襲撃
十二月某日、聖シルヴェスタ生誕の祝日。
それは、よく晴れた日の朝だった。
「ねえ、ランスロット?」
コンコンコンコン!
ランスロットが寝ている部屋のドアをアメリアは忙しなく叩いた。
「起きてるなら返事してー」
言いながらドアを開ける。
ランスロットのために片づけた小さな部屋は、誰もいなかった。あるのは綺麗にたたまれた毛布だけで、小窓から差す朝日は現実味がないくらいに穏やかだった。
家中を探し回る。
彼のために買ったコートは暖炉の傍に掛かったままだった。
「……庭かしら」
胸騒ぎを知らないふりで誤魔化して、急いで庭に出る。
『おーい、ウサギが捕まったぞ!アメリア、今日の飯は肉だ!』
笑って手を振るランスロットの声が、きっと聞こえると信じた。
しんと静かな雪野原と、その奥に広がる深緑の森。
朝日に照らされたそのどこにも、ランスロットはいなかった。
***
一方、王都では。
消えていた第二王子が姿を現した、と大騒ぎになっていた。
門の警備は重厚になり、それでも混乱に乗じる暴徒が続出した。
ちょうどアンダーソンの店を出て都に偵察に来た悪魔は、城から少し離れたところでその様子を眺めていた。
「……思ったよりも、早かったな」
薬を使って瞳を黒く染め、人々に紛れてそう呟いた。
何せ、昨日アンダーソンから第二王子が消えたと聞いて偵察に来たのに、もう見つかってしまった。森の中に引きこもっていては情勢に疎くなっていけない。
とはいえ、今のところ僕たちに害はなさそうだ。
そう安堵し、面倒に巻き込まれる前に帰ろうと踵を返すところだった。
一瞬で、目の前が真っ暗になった。
まずい、油断した。
そう思うと同時に、頭部にガンと強い衝撃を感じ、悪魔は意識を手放した。
***
王都からノクスへと向かう馬車の中。
キルケは、気を失っている悪魔を膝の上に乗せ、優しく抱いていた。
彼女は恋する乙女のように頬を染め、歌うように甘く囁いた。
「愛しいメフィストフェレス、早く目を覚ませばいいのに。その時にはあなたの心は私のもの。永遠の愛を、誓いましょう」




