後日譚③ ランスロット
翌日、早朝。
ランスロットはアメリアたちの家の前に突っ立って、ドアノブに手をかけたり下ろしたりを繰り返していた。
「何してんの」
ガチャリと内側からドアが開いて、旦那が顔を出した。
……旦那の目が、完っ全に不審者を見る目だ。
「おは、あの、あば、アメ……」
「おはよう脱走患者。やっぱ怪我で頭、イカれたかな」
やれやれ、と肩をすくめ、するりと扉から抜け出る。
「僕、ちょっと出てくるから。早くアメリアに顔見せなよ」
「あの、でも、俺、無……」
「あーもーウジウジうざったいな。アメリア泣かすなって言ってんの」
「……アメリア、泣いて」
「本人と話して」
じゃ、と手をひらひらさせて去って行く。
ランスロットは覚悟を決めてドアを開けた。
カランカランカラン……
呼び鈴が鳴る。
階段を駆け下る音がして、ネグリジェのままのアメリアが、転がるように飛び出してくる。
「あ、アメ……」
俺が口を開くよりも早く、アメリアはくしゃりと顔を歪め、俺に抱きついた。
「……バカ」
う、と小さくしゃくり上げる。
左手で俺の服の裾をぎゅっと握り、空いた右手で俺の胸をポカポカと叩いた。
俺は、彼女が薄い寝間着一枚であることに動揺して手を彷徨わせていた。
アメリアの体温が、肌の触れた場所からじんわりと伝わる。
髪から懐かしい匂いがして、胸の中でぐらりと何かが崩れる音がした。
薄い布越しに身体が触れるのも無視して、細い腰を抱き、髪を梳く。
「ゃぁ」
「っ、冷たかったか」
「……バカ」
アメリアは顔を俺の胸に埋めて、ぎゅっと背中に手を回した。
嫌がられてはいないようだとほっとする。
髪を梳きながら、垂れた髪を耳にかける。
くすぐったそうに小さく声を上げるのが可愛くて、彼女の形のいい耳を弄ぶように触れた。
「ちょ、……駄目」
埋めた顔を上げて、ジトっと俺を睨む。
……そんな潤んだ目で見られると、
本能が暴れ出す。
それを宥めるように、アメリアをきゅうっと抱きしめた。
アメリアの柔らかい肌が、匂いが、もっとと欲望を掻き立てた。
どくどくと心臓が鳴る。
……まずい。
放っておけばアメリアを抱き潰してしまう。
「……寝間着のままじゃ寒いだろ」
言外に離れるように言えば、彼女はふるふると首を振った。
「……平気」
「……俺が平気じゃない」
心を落ち着けるように、ふうっと熱い息を吐く。
アメリアの肩を抱いていた腕を緩めると、彼女は不安そうに顔を上げた。
「……どこにも行かない?」
「ああ。行かない」
ああ。
やっぱり俺は、
「好きだ。アメリア」
やっと言えた。
何もない、ただのランスロットとして、君が好きだと。




