神々の黄昏②
「あいつか?ポセイドンの子を殺した人間ってのは」
「はっ、なんと愚かな」
「なんでも、生贄の女を助けるためだったらしいぞ」
「へえ。そいつは哀れだな」
「いやいや、そもそも百年前に毎年女を捧げるという約束でかの地に人間が住まうことを許したのだろう?」
「なんと。けしからん。これだから人間という奴は!」
(……?誰の声だ。俺は、一体どこに)
意識が浮上するとともに、頭がズキズキと痛んだ。
カンカンカンカンカン!
「皆々様、ご静粛に。これより不肖ディカステースが、この者の罪状を述べる」
なんとか目をこじ開けると、起訴状を持った小男が目に入った。
ディカステースは、片眼鏡を押し上げながら朗々と話し始めた。
「一つ、神獣リオーンを殺したこと。一つ、神の子トーリトーンを殺したこと」
「なんと。あやつ、リオーンまで殺しておったのか。これは、罪深いぞ」
「見よ、奴の胸を。胸をえぐった三本爪の跡が、リオーンと戦った何よりの証拠」
「いやはや、くわばらくわばら」
傍聴席からひそひそと話す声。
ディカステースはそれらをジロリと睨んでガベルを再び鳴らす。
カンカンカンカンカン!
「静粛に!裁判の神テミス様が、判決を下される」
テミスは感情のない声で言った。
「メフィストフェレス。お前に判決を言い渡す」
しんと静まり返った傍聴席に、裁判の神の厳かな声が響き渡る。
「善良な魂には、祝福と救済を。罪深き魂には、呪いと制裁を。神殺しのメフィストフェレス、お前には呪われた運命と、忌まわしき悪魔の名を与えよう!」
***
「飯の時間だ」
ディカステースがメフィストフェレスの前に現れ、肩に乗せていた鷹をおもむろに放った。
キィーッ、キッキッキッ……
荒廃した岩山の頂上で、獰猛な鷹の鳴き声が響く。
ガッガッガッガッガッ……
鷹は、岩山に磔にされたメフィストフェレスの胸に嘴を突き立て、躊躇なく内臓を食らった。
「ゔゔ……がっ……あ……」
メフィストフェレスは、痛みに顔を歪め、低く呻いた。
その姿を眺めるディカステースは、ふっと笑みを浮かべて呟く。
「一週間もすれば、流石に泣き叫ぶことはなくなるか」
メフィストフェレスは目を閉じ、痛みに耐えながらその声を聞き流す。
「テミス様も、なんとむごい罰を与えられたものよ。不老不死の呪いを与えた上、毎晩鷹に内臓を貪らせるとは。だが神を殺した罪を贖うには到底足りぬ……」
荒く息を吐きながら、ディカステースの声を聞かぬよう、聞かぬようとする。
だが手は岩に縛りつけられていて、耳を覆うこともできない。
「喜べ、メフィストフェレス」
不快な声は自然と耳に入り込んでくる。
「三年だ。三年の時をここで罰を受けながら過ごしたのち、お前は悪魔として下界に下り、呪い呪われながら永遠の時を過ごすのだ」
ディカステースの言葉に、メフィストフェレスは絶望した。




