森の魔女
それは、雪がちらつく寒い冬の日だった。
コンコンコン。
準備中の看板が下がった木製のドアを、かじかんだ手でノックする。
そこは、王都シルヴェスタの街はずれにぽつんと佇む古本屋。
商売繁盛とは程遠い寂れた店が、今日は雪のせいで一層哀愁を纏っている。
アメリアが白く曇った窓から店内を覗き込むと、初老の店主がにこやかに笑って出迎えた。
「やあ、アメリア。今日もおつかいかい?」
「こんにちは、アンダーソンさん。そうなの、ちょうどマリラおばさんのお店に薬を卸してきたところ」
「そうかい、ご苦労さま。『森の魔女の薬』は良く効くと評判だからね。マリラもアメリアのおかげで繁盛していると嬉しそうにしていたよ」
「私、魔女でもなんでもないんだけど……でも、嬉しいわ。それからアンダーソンさん、これ、紅茶のクッキーとハーブティーの茶葉。良かったらどうぞ」
「いいのかい、嬉しいねえ。お礼に、好きな本を持ってお行き」
「えへへ、やったぁ」
アメリアは嬉しそうに笑い、ずらりと並ぶ本棚に目を輝かせた。
アンダーソンが営むこの店は、雰囲気と品揃えが抜群に良く、アメリアは大層気に入っている。
ちなみに、そう言って褒めるとアンダーソンは決まって「店主の趣味がいいからね」と茶目っ気たっぷりに笑う。いいのは趣味より人柄である。だから自然と本が集まるのだ。
そんなわけで、他では見ないようなやたら古い本や、胡散臭そうな本、異国の文字で書かれた本がたくさん並んでいる。正直売れなさそうな本ばかりで心配になる。
「?何かしら、これ……」
本棚の奥に埋もれていたいかにも古そうな本を引っ張り出す。
埃を払うと、細かく描きこまれた美しい表紙が現れる。題名は書いてあるが読めない。異国語なのか古い文字なのか、ミミズののたくったような字が芸術的に並んでいる。
「ああ、それは確か、ふらりとやってきた旅のお客さんが置いていったんだ」
「何が書いてあるの?」
「さあ。僕にもわからない」
アメリアは、結局その本を貰っていった。
なんとなく、惹かれてしまったのだ。
古い・胡散臭い・読めないの三拍子そろった、いかにも売れなさそうなその本に。
アンダーソン古書店からさらに北へ進むと、鬱蒼とした森が姿を現す。
その森をいくらか進み、清らかな水を湛えた泉を抜ける。
すると、ぽかりと開けた土地に出て、小さな家が現れる。
寂れた荒原に、ぽつんと佇むオンボロ家。
ガチャリと、アメリアはおもむろにドアを開ける。
「おかえり、アメリア」
「ただいま、師匠」
ペンドラゴン王国のはずれ、鬱蒼と茂る森の中。
この世界の片隅で、私は悪魔と棲んでいる。




