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1-女体化への答えはサボタージュ

 朝。いつも通りの起床時間、いつも通りの部屋。だが、胸のあたりに重みを感じるいつもと違う朝。なんだか長い髪がまとわりついて──

「いてっ」

 引っ張ると、頭皮に痛みを感じる。どうやらこれは俺の頭から生えているらしい。胸を確認すると柔らかな感触。まるでそう、女の乳のような。

 まさかと思い下半身を確認すると──アレはなかった。

「……また親父の仕業か」

 俺の親父は薬学の権威だった。過去形で示したのは、適当な性格と度を越した女好きが災いして学会を追放されたからだ。その後も不思議な作用を持つ薬を作っては俺を実験台にしている。だが、今回のは質が悪い。まさか女体化薬を盛られるとは。

「おい親父! どうしてくれんだこれ!」

 階段を駆け下り、いつも親父が籠っているラボのドアを叩く。

「おはよう葵。おお、流石は僕。好みの爆乳美女に仕上がっているね」

 ドアを開きうんうんと一人勝手に頷く親父。

「元に戻せるんだろうな?」

 俺が聞くと、

「もちろん。しばらくはそのままでいてもらうけどね。それにしてもいい乳をしている」

 親父が不意に胸を触る。その感触が不快で、

「ぶち殺すぞ!」

 渾身の右ストレートが綺麗に親父の顎に入り、やせ型の親父は綺麗に吹っ飛んだ。……どうやら筋力はそのままのようだ。

 気絶してピクピク動く親父をよそに俺は洗面所で鏡を確認した。そこには金髪ロングの爆乳美女がいた。……複雑だが、タイプだ。まあそんなことはいい。朝飯を食いにリビングへ向かった。

「あら葵。予想していたより可愛く仕上がったわね」

 お袋が当たり前のように対応した。

 ……やはりウチの家は少しおかしい。

「ああ、それは最高だ」

 皮肉たっぷりに言い返してキッチンに立つ。ウチの家は自分で食べるものは自分で作る決まりだ。今日は──面倒だし米と目玉焼きでいいか。

 サクッと飯を作って席につくと、お袋が話しかけてきた。

「あ、そうそう。人手不足だしメイド喫茶は今日からキャストとしても出てもらうから。時給上がるから頑張って」

「はぁ⁉ 女にされた挙句男の相手までしろってか⁉ あんな服を着て⁉」

 元々俺は喧嘩で鍛えた腕っぷしを買われてお袋の経営するメイドカフェでセキュリティをしていた。それがキャスト兼セキュリティになるとは。滅茶苦茶すぎる。

「まあまあ。ウチ、結構緩いのは知ってるでしょ? 自由にやってくれて構わないから」

「ンなこと言われても……」

 接客を見てきたとはいえ実際にやるのと見るのは別だ。

「ま、そういうことでー。あたしは先店行ってるからいつも通りの時間に来てねー」

 そう言うと俺の返答を待たずにお袋は出て行ってしまった。

 ……この朝だけで、俺がグレた原因が分かる気がする。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ったく、メイド服なんてぜってー着ねえ。サボりだサボり」

 親友の次郎に事情を話して家へ入れてもらうことにした。安アパートの一階の扉をノックし、ドアが開けられるのを待つ。女体化薬を飲まされたと言っただけで納得される辺り、やはりウチの家は異常だ。

「そんなこと言わずにー。拙者は葵氏のメイド服姿を堪能したいでござるなー」

 コイツはイケメンで細マッチョ、高身長とモテそうな外見に反し、どこで覚えたのか奇妙な言葉回しをする。そして、

「おめーまでウチの両親の肩持つのか?」

 と、軽く蹴りを入れると、

「あふぅんっ! もっと強く蹴ってもいいですぞ葵氏!」

 ドMである。喧嘩の強い戦友ではあるものの、こういう面には少し引く。

「あークソ。しかしあれだな。いつまでもダボダボの男物じゃ少々恰好がつかねえな。次郎、買い物付き合え」

「その後エンジェルに行ってもいいのならば、ご一緒するでござる」

「そこに行きたくねーからここに避難したんだろうよ」

 メイド喫茶エンジェル。俺の職場だ。行けばメイド服を着せられ接客に回されるだろう。嫌だ。嫌すぎる。

「しかし、それでは拙者の100週連続来店の目標が……」

 そう。コイツはウチの店のヘビーユーザーで勤め先が休みの水曜日は毎週欠かさず来ている。

 その時、俺の携帯が鳴った。お袋からだ。

「遅刻よ葵ー。出勤しなきゃ元に戻す薬作らないからねー」

 時刻は十一時十分。十一時出勤なので、確かに遅刻だ。

 出勤したくはない。しかし……元に戻れないのは困る。

「分かった。もう少し遅れるけど行く。次郎、服買って店行くぞ」

 ため息を一つついて次郎に声をかけた。

「了解でござる!」

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