嵐の前③
カツン、カツン。
暗い地下牢にまた足音が響いた。
誰だろう。誰でもいい。
大切なものはすべて失った。
もう涙も枯れた。
キイ、カチャリ。
牢の錠が開いて、男が静かに入ってきた。
反射的に見上げると、ブルーの目がランプの明かりに照らされて光った。
無意識に顔がこわばった。
ランスロットは何も言わず、黙々と足枷の小さな鍵を開けにかかった。
仕方なく彼にされるがままになる。
アメリアはぐっとかさついた唇を嚙んだ。
裏切ったのなら、もっと雑に扱えばいいのに。
アメリアの足を傷つけないように触れる手の優しさが今は辛い。
「……どうして、師匠を売ったの」
昨日から喉につかえていた言葉を、なんとか吐き出した。
ランスロットは手枷の鍵を探りながら、ぽつりと言った。
「……悪魔は、死なないんだろう」
「……!」
想定していなかった答えに、思わず言葉を失ってランスロットを凝視した。
俯いている彼の表情はわからない。
アメリアは彼のつむじを睨みつけて言った。
「っ、そんなの、わからないじゃない!」
本に書いてあったことが本当かなんて、まだわからないのだ。
それに、もし仮に不死だったとして、痛みは感じるに違いない。
自分の代わりに師匠が苦しむなんて絶対に嫌だった。
枯れたと思っていた涙がまた溢れ出す。
「うん。でも」
ランスロットがゆっくりと答えを探すように逡巡した。
「アメリアは、殺されたら、絶対に死ぬ」
カチャリ。
右手の枷が外れる。
手首に枷の跡がついているのを見て、ランスロットは悲しそうに目を伏せた。
左手の枷を外しながら、彼はまたぽつりと言った。
「アメリアが死ぬのは、嫌だ」
カチャリ。
最後の鍵を外し、ランスロットは扉を開けるために背を向けた。
つうっと流れる涙を見られないように、ゴシゴシと目をこする。
(もっと、最低な理由だったら、恨んで、詰ることもできたのに)
アメリアは、自由になった両手で、とめどなく流れる涙をただ拭うことしかできなかった。
***
アメリアに再び手枷を嵌め、馬車に乗せた後。
他の荷物を積みながら、アーサーは揶揄うように尋ねた。
「どうだ、ランスロット。告白でもしてきたか?」
「……まさか」
「そうか」
ヘタレめ、と思ったが口には出さなかった。
黙々と手を動かすランスロットは、またぽつりとこぼすように言う。
「……そんな資格、ありません」
「……そうか」
俺はランスロットを励ます意味を込めて、肩をぽんぽんと叩いた。
時刻は二十三時頃。
王宮から馬車を走らせ、ノクスを目指した。




