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後日譚④ キルケ

(あーあ。終わっちゃった)


 キルケは、教会の前の小さな階段に腰かけて、一人ごちた。

 北の地ノクスの冬は長く、まだ寒い日が続く。

 けれど最近では、少しずつ日が長くなり、暖かい陽気が漂い始めている。

 ゆっくりと、春の気配が近づいていた。


「……千年、頑張ってきたのに、なぁ」


 膝を抱えて小さくため息を吐く。


 この広い世界でたった一人を探して回るなんて、正気の沙汰ではない。

 途方もない労力と時間をかけて見つけた彼は、辺境の国の端っこで隠遁生活を送っていた。

 その上何も知らない人間の小娘と吞気に暮らしていたのだから、恨み言を言いたくもなる。


 たった十年そばにいただけの彼女に、盗られてたまるものかと、色々と画策した。

 きっと彼も、私と出会えばすぐに私と生きていく道を選ぶと思った。

 傷を舐めあうことを愛だと信じこんで。

 彼だって、ただ生きていくしかない孤独に耐えられはしないだろうと。

 どうせ人を愛したところで、残されていく運命に変わりはないのだから。

 ……そう思っていたのに。


 彼はそれでも、ただ愛することを選んだ。

 それはなんて、美しくも哀しい愛情だろう。


 キルケがとっくに諦めた美しい愛情を、あんな風に見せられた後では、この感情を恋と呼ぶのはあまりにおこがましい。



「あーあ。ちゃんと、好き、だったんだけどなぁ」


 あの時助けてくれたメフィストフェレスは、かっこよかった。

 千年経っても、色褪せないくらいに。



「なーにやってんだよ」


 教会の中から出てきたロキが、すとん、と隣に腰かけてくる。


「なんでもなーい」


 目元にうっすらと滲んだそれに気づかれないよう、キルケも明るく答える。



「……俺にしとけよ」

「……え?」


 何が、と続けようとしてロキの顔を見て、口をつぐんだ。

 いつになく、真剣な顔だったからだ。


「俺だって、魔法は効かないんだぜ」

「……いやまあそれは、……え?」


 それはつまり、と思考が追いつき、息を呑んだ。

 パチパチと目を瞬かせ、パクパクと口を閉じたり開いたりし、ようやくおずおずと言葉を紡ぐ。


「ええと、私で、いいの……?」

「ああ。言っただろ、俺は強くて面白い女が好きなんだ」


 にやりと不敵に笑うロキから慌てて目を逸らす。

 胸の中で、とくん、と鼓動が小さく鳴った。


こんにちは。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

こちらで完結となります。

ブックマーク、誤字脱字報告してくださった方、本当にありがとうございます!

後でおまけを書けたらいいなと思っています。

シリアスな部分は書ききったので、アメリアたちがデートする話とかを気楽に。

そちらもお読みいただけたら、とても嬉しいです!

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