後日譚② ランスロット
「で?なんでお前ここで寝ようとしてるんだ」
アーサーがランスロットに呆れた目を向けた。
「すみませんアーサーさま。他にアテがなくて」
「一国の王子の部屋を友達の部屋みたいに扱うな」
「いいじゃないですかまだギリ除隊されてなくて制服もあるんだから」
「お前な……。せめて護衛隊の奴らに泊めてもらえ」
「護衛隊の寮監が厳しいです」
実際、ガットに打診したが秒で断られた。
「なるほど、その点王子の自室なら王子の許可一つで済むと」
「はい」
「お前なあ!」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
腹に拳が飛んできた。
ぐぇ。
「百歩譲って一晩泊まるまでは許そう。毛布くらいは貸してやる。だが、お前、魔女殿はどうした?帰らなくていいのか怪我人」
「……聞きます?それ」
「逆にそれ以外何を聞けと」
「いや、大した話は何も。……会わずに飛び出してきました」
「はあ!?」
声がでかい。
冷酷無比冷静沈着が売りの王子がこんなに動揺するとは。
アメリアにはノクスでの一件以来顔を合わせていない。
正確には、俺は見ていない。
目が覚めると悪魔改め家主の旦那が仏頂面で俺を見下ろしていた。
「おはよう。本当に君、ゴキブリ並みの生命力だねえ」
「……ぅ、」
「喋らなくていいよ。てか喋るな。頭の傷もまだ完全に塞がってない」
「ぁ、うえ」
「アメリアは外出中。すぐ戻るよ。大人しく待ってな」
旦那は俺がアメリアに会いたがっていると思い込んでいたのだろう。
だが、俺の反応は真逆だった。
……死ぬ。
羞恥で。
「う、わあああ……」
「どうした?錯乱した?僕、精神医学は専門外だけど?」
「頭は正常です……」
「え、そう?」
本当か?と首を傾げて疑る旦那をよそに、俺は真っ赤になったり真っ青になったりした。
まずい。
非常に。
「まあ、とにかく今は安静に……」
「治療、ありがとうございましたッ。また今度お礼に参りますッ」
爆速で服を着て、包帯を剥がし、護衛隊仕込みの体育会系な挨拶をして飛び出した。
あの時の旦那の呆然とした顔は忘れられない。
「お前、それでは脱走患者ではないか……」
「はい。たまに頭から血が噴き出しますがじきに止まります」
「……ひとまず包帯は用意しておこう」
救急箱から包帯を取り出し、ぐるぐると頭に巻くアーサー。
王子のくせにマメである。
「それで?魔女殿にはいつ告白するつもりだ?」
「……げほ、ぶしゅっ」
「おい!早速血が噴き出しておるではないか!」
「……すみません動揺しました」
「まあ、安静にな」
「はい」
「で?いつするのだ?」
笑顔で詰めるアーサー。
まるで蛇に睨まれた蛙、上司に詰められる部下。後者は割と現実味を帯びている。
「……告白、なんて」
「まさか、しないなどと言うまいな?」
「……無職、ですし」
「はあん?」
眉とともに語尾を限界まで上げすぎてオネエのようになったアーサーは、ランスロットの尻をゲシゲシと蹴って言った。
「お前、帰れ。今すぐに」
「え、いや、あの、安静にって」
「知るか。血噴きながらでも帰れ。魔女殿が泣くぞ」
ハイわかりましたと言うまで尻を蹴られたランスロットは、翌日の朝には必ず帰るという条件で一晩をアーサーの自室で過ごした。




