呼び鈴
その日は随分と寒かった。
朝から雪がはらはらと舞い、泉の水は静かに凍っていた。
アメリアは街での用事を済ませ、身を震わせながら家に帰るところだった。
いつもの通り森を進むと、赤いシミのようなものが地面にぽたぽたとついている。
「……人の、血?」
早足で森を抜ける。
氷の割れた泉を通り過ぎると、血と雪に濡れた地面が続く。
血の道の先――アメリアたちの家の前で、人が倒れていた。
汚れた上着、泉からなんとか這い上がったのだろう跡。
頭からはどくどくと血が流れている。
アメリアが駆け寄って息を確かめると、微かにまだ呼吸していた。
「お兄さん、しっかり!!」
コートを脱いで男にかけ、頬を叩く。
触れた肌は陶器のように蒼白で冷たい。
「う……」
幸いにも男は微かに呻き声を漏らした。
すぐに温めて治療したいところだが、アメリアには彼を家に入れることすらできない。
(どうしよう。このままじゃ、この人死んじゃうわ……)
「君は……俺を、助けようとしてくれているのか?」
男が薄く目を開き、掠れた声で言った。
「そうよ。だからお願い、しっかりして!」
「ああ……嬉しいな。見ず知らずの男に、こんなことを言われても困るかもしれないけれど……人生で、二度目なんだ。こんな風に命を救われるのは」
男は心底嬉しそうに笑った。
「ああ、アーサーさま、俺は幸せだ。このまま時が、止まればいい。……なんだ、俺のために泣いてくれるのか?君はとても……美しいね」
カランカランカラン……
呼び鈴が鳴った。
ギイと小さく音を立て、扉が開いた。




