ランスロット
「いやー、魔女とか言うから正直ビビってたっすよ。人間ならたいてい俺のほうが強いんでいいんですけど。あ、もちろん隊長は別っすよ?ランスロットさんには逆立ちしたって勝てないっす」
「そうか?護衛隊に入ってる時点でそう変わらないと思うが」
「もー、何言ってんすか。殿下の右腕に敵うわけないじゃないすか。俺、ランスロットさんに憧れて護衛隊目指したんすから。って、そんなことはいいんですよ。それより魔女!怪しげな魔術で抵抗してくるかと思ったら、あっさり捕まってくれて良かったっすよ」
「……」
「隊長?」
「ああ。その通りだ」
ランスロットは意識的に口角を上げて頷いた。にっこりと笑顔を作ったつもりだったが、実際には少し口元が歪んだだけだった。
それを後輩のガットは憧れの先輩フィルターで好意的に捉えてくれたようだ。
「クールだな隊長は!俺も見習わないと!」
そう言って、頬を叩いて快活に笑い、「じゃあ、俺、訓練に戻るっす!」とランスロットとは反対側に駆けていった。
ふわっと揺れた茶髪の寝ぐせを目で無意識に追い、はあとため息を吐く。
「……アメリア」
彼女と過ごした平穏な日々がひどく昔のようだ。
ガシガシと頭を掻き、どうしたらいいのかと何百回目かの自問を繰り返した。
ランスロットがアーサーのもとに戻ったのは、二十日ほど前の話である。
ロッキードが去ってからすぐに、かつての部下から合図があった。
蜂起は数日後に迫っている。至急ノクスへ。
ランスロットがノクスへ向かうと、回復したアーサーが集まった兵とともに彼を迎えた。
「遅かったな、ランスロット。記憶でも失っていたか?」
胸に手を当てて跪くランスロットの首元に剣を当て、問うアーサー。
「たとえ記憶を失っても、俺の主はあなただけだ、アーサーさま」
「……それだけ覚えていれば良い」
そうしてアーサーは、僅かな兵を率いて王宮に乗り込んだ。
アーサーは見事第一王子の謀略を暴き、次期王の座を手に入れた。
そこからが問題だった。
なぜか魔女狩りの王命が下り、なぜかアメリアが魔女として狙われた。
家の場所も、結界の解き方もすべて調査済みだった。
気持ち悪いくらいに筋書き通り話が進んでいく。
誰かが糸を手繰っているように思えてならなかった。
だが、それが誰なのか、目的が何なのかを考えている暇はなかった。
ランスロットはアーサーと二人きりになったときを見計らってアメリアは魔女ではないと説得しようとした。
「アーサーさま、聞いてください。彼女は魔術なんて使えない。ただの女の子だ」
「黙れ、ランスロット。お前、魔女にほだされたか?俺のもとに帰ってくるまで時間がかかったわりに、随分と元気そうだったな」
「瀕死の俺を彼女が看病してくれたんです。ほだされもしますよ。彼女は魔女じゃない。腕のいい薬屋だ」
「なぜそう言い切れる?」
「なぜって、傍にいたらそれくらい……」
「たったひと月かそこら一緒にいたくらいでよくそこまで信頼できたものだな。確証はどこにある?魔女ではないと証明できるか?」
「……確証はありません。そんなの悪魔の証明だ。俺だってあなただってできない。それなのになぜ彼女だけ殺されるのですか。殺すなら、この国の女全員殺せばいい!」
「随分と危険な思考に染まったものだな。魔女の洗脳か?……まあ、わからんでもない。死にかけの頭で優しく看病されたら魔女だって女神のように見えるさ」
「……取り乱したことを謝罪します、アーサーさま。罪の証明ができないならば、誰も殺されるべきではありません」
「その通りだ、ランスロット。だが誰かは殺さなければならない。王命が下った以上はな。殺されるのは別に彼女じゃなくたっていい、民衆が納得さえすれば」
「そんな……」
「お前もよく知っているだろう。政治とはそういうものだ。滅びの魔女を粛清し、民衆を混乱から救う。俺が王になるにはその物語が必要だ」
ランスロットは返しに詰まった。
その通りだと思ってしまったからだ。
第一王子の不正を暴くだけでは物足りない。魔女狩りは民衆にわかりやすいパフォーマンスになる。
「……キルケとかいう、あの女の入れ知恵ですか」
「悪く思うな。惚れた女の願い事を叶えたいと思うのは男の性だろう?だがこれがどうして、実に理にかなっている」
ふははとアーサーは満足げに笑った。
アーサーには、キルケがアメリアをただ殺してほしくて理屈をこねているのか、それとも真にアーサーの戴冠のために入れ知恵をしてくれたのか判断がつかなかった。
その食えない賢さがむしろ魅力的とさえ思った。
この際彼女の真意はどうでもいい。
「ならば」
ランスロットが覚悟を決めたように無表情で口を開いた。
「民衆の面前で魔女の首を落とすのが最も効果的と言えましょう。魔女狩りの指揮官は俺がやります」
「ほう?私情に流されて逃がすかもしれぬお前に、わざわざ任せる意味があるか?」
ランスロットは淡々と言葉を並べた。
「逃がしはしません。逃がして次俺以外の奴が指揮をとれば、恐怖に任せて彼女を殺すかもしれませんから。――あなたにとっても、生きて捕らえたほうが都合がいいはずだ」
「ふはははは!」
アーサーは心底楽しそうに声を上げて笑い、ランスロットの肩を叩いた。
「それでこそ俺の右腕だ、ランスロット。腑抜けて帰ってきたと思ったが、ようやく調子を取り戻したようだな」
すっとアーサーが笑みを消す。
ランスロットは無言で片膝をついた。
「命令だ、ランスロット。滅びの魔女を、生きて捕らえよ!」
かくしてランスロットは、護衛隊の精鋭数人を率いてアメリア確保の任に当たった。




