2-ヤニカスのサディスト
「女物の服ってよく分からねえ……」
アパレルショップ?の前で二人それぞれ腕を組んでガラス越しに服を眺める。
「ひとまず店内に入れば解決するのでは? 店員殿に聞けば諸々解決でござる!」
そう言うとすぐに俺の手を引き店内に向かう次郎。
「ちょ、ちょっと待て! 俺にも心の準備ってもんが……」
「案ずるより産むが易し、でござる!」
店内に入ると暇そうにしていた店員が近づいてくる。普段なら普通に店員の案内に従うところだが、今は状況が違う。
「どのような服をお探しですか?」
「ええと……」
店員が話しかけてきた。しかしながら女物の衣類の知識皆無の俺は口ごもる。
「パンツスタイルで動きやすいものを。少しセクシーさも欲しいですね」
次郎が場をわきまえて普通の喋り方で話した。ちゃんとした場所ではちゃんとした言葉遣いをするのだ、こいつは。
「分かりました。いくつか見繕ってきますね」
そう言うと店員は店の奥に引っ込む。
「……助かった。だがセクシーさはいらねえだろ」
グリグリと次郎の足を踏みつける。
「ぬぅはっ! いいですぞ葵氏! もっと強く!」
そんなことをしていると店員が戻ってきた。
「いくつか試着してみて決める形でよろしいですか?」
「あ、ああ、はい」
言われるがまま試着室に連れていかれる。
「セクシーさを、とのことでしたのでトップスは胸元の空いたニット。ボトムスはホットパンツをご用意しました。かなりスタイルがいいのでお似合いになるかと」
店員はいくつかの衣類を渡してカーテンを閉めた。とりあえず着てみる。
ええと、このめっちゃ短い半ズボンみたいなのと……上はなんだこれ。谷間が丸見えじゃねえか。ついでにへそも。そしてしばしの間、鏡を見る。これまた複雑だが、似合う。中々にセクシーでケツを追いかけたくなる女だ。
「着ました」
恐る恐るカーテンを開けると、
「おお、いいじゃねえか葵! これ、買います。着てくんでタグ取ってもらっていいですか?」
次郎がすぐに声を上げた。
「おいお前、そんな勝手に……」
「いいから。金は払っとく。どうせ持ち合わせなんて無いだろ?」
痛いところを突かれた。飛び出すように家を出てきたので財布は家だ。
「……サンキュー」
静かに礼を言って会計をしてもらい、店を出た。
「いやあ、こんなセクシー女子と一緒に歩けるなんて至極ですな!」
「お前ならその気になればいくらでも付き合えるだろ」
コイツはこれで真っ当な仕事についている上、容姿も整っている。その気になれば彼女なんていくらでも作れそうなものだが。
「それが、拙者の性癖を理解してくれる女性は少ないのですなあ」
やれやれと苦笑する次郎。
「まあ、確かに」
金髪に褐色肌というイケイケな見た目であるが故ドMというギャップが悪い方向に作用している。
「さて、エンジェルに向かうでござる!」
意気揚々と前を歩く次郎。その背中に俺は声をかける。
「なあ、前から思ってたんだが、その変な口調は何なんだ? 使い分けているようにも見えるが」
「これでござるか? 奇妙な口調で引かれるのが心地よいのでござる。それはそれとして他人に迷惑をかけるわけにはいかぬ故、状況によっては普通の言葉を使うでござる!」
「……なるほど」
コイツらしい理由だ。納得してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後も無駄話をしながら歩いているとエンジェルへ着いた。いつも通り
裏口から入ろうとすると後ろから声をかけられた。
「こっち、裏口。客なら表から入ってよね。そこの豚に案内して貰えば?」
振り返らなくても煙草の匂いで分かる。加崎 綾香。ニコチン中毒でサボり魔のどうしようもないキャストだ。
「あー、俺だよ。龍ヶ崎 葵。親父の薬でこんなんになったから、今日からキャスト兼セキュリティだ」
「おお、綾香嬢! 今日も美しいでござるな! おみ足のラインが素晴らしい!」
そう言って拝む次郎。
ウチの制服はお袋の気まぐれで変わることがある。今日はチャイナドレス風の、ロングだけどスリットの入ったメイド服だ。
「キモいんだよ豚が。それなら葵はこっち。豚は表から入って」
低い姿勢で拝む次郎を蹴り飛ばしてから煙草の火を消して裏口の扉を開く綾香。
「ありがとうございます! それでは拙者は表から入るでござる。葵氏も頑張るでござるよ!」
「……おう」
あんまり頑張りたくはないのだが。親友の激励を無下にするわけにもいかずこう答えた。




