4-そう、今の俺はキャスト
「はあ。分かった、配膳してくるわ」
次郎の待つテーブルまで料理を運び、ケチャップを片手で持ち思いっきり次郎を睨みながら俺は言った。
「テメエのハートに萌え萌えキュン、だ」
言い終わると同時にケチャップのボトルを握り潰す。当然、皿の上はケチャップまみれになる。
「おお! ご奉仕の『ご』の字もない呪文、素晴らしいですぞ! 拙者興奮でケチャップの塩分を摂取する前から血圧急上昇でござる!」
興奮した顔の次郎。……なんでコイツと友達になったのか不思議になってきた。
「さてと、パフェだパフェ。んー、ウマい! 次郎の作ったやつには負けるけどな」
ソフトクリームの糖分で脳から快楽物質があふれ出るのを感じる。やっぱり甘味は正義だ。
「おっ、早速おねだりで売上に貢献? やるじゃない葵ー」
俺が甘味に夢中になっているとお袋の声が降ってきた。
「おねだりって……もう少し言い方ないのかよ」
実際間違っちゃいないんだが。
「でも食べてサボりは感心しないわねー。さ、もっと働きなさい」
いい年して他のキャストと同じ衣装に身を包んだお袋は言った。これでスタイルも容姿も若くて似合うのだからまた困る。
「はいはい。だが、それは先輩キャストにも言って欲しいんだが?」
現在進行形でサボっている二人に目をやって答えた。
「言ってはいるんだけどねえ。ほら、他人を変えるのって難しいじゃない? それなら身内を変えた方が楽かなって」
「だからって性別まで変える奴がいるか!」
正しいことを言っているようで滅茶苦茶言ってるぞこいつ。
「まあまあ。あ、お客様よ。お帰りなさいませご主人様ー」
愛想よく入ってきた客に挨拶をするお袋。メイド喫茶で働く母親を見るヤツなんて俺くらいだろうなあ……
「お、お帰りなさいませご主人様……」
入店した人相の悪い男二人に形式上頭を下げる。それなりに長くセキュリティをやってきたから分かるが、こいつらは高確率でトラブルを起こす。
「ほら、とりあえずお冷お持ちしな葵」
お袋が肘で俺を小突く。
「はいはい。水、水と……」
キッチンの冷蔵庫から水のボトルを取り出しコップに注いだ。それを持って男達の近くまで行くと、男の一人が転ばせようと足を出してくる。だが、それを予見していた俺はその足を思いきり踏む。
「おおっと、申し訳ありませんご主人様。あまりにもお客様の足が長いので踏んでしまいました。それとこちらお水になります」
「痛って! お前、客の足踏んでそれだけか!?」
予想通り憤る男。
「おめーが足引っ掛けようとするのが悪いんだろうが。どうせそれでいちゃもんつけてどうこうしようって魂胆だろ。んなもん丸分かりなんだよ」
「そんな証拠、どこにあるってんだ。言いがかりもはなはだしい」
盗人猛々しいとはこのことか。未遂なのをいいことに強気に出る男。
「うるせえな、文句があるなら出てけ。それとも痛い目見てえか?」
いつも通りの態度で言うと、
「痛い目って、こんな細い腕で俺たちに何ができるってんだよ」
嫌な笑いを浮かべて腕を掴まれた。
そうか、今までは見た目で威圧できたが今日からはそうもいかないらしい。だが今の俺はキャストだ。
「今、触ったな?」
掴まれた腕を分かりやすいよう上にあげた。
「あ? それがなんだってんだよ」
自分がやった事の重要性を理解していない男。
「当店、お触りは禁止となっています。違反した場合は退店してもらうこととなっているので」
腕を思いっきり引き下げ男を床に引き倒し、
「さっさと出てけスケベ野郎」
男の顔がある場所の真横を思いきり踏みつけて言った。男は青ざめていた。
「お前、こんな女に何負けてんだよ。ほら見ろよこの肩幅。俺の半分くらいしかないんじゃねえか?」
片割れが笑いながら俺の両肩を掴んで引き寄せた。
「だから」
俺は頭を後ろに引き勢いをつけ、
「触るなっつってんだろ!」
思いきり頭突きをかました。
「ぬあっ!」
男は椅子に向かって倒れ込み、店は騒然とする。
「さっ、出口はあちらになりまーす」
悶絶する男と未だ青ざめている男の首根っこを掴んで引きずり、店外でポイッと投げた。
「次来たら玉ァ潰すかんな。覚悟しとけ馬鹿野郎共」
そう言い残して俺は店に戻った。すると次郎が声をかけてきた。
「葵氏、大立ち回りでござったな! しかし羨ましい。最初の男は恐らくパンティが見えたでござろうし、二人目の頭突きも捨てがたい……拙者もお触りすればやってもらえるでござるか?」
「出禁になってもいいならどうぞ」
「それは困るので自重するでござる」
即答だった。




