慣れない優しさと悪魔の苦言
ひやりとした感覚に、ランスロットがはっと目を覚ます。
条件反射のように、俺は顔を腕で庇った。
「……ごめんなさい。驚いた?」
はっと気づくと、目の前に、心配そうに俺を覗き込むアメジスト色の瞳があった。
「ああ……悪い。癖で」
冷たく感じたのは、ぬるくなった額の手拭いを替えてくれたかららしい。
そんな風に看病などされたことがないから、野営で敵の奇襲に遭ったときのように警戒してしまっていた。
彼女の白い手が、手拭いで俺の首筋や額を優しく拭う。
時々触れる手がひどく柔らかくて、俺はどう反応すればいいかわからず、眉間にぎゅっとしわを寄せて顔を横に背けた。
「ごめん、痛かった?」
「……いや」
当然のように向けられる優しさに戸惑っているんだ。などとは言えず、むっつりと黙りこくった。
閉じた口とは裏腹に、ぐうと腹が鳴った。非常に気まずいが仕方がない。身体は正直だ。
アメリアはなんだか嬉しそうにくしゃりと笑って言った。
「ご飯にしよう。スープなら食べられるでしょ?」
「……ありがとう」
立ち上がろうとしたが、全身が痛くて顔をしかめた。
「無理しないで。持ってくるよ」
「いい。歩ける」
「無理しないほうがいいよ~」
トントンと階段を降りてきた家主がのんびりと割って入る。
「君は死にかけの病人の自覚をもっと持つべきだよ」
「舐めるな。このくらい……ゔっ」
「ほうら、言わんこっちゃない。ひどい傷と熱だったんだ。三日生死をさまよってたんだよ。せっかく回復してきたところなのに、死にたいの?君、ドM?やるならよそでやんなよ。そもそも、満身創痍で冬の泉に飛び込んで、生きていられるとでも?脳ミソまで筋肉ってこういうことだね。まったく、治療する側のことも考えてほしいよ、だいたい……」
俺は別に自分から冬の泉に飛び込んだわけじゃないし、よってドMでも脳筋でもない――などという反論は流石に飲み込んだ。
「ほら、どうぞ」
家主が説教をしている間にアメリアはスープを器に入れて持ってきた。
スプーンで掬って、息を吹きかけて冷ましてから俺の口元に運んでくる。
俺はびっくりして身体をのけ反らせ、口をパクパクさせた。
「……?まだ熱いかな」
きょとんとした顔でふうふうし直すアメリア。
俺は赤い顔で器とスプーンをひったくった。
「じっ、自分で食える!」
「うわ、ちょっとこぼれるでしょ!?」
「こぼれねぇよ!あ、熱っ……」
「ほらぁ!」
俺とアメリアの言い合う様子を見て、くすくすくす、と家主は笑った。




