別れの朝
「お二人とも、泊めていただいてありがとうございました。それでは、これで」
ロッキードが荷物をうんしょと背負って頭を下げた。
「こちらこそ、本の内容を教えてくれてありがとう。気を付けて」
「あの、本当に心苦しいのですが、一つ、お願いがありまして」
「なんだ?」
「どうしたの?」
「……ムッシュー、また落とし穴にはまらないように、森の入り口まで一緒に来ていただけないでしょうか?」
「……ランスロット、いってらっしゃい」
「お、おう!もちろんだぜ!」
なるほど、罠がどこにあるかは俺にしかわからないのか。
ランスロットは、家の周辺を危険地帯にしてしまった申し訳なさで頭をポリポリと搔きながら、ロッキードの前を歩き始めた。
ロッキードは、いやあ悪いですねえ、と目を細め、サクサクと雪を踏みしめて歩いた。
「もし、また会えたなら、君の話もじっくりと聞きたい」
「なんだよ今更。腹いっぱいじゃなかったのか?」
「んんんん。現金なもので、一晩寝たらお腹が空いてしまいました」
「違いねえ。俺も腹が鳴りそうだ」
ハハ、と空に向かって笑う。この季節には珍しい、薄い日が出たいい天気だった。
視界を覆う青が、深緑へと色を変えていく。
最初に出会った、森の入り口だ。
「気をつけろ、三歩右に行くともう一回Uターンして戻るハメになるぞ」
「危ないなあもう。なんでそんなギリギリ攻めたんですか」
「三歩空いてりゃ十分だろ。そんじゃあまたな、ロッキードのオッサン」
「ええ。君も、お気をつけて」
くすんだ赤茶の髪が揺れる背を見送る。
その背が、忘れ物を思い出したように、何気なく振り返った。
「そういえば、北のほうで第二王子が蜂起するという噂を聞きました。確か、街の名前はノクスだったかな。もし、そちらの方へ行くことがあれば、本当に――お気をつけて」
「……え?」
それでは、と歩き去る旅人の後ろ姿を前に、彼は呆然と立ち尽くした。
***
「んんんん。いやー、濃い一日でしたね。これでやっと、報告書が書ける」
森を歩きながら、彼は大きく伸びをする。
「ま、悪魔から人間に戻す方法も、書いてあったんですけどね」
乾いた笑いを浮かべながら、旅人は北を目指した。




