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10-この服、マジで脱ぎ着しづらい

 検証が必要だ。

「綾香、開店準備終わったか?」

 俺が問うと、

「終わったよ。何か用?」

 相変わらず突き離すような口調で答えた。

「ちょっと腕相撲の相手してくれ」

「はぁ? 嫌だよ、負けるに決まってる。手を繋ぎたいだけの口実じゃないの?」

「そう言わずに。これは店のセキュリティに関わる重要な検証なんだ」

「……分かった、一回だけね」

 俺の真剣な眼差しが効いたのかは分からないが、綾香は了承してくれた。

 今度もせーので始める。が、拮抗した。しばらく一進一退の攻防を繰り返したのち、辛勝した。

「アンタ……手加減した? やっぱり手を繋ぎたかっただけじゃ──」

「いや……全力だった。むしろ綾香は筋トレとか……」

「してるわけないじゃん。腕太くしたくないし」

「だよな……」

「それにしても……妬ましい」

 綾香は何やら呟いた。

「何がだ?」

「なんでもない」

 そうは言うものの綾香の目線は俺の胸に注がれていた。

 そういうことか。今日の衣装は胸が大きい方が映える。綾香はスレンダーだから、こんなセリフが出たのだろう。 

 しかし、拮抗したということは必然的に、俺の筋力が落ちてるということに……?

 これは大問題だ。メイド喫茶という店舗形態上、エンジェルでは昨日のようなトラブルが絶えない。だからこそ俺みたいなのが雇われていたのだが……それが機能しないとなると店としてかなりヤバい。

 お袋に報告だな……


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 今日は運のいい事に目立ったトラブルもなく閉店まで営業した。

 閉店業務を終え、俺はお袋のいる事務室兼休憩スペースに向かった。

 休憩スペースでは着替えた綾香が煙草を吸っていた。

「あー……やっぱやめられないわ、煙草……」

 数時間の禁煙明けで呆けた顔をしながら綾香は椅子にグデーッともたれる。

「お袋、少し話がある」

「うん? どうしたの?」

「俺の筋力が……弱ってる可能性がある」

「……ふむ。具体的に何で分かったの?」

 俺の真剣な眼差しにお袋も真剣な声で言った。

「まず看板が重かった。それで咲喜と綾香と腕相撲をしたんだが、とても元の筋力とは思えない結果だった」

「なるほどねえ。まあ、体が順応してきたのかもしれないわね。新しいセキュリティ探さなきゃかしら……キャストと違ってセキュリティは信用できる人物がいいんだけれど」

「キャストも信用できる人物の方がいいと思うけど……」

 それがこの結果か……

「まあ事情は分かったわ。これからは純粋にキャストとして働いて頂戴。時給は少し下がるけどね」

「時給下がるのか……」

 俺はガックリと肩を落とした。

「しょうがないでしょ。役割が減ったんだから。それより葵、昔の喧嘩仲間とかで信頼できる人っている?」

「喧嘩仲間ぁ?」

 俺の相棒は次郎だけだ。他の奴らとはつるんでいなかった。

「次郎君は腕は立つようだけどちゃんと仕事してるしねえ」

「ああ。んで、他に喧嘩関係の知り合いはいねえぞ」

 ぶちのめした相手なら山ほどいるけど。

「困ったわねー……まあいいわ、とりあえず帰りましょう。着替えて裏口に来て」

 頬に手を当てお袋は言った。

「あいあい」

 雄二に着替えることを伝え、俺はまたメイド服と格闘した。

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