神々の黄昏④
ロキとキルケはそれぞれ地下牢に押し込められ、神々の審議を待っていた。
カツカツと階段を下る靴音が近づき、カチャリと牢の錠が開かれる。
ギイイ。
ディカステースが片眼鏡を押し上げながら地下牢の扉を開いた。
こほんと咳払いをし、キルケを見据える。
「キルケ。そなたはトーリトーンの花嫁であるにもかかわらず、ロキと姦通した。その罰として、これより、そなたは淫魔となる」
そなたが口づけた男はすべからく、そなたに恋し狂うだろう――どうだ、淫乱女には似合いの魔法であろう!
朗々と紡がれるディカステースの言葉に、ロキは隣の房でハッと冷笑した。
「本当に、哀れな女……」
男を恋狂わせる魔法。
それは同時に、愛を確かめられぬ呪いだ。
***
「さて」
キルケを下界に放った後、ディカステースは片眼鏡をクイと上げつつロキに向き直った。
「ロキ、そなたの処遇についてだが」
「なんだ?俺も女を誘惑する悪魔になれって?」
「それでは今とそう変わらぬであろうが。このスケコマシめ」
「なんだオッサン、羨ましいのか?」
「下郎、まずはその汚らわしい口を閉じろ」
ディカステースが怒気を込めて睨む。
ロキはわざとらしく唇を閉じ、ピューイと口笛を吹いて肩をすくめた。
「ロキ、そなたは前々から神々の間で問題視されていた。いかにいたずらの神とは言え、人間界で問題を起こしすぎている。ゆえに今回のことで正式に処罰が下った」
御託はいいからさっさと結論を言え。
ロキは苛立ちを誤魔化すように唇の片端を持ち上げ、心の中で毒づいた。
「ゴホン、ズバリそなたの処遇は天界からの追放である。加えて、人間界に放たれるメフィストフェレスならびにキルケの監査を命じる!」
「はっ!?待て、監査だと?」
「まあそう気負うでない。神々に悪事を働かぬか見張るだけだ。楽な仕事で良かったな。あ、そうそう、報告書の提出だけは怠らぬように」
「報告書!?」
「焦るな焦るな。この牢からの解放に心が浮き立つのもわかるが、まだ数日後だ。首を長くして待っておれ」
ではな、と去っていくディカステースの後ろ姿に、ロキはチッと舌打ちし「クソめんどくせえ仕事振りやがって」と吐き捨てた。




