先でもあるらしい。
「お、お嬢様がそういうのなら……」
おずおずとこの場を離れる黒服達。
「もう、皆カホゴだよねー。それにしても可愛くなったね! 前の姿もカッコよかったけど、今の姿も可愛くていいと思う! 改めて、これからもよろしくね、葵ちゃん!」
再び手を差し伸べる咲喜。
「ああ、よろしく」
俺はその手を取って握手をしたのだった。




