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ロリコン勇者の再就職  作者: 音無 奏
旅立ち編
30/40

エピローグ

「何で止めなかったんですかっ! 先輩!」

 と、忍は輪廻に掴みかかった。

 その力は尋常じゃなく強い。

 細い腕一本で、あっさりと人一人を持ち上げているのだ。

 輪廻は珍しく自分が責められる立場になって、やれやれとばかりに視線を逸らした。


(ま、こうなるわな――はー、こりゃあ、駄目かもしれんで、陣君ー)


 輪廻は徐々に首が絞まり、息苦しくなる感覚を味わいながら暢気にそう考える。


「まあ、落ち着きーや、忍ちゃん。あの子なりに考えての行動やったってことは忍ちゃんならすぐ分かるやろ?」

 輪廻の言葉に忍は黙る。

 だがその腕は未だに輪廻を抱え上げたままだった。

 忍は陣の考えなど考えるまでもなく分かる。

 彼が勇者を殺した時点で、セリアを助けるだろうことも分かったし、その結果王国から立ち去ろうとすることも思いつきはする。

 陣が忍やゲー研の仲間達を巻き込むわけにはいけないと思っていることも理解できる。


 だけど、ふざけるな、と言いたい。

 なんか新しい女の子引き連れて去って行ったとか聞いてるし、何処に行ったかも連絡をくれないし、一言も相談してくれないし、そんなんで納得できるはずがない。


「私――陣君を探しに行きます」

 忍は輪廻から手を放すと、迷いなく断言した。


「あかんで――せっかく陣君が一人で背負い込んで、争いごとを嫌う忍ちゃんや、競技者としてでしか剣を振れない天ちゃんを、王国という隠れ蓑の中に置こうとしてくれてるんやで? わかっとるやろ、それくらい?」

 知っている。

 彼は誰よりも優しい。

 それくらいはいつも考えて動いていることも知っているし、本番に弱い私の代りに周りを取り成して、積極的に行動してくれることも知っている。

 だけど、忍は何時までも甘えているだけではいたくなかったのだ。


「それでも――」


「駄々捏ねて、何処に探しにいくっちゅうん? 彼の転移先が分かるって言うん? 当てもなく、地理にも疎く、交通機関も碌なもんがないこの世界の中で、どうやって探すんや? 忍ちゃんがここで待ってたほうが、陣君に会える可能性は高いと思うで?」

 容赦ない輪廻の正論にも、忍は怯むことはない。

 それくらい、忍にだって理解できているのだ。

 だけど、それでも、陣を一人で――正確にはセリアとか言う小娘と複数の少女の傍に置いて置きたくない。それは醜い嫉妬かもしれないが、紛れもない忍の本音だ。

 

「それでも――私は行きます。陣君の隣は私です。何時までも、脅えてばかりで前に進まない自分を今、変えます。それに、私だってちゃんと考えてますから!」


 これは、駄目だ、と輪廻は首を振る。

 乙女心を抱く少女の情熱は、やはり止められないか、と思い、最後の悪あがきとして言っておく。


「ああ、そういや陣君が、もし俺を追ってくるようなことがあったら、あのことをばらすって言ってたけど、ええん?」

 と、そのたった一言が、忍の表情を青ざめさせた。

 これが俗に言うレイプ目か、ハイライトが消え失せた瞳は中々に不気味だと輪廻は思う。


「べ、べ、べ、べ、別に…………その、大丈夫、です…………」

 と忍は言うが、誰がどう見ても大丈夫じゃない。

 まるで走馬灯のように、葛藤が駆け巡っているのか、虚空に向けた視線と溢れ出る冷や汗が、可愛らしい忍の姿を台無しにしていた。

 

「そんなやばいことなん? 忍ちゃんは、あんまし性癖とか暴露せーへんし、なんかおもろくて刺激的なことなら今度陣君に聞こっかなー」


「や、止めて、お願いッ!」

 思わず敬語さえなくして掴みかかる忍の必死さに、輪廻は一層興味がそそられる。

 この可愛らしい顔を見て思わず体が欲情してしまいそうになりそうだった。

 今度、絶対に陣に聞こうと思いながら、輪廻は口では分かった、分かった、と答える。


「と、と、と、とにかく、私は行きます! 武器も貰いましたし、技術も身につけました。地理に関しては、イリーナを頼ろうと思います」

 忍はそれでも、王国を出るいう意思を曲げない。

 ならば、輪廻は、もう止める事を諦めた。


「決意は変わらず、か。頑張り、忍ちゃんならまず大丈夫やとは思うけど、何かあったら、結晶で逃げること、先輩との約束や、守れる?」


「はい、必ず」


「ならよし、しっかり準備して、あの騎士っ子にもお願いするんやで」


「はいっ!」


 と駆け出していく背中を、輪廻は少し寂しそうに見つめた。

 

「皆成長していくなー、お姉さんは寂しいわー。陣君に遠慮して忍ちゃんには手つけんかったけど、勿体無かったかなー」


 なんて輪廻の独り言が部屋に響く。


「うちも、ぼちぼち動こうかー」


 そうして、勇者達が動き出して行く。











「ひーっ、おっかねーな。あれが紅玉宮の悪魔かぁー、三十六系逃げるにしかず、って、まああっさりばれちったけど、見逃してくれるっぽいよなー」

 男は愉快そうに、森の中へ移ろっていく。


「しっかし、黒髪黒目、あれが天の尖兵ね。個人的には同郷者に挨拶しときたい所だが、今は報告が先か、残念残念」

 軽薄そうに見えて、喋りながらもその姿は誰にも見られることはない。

 周囲にいる凶悪な魔物は察知できず、嗅覚や五感に自信があるであろう獣人ですら、その魔族を確認することはできなかった。


「我らが魔王様はどう動くのか――まあ下っ端の俺が考えることじゃねーか。それにしたって、流石は異世界、上には上がいると、この俺も思い知った、いやーいい経験ができたねー」

 男は別に独り言を言っているわけではない。

 ただ、隣にいる少女が答えを発していないだけなのだ。


「何とか言ってよ、もう、これだからクーデレさんは」


「――――死ね」


「ひどいっ!」

 そう言いつつも、全然そんな感情は見せていない。

 むしろいつも通り、ふざけきった顔だった。

 そんな顔を少女は見たくもないのか、先先足を進めていく。


「ああ、待ってよ、キリエちゃーんっ!」

 灰被りの森に影が二つ。

 それはゆっくりと闇の中へ溶けていく。










 



 王国は今、滅亡の危機にある。

 そう認識できている人物は、恐らく王族の中ではフィリアだけであろう、とレイノード八世は思う。


 此度の一件で、勇者に対する見方も大きく変わる。爆炎が引き起こした問題の不信感、他勢力を導入して帝国への対抗とすることへの疑問、私利私欲に振舞う貴族と王族、そして何より後継者がいない今の現状。

 

 悩みの種は国内に留まらない。

 新参の魔王は好戦的だ。

 故に、カディルを含む北の地は、あっさりと奪い取られた。

 爆炎と嵐帝がいなければ、王国はどうなっていたか、分からない。

 被害を受けてなお、曲りなりにも、ここ数年で王国が豊かになった部分があるのはフィリアのおかげだ。王としての器も十分。だが、その身が女である以上、王とは認めることはできない。

 それが口惜しくて仕方ないが、慣習を破れば、民の反発は必死。

 戦場で活躍もしていない者を女王にするなど、誰もが反発することであろう。

 

「ワシが死ねば――国は荒れるか――」

 

 北の砦が落とされ、ただ敗戦だけを重ねる王国は、勇者を使って魔族を狩る、か。


「これが――――神が――いや、天が望んだこととすれば、ワシは――」


 レイノード八世は自らのベットに身を預けながら、己の情けなさを恥じる。

 普段は誰にも見せない、はずの弱々しい表情を、血と共に口から吐き出した。


「帝国も動き始め、魔族も動き、王国は縋る、か――」

 行き着く先は、と考えて、レイノード八世は思考を止めた。

 ベットに横たえるこのみが、今は一秒でも長く生き残れるように、王は静かに目を閉じた。

 








 下弦の月が明かりを運ぶそんな夜に、俺の眠るベットへと、侵入してくる者がいた。


「セリア?」


 セリアは輪廻先輩が袋に入れていた、可愛らしい寝巻きを着込んで、ベットの中で、もぞもぞと動き、顔を出す。


「眠れ、ないです。一緒に寝てもいいですか?」


 断わる理由は何処にもない。

 足元では既に、リリーが尻尾を丸めて寝ているので、声を落としながら俺は答える。


「勿論歓迎するさ――」

 綺麗な寝具は多くは残っていなかった。それもそうで、何百年も前の家財など、風化が激しいのは当然だろう。紅玉宮の腐敗防止がかかった数組の寝具は全て子供に渡して、俺は、輪廻先輩が用意してくれた綺麗な掛け布団をリリーに渡したのだが、俺も一緒に寝るの、と言い出して、仕方なくこの現状になっている。

 だが、いい布団を子供達に渡せるので、これはこれで満足なのだけれど。


「…………」


「――――」 


 無言が続き、セリアは眠ったか、と思ったが、


「ジン、私は間違っていたのでしょうか?」


 とセリアが尋ねてきた。


「気分がすっきりしないです――あれだけ憎かったあの男を殺しても、全然心が晴れないです――むしろ不安で、母様も父様も何も言ってくれない今が不安で――私はどうすればいいのでしょうか……」

 復讐がどうなのかは分からないが、人を殺した後は、やはり良い気分にはなれない。

 最初に忍を助けたあのときも、こっちに来て、誘拐犯を殺したときも――

 だから、セリアの気持ちも、少しは分かる。


「忘れようと努力するか、向かい合おうと努力するか、人の死への対応は俺はこの二つしか知らない。多分、乗り越えるだとか、受け入れるだとか、そういうのは難しいと思うよ」

 少なくとも、俺にはできなかった。

「ジンも……ジンも知らないのですか?」


 とセリアは言うが、俺はそんな期待されるほど素晴らしい人間ではない。

 極々普通の一般人が、必死に生きようと努力して、今の俺がいると自分では思っている。


「知らない事だらけだ。でも――」

 俺はセリア引き寄せ、淡い金色の髪をそっと撫でてやる。


「セリアはこうされると安心するのは知ってる。だから、こうして俺は精一杯今のセリアを肯定してやる」


「んっ、ジン、もっと――」


 役得だしな。

 今日も今日とて、俺は恵まれている。

 今はこの幸運を胸に、眠ろう。




これで、第一章旅立ち編はおしまいです。ここまでお付き合いして下さった皆様、ありがとうございました。


続きは、一応書く予定なんですが、七月終わるまでは忙しいので、今までの誤字脱字の訂正や、最後の方慌てて書いた部分の修正なども、それまでは中々できないと思うので、更新はそこそこ遅くなると思います。


最後に、色々と不完全なまま投稿してすみませんでした。次はもう少しだけしっかり書きたいと思います

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