後日譚① ランスロット
「勝負あり。双方、剣を引け」
審判の声で、ランスロットはガットの喉元まで迫った剣をピタリと止めた。
「あーもー!また負けた!隊長、強すぎっすよ!」
「いや、そんなことは。まだ調子が戻ってな……」
「本調子じゃないとか言わないでくださいね?俺、泣くっすよ?」
ここ数日、ランスロットの模擬試合に付き合わされているガットが涙目で凄む。
ランスロットは右手を握り直しながら苦笑した。
「すまん。ガットは太刀筋が素直だから練習にちょうど良くて、毎日付き合わせてしまった。他の奴ともやりたいだろうから、俺は他を当た……」
「は?隊長の練習相手を他の奴に取られたら俺、そいつ殺っちゃうっすけど?」
据わった目でランスロットを見上げるガット。
「お、おう。付き合ってくれるなら、助かる」
「おっす。遠慮しないでくださいね!」
快活に笑うガットにある種の恐怖を感じながら、ランスロットは苦笑いをした。
「そういえば、隊長、隊長やめるってほんとですか!?」
「……知ってたのか。そうだ。護衛隊を除隊する」
「なんでですか!?俺、隊長に憧れて護衛隊に入ったのに。隊長がいなくなったら、俺、何をモチベにすれば……」
青い顔で頭を抱えるガット。
すごいなこいつ。短時間で表情がものすごく変わっている。
「まあ、理由は、自由になりたかったから、かな」
手元の剣に目を落としながら、俺は小さく笑った。
アメリアと出会って、俺は自由であっていいんだと思った。
好きな服を着ていい。
嫌な仕事は引き受けなくていい。
俺は今まで、アーサーさまに忠誠を誓ってきた。
それは、俺の意思というよりも、それ以外の選択肢を、生き方を知らなかった。
親が子に従うような当然さで、命の恩人であるアーサーさまに従っていた。
つまり俺は、自分の存在意義とか価値とかを全てアーサーさまに委ね、精神的に依存していたわけだ。
たぶん、アーサーさまはそれを分かっていた。
そしてたぶん、それは都合が良かった。アーサーさまにとっても、俺にとっても。
でも、俺はそれに気づいたとき、その幼さを嫌だと思った。
従うなら、自分が選んでアーサーさまに仕えたかった。
アーサーさまは俺を許してくれた。
「ふ、俺は王になる男だ。お前がもし、万が一、俺に従わないとしても、金と権力にものを言わせて交渉するまでだ」
そう言って、俺を傭兵として雇おうとしている。
「そっか。まあ、隊長が決めたならしょうがないか。でも、たまには隊に顔出してくださいね!?」
「もちろんだ」
「おす。俺にとっちゃ、名誉隊長ですから。……あれ、隊長はこれから何の仕事するんすか?」
「ぐ、ぐはあっ」
俺は油断して脇腹を一突きされたみたいな声を発した。
「……次の仕事、決まってない」
「え、それって、ニ……」
「言うなあ……!俺もそれに気づいて、今めっちゃ焦ってっから!」
脳内でアーサーがフハハハハハ!と高笑いした。
幼少期から戦うことばっかだったから仕事にアテないだろ?
人間関係もある程度構築された職場だぞ?
戻って来るなら今だが?
……囲い込みだ。
頭を抱えて、はあ、とため息を吐く。
「まー大丈夫っすよ。隊長がニートでも、俺は隊長のこと尊敬してるっす」
「お前……言ったな……」
「あ」
人を殺しそうな目で睨むランスロットに、ガットが楽しそうに笑った。
「隊長、そんな愉快なキャラだったんすね!」と。




