ノクス
時はひと月ほど遡る。
第二王子アーサー=ペンドラゴンは、ランスロットの提言通りに北を目指し、街はずれの教会に潜伏していた。
彼は散り散りになった兵を集め、怪我人の治療に努めた。
ただ一つ、ランスロットの言と違うことがあった。
第一王子は、各地の教会に贈賄し、ほぼすべての宗教勢力から支持を集めている。
そんな中、ノクスの教会に籍を置く司祭は、彼らと一線を画し、いかなる賄賂も拒否する敬虔な人物で、数少ない中立派であった。
その司祭ならば、アーサーを保護してくれるだろう――というのがランスロットの読みだった。
しかし、教会に司祭の姿はなく、代わりにいたのは、不気味なほど美しい修道女であった。
彼女はキルケという名で、ボロボロの姿で逃げてきたアーサーを歓迎した。
彼女はアーサーを毎晩看病し、刺客から保護した。
ある日、キルケは閨でアーサーに協力を誓った。
「アーサー王子。あなたは人の上に立つ才があります。きっと名君となるでしょう」
「ああ。もちろんだ」
彼女の慈愛に溢れた視線に、アーサー王子の心は熱くなった。
閨で手を繋ぎ、彼女をじっと見つめると、彼女は頬を染め、顔を背けた。
「あの、いけませんアーサー王子」
「構うか」
アーサーは彼女の肩を抱いて口づけた。
そのまま寝具の上に彼女を押し倒し、熱い息を吐いて唇を離した。
腰が砕け、とろけた瞳で見上げるキルケからゆっくりと身を離す。
「貞潔な修道女を汚すわけにはいかないな。だが、覚悟していろ。俺は必ず王位を継ぐ。そなたを抱くのは、その後だ」
いつからかアーサーは、キルケに恋をしていた。
彼女の美貌に似合わぬ初心さにも、修道女ならばと違和感を抱かなかった。
だから、無垢な瞳で「私の願いを一つ、叶えてくださいますか?」と乞われたとき、アーサーは「無論だ」と一も二もなく頷いた。
キルケは言った。
「アーサー王子。それでは、魔女を殺してください。人々を惑わす、滅びの魔女を」




