すみれの花
「お願い!私の魂を、捧げる!師匠を、人間に、戻して!」
「ほう。知っていたのか」
ロキは面白そうににやりと笑った。
「後悔しないな?」
「しない!」
「!やめろ!僕はそんなこと望まない!」
悪魔はすっと血の気の引いた顔で叫んだ。
囚われていることを忘れて、ロキとアメリアの間に割って入ろうとする。
鎖がジャラジャラと鳴り、勢いでつんのめって転んでしまう。
「やめろぉ!!」
構わずにロキがアメリアの胸に手を当てる。
「分かってると思うが、魂を捧げたら、お前、死ぬぜ?」
「いいわ」
「よし」
ずぷ。
ロキの手がアメリアの胸の中に沈んだ。
「ゔ……ぅ」
「アメリア!」
かくりと膝から崩れるアメリアを、飛び出してきたランスロットが支えた。
「悪ぃな。そのまま支えてやってくれ」
「言われ、なくとも」
涙を堪えているのがわかる声で、ランスロットは答える。
「お前さんも報われねえな」
「……アメリアが望んだことだ」
「はは。不器用だねえ」
ロキは唇の片端を上げて笑い、アメリアの胸の中で手を動かした。
ズズズズズ。
心臓くらいの大きさのそれを、取り出して、悪魔の口元に持っていく。
「おい。口開けろ」
悪魔はふるふると首を振る。
ぱたぱたと涙が床に散った。
「……どうか許してくれ」
悪魔は振り絞るように言った。
「これから先、愛することも、愛されることも一切望まない。心を殺しながら永遠に生きることが罰だというなら、それも受け入れよう。だから、今だけは許せ――彼女だけは、殺さないでくれ。お願いだ」
「アメリアが望んだことだぜ?」
「……だと、しても。僕は、アメリアに、生きていてほしい。ただの身勝手だと、分かっている」
シュルシュルシュル。
悪魔の胸元から、すみれの花の茎が伸びて、アメリアの魂を包み込んでいく。
「お前、むごいことを……すみれの花の魂を、使いやがったな」
「ああ。……どんどん、悪魔じみていくね」
シュル、とアメリアの魂を身体に戻す。
「……う」
アメリアは目を覚ましはしなかったが、少し頬に赤みが差し、いくらか生気を取り戻した。
ランスロットは彼女を抱き、丁寧に寝台に横たえた。




