表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/12

第8話「それぞれの十二月」


クリスマスイブの前日、悠は珍しく街に出た。


目的はひとつだ。


「……何がいいかな」


雑貨屋の前で立ち止まって、悠はウィンドウを眺めた。クリスマスの飾りが並んでいる。マグカップ、ポーチ、キャンドル、文房具。


重くないもの。かさばらないもの。でもちゃんと喜んでほしいもの。


条件を頭の中で並べてみると、意外と難しい。


悠は店に入った。


ひなはどういうものが好きだろう。明るいもの、かわいいもの、実用的なもの——全部当てはまる気がして、絞れない。そもそも自分はこういうことが得意ではない。施術の道具なら迷わず選べるのに、プレゼントとなると途端に自信がなくなる。


「いらっしゃいませー!何かお探しですか?」


店員に声をかけられた。若い女性だ。


悠は少し間を置いてから、「二十歳くらいの女性に、クリスマスプレゼントを考えていて」と言った。


「あ、彼女さんですか?」


「……スタッフです」


「スタッフさんへのプレゼントですね!予算はどのくらいですか?」


「重くなりすぎないくらいで」


「重くなりすぎないくらい、ですね」店員が少し首をかしげた。「金額で言うと?」


「……気持ちが重くならないくらいで」


「あ、ちょっとしたものですね!」


店員が雑貨のコーナーへ案内してくれた。悠はそれを見ながら、ひとつひとつ手に取った。


これは違う。これも違う。これはちょっとかわいすぎる。これは実用的すぎる。


「お相手の方、どんなものが好きですか?」


「……明るいもの、かな。甘いものも好きで、よく食べる。動きが多い人で、よく何かにぶつかる」


「よく何かにぶつかるんですね」


「はい」


店員がふわっと笑った。「じゃあこれとかどうですか」


差し出されたのは、小さなポーチだった。明るいオレンジ色で、内側がクッションになっている。


「ぶつかったりしてもスマホとかが守られるポーチで、かわいいし実用的ですよ」


悠はそれを手に取った。


オレンジ色。なんかひなに似合いそうだ。


「……これにします」


「ありがとうございます!ラッピングしますか?」


「シンプルなので」


「かしこまりました!」


悠はポーチが包まれるのを待ちながら、店のウィンドウの外をぼんやり眺めた。


街はクリスマスの人で賑わっている。カップルが多い。家族連れも多い。


自分は今、バイトの子へのプレゼントを選んでいる。


それだけのことだ。


「お待たせしました!」


紙袋を受け取って、悠は店を出た。


---


同じ日の午後、ひなと結衣は街を歩いていた。


「先生に何買えばいいかな!!」


「え、先生に?」結衣が振り返った。「プレゼントするの?」


「クリスマスだし!でも重くないやつ!ちょっとしたやつ!さりげないやつ!」


「さりげなく先生へのプレゼントを用意するわけだ」


「うん!!あ、でも渡せるか自信ないけど!!」


「渡せなかったら意味ないじゃん」


「渡す!渡すけど!なんか照れるじゃん!!」


結衣がにやにやした。「好きな人へのプレゼントだからね」


「ちがーう!!お世話になってる先生へのちょっとしたお礼!!」


「はいはい。何買うつもりなの」


「それを考えてるの!!先生って甘いもの好きじゃん!でも食べ物って消えもので、なんか残らないし——でも物だと重いし——」


「難しい悩み方するじゃん」


「そう!難しいの!!」


二人で雑貨屋の多い通りに入った。ひなが次々と店を覗く。


「これかな!コーヒーのやつ!先生コーヒーにこだわりあるから!」


「どんなこだわりがあるの」


「豆から挽くし、お湯の温度とか注ぎ方とか——カップも決まってて——」


「詳しいじゃん」


「仕事で見てたら自然と!!」


「コーヒー豆は?」


「豆は重くない?」


「消えもんだし重くないかな!でも好みがあるし——先生の好みよくわかんないし——」


「先生のコーヒーの好みはわかんないの?」


「わかんない!甘いもの以外の好みはあんまりわかんないんだよね!」


「甘いものの好みはわかるの」


「コンビニのプリンが好きで、バターサンドは冷凍一時間派で——」


「ひな」


「なに」


「それ、好きな人のこと以外の何でもないよ」


「うるさい!!」


ひなが足を止めた。小さな雑貨屋の前だった。ウィンドウにシンプルな雑貨が並んでいる。その中に、手のひらサイズのアロマストーンが見えた。


「……あ」


「どうした」


「先生、サロンにアロマのディフューザー使ってるんだけど、たまに気分で香りを変えてて——でも自分で使うアロマストーンは持ってないって言ってて——」


「それ、いつ聞いたの」


「なんとなく話してたとき!」ひなが店に入りながら言った。「これいいかも!!シンプルだし、ちょっとしたものだし!!」


店の中を見ると、陶器のものと木製のものが並んでいた。木製のひとつに、蓮の花の模様が彫られているものがあった。


ひなは迷わずそれを手に取った。「これだ!先生に似合う!」


「即決じゃん」


「似合うんだもん!!」


「好きな人へのプレゼントを秒で決めるじゃん」


「だからちがーう!!」


ひなはアロマストーンをカウンターに持っていった。ラッピングをお願いしながら、なんか心臓がうるさいなと思った。渡せるかな。渡せるといいな。喜んでくれるといいな。


——喜んでくれるといいな、って思ってる。


「……あれ」


「どうした」ラッピングを待ちながら結衣が言った。


「なんか、喜んでほしいなって思ってる」


「当たり前じゃん、プレゼントだから」


「そうじゃなくて——先生に、特別に」


結衣が何も言わなかった。ただにやにやしていた。


「うるさい!!」


「何も言ってないよ」


「顔が言ってる!!」


---


ひながラッピングされたアロマストーンを受け取って店を出た。


その三分後、悠がその店の前を通った。


ウィンドウに並んだアロマストーンを見て、少し立ち止まった。


……ひなちゃんに合いそうだったな、あれ。


でももう買ったし。


悠は歩き続けた。


---


仕事始めの日。


ひなが開店前にサロンに入ると、悠がいつも通りコーヒーを淹れていた。顎鬚がうっすら戻り始めている。


「おはようございます!!」


「おはよう。お休みはどうだった?」


「楽しかったです!結衣の家で鍋して——先生は?」


「静かに過ごしたよ」


「クリスマスのサロン、LEDライト点けっぱなしにしてたりしました?」


「……少しね」


「やっぱり!!」ひなはコートを掛けながら、鞄をごそごそした。「先生、あの、これ」


小さな包みを差し出した。


悠が振り返った。


「クリスマスのやつ、遅くなっちゃいましたけど!重くないやつなので!!」


「……ありがとう」悠が包みを受け取った。「開けていい?」


「どうぞ!!」


悠が丁寧に包みを開けた。木製のアロマストーンが出てきた。蓮の花の模様が彫られている。


「……」


「シンプルでしょ!自分用のアロマストーン持ってないって言ってたから!ちょっとしたやつで——重くないやつで——」


「ひなちゃん」


「はい!!」


「ありがとう。嬉しいよ」


「よかった!!」


悠がアロマストーンをカウンターの端に置いた。じっと見て、「ここに置こうかな」と言った。


「あの」と悠が続けた。「俺も実は」


カウンターの下から、小さな紙袋を取り出した。


「遅くなったけど」


ひなが受け取った。開けると、オレンジ色のポーチが出てきた。


「……かわいい!!」


「スマホとか入れるやつで、クッションになってるから——よくぶつかってるから、どうかなと思って」


ひなはポーチを胸に抱えた。


「……先生、私がよくぶつかるの知ってたんですか」


「知ってるよ。入ってきた初日から」


「……恥ずかしい」


「かわいいよ」


ひなが固まった。


悠も少し止まった。


「……ポーチが、っていう意味だよ」


「わかってます!!」


「そう」


「わかってます!!!」


二人の間に、アロマの香りが漂った。BGMが低く流れている。LEDライトがカウンターの端でやわらかく光っていた。


今日もお読みいただきありがとうございました!


次回は明日の21時頃に更新予定です。


【読者様へのお願い】

少しでも面白いな、続きが気になるなと思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ