悪魔の書②
悪魔の肉体は不滅である。
悪魔の身体を物理的に殺すことは不可能である。
ゆえに創造主は、この世界を創り給うたときに、悪魔に弱点を施した。さながらアキレスの踵のように。この弱点によって、神は彼らを支配し、悪魔の兵隊を作りあげた。
その弱点とは、精神である。
彼らの精神は非常に弱く、ある方法で彼らの魂を完全に奪うことができる。
その方法とは、
悪魔の、愛する者を殺すこと。
魂を失った悪魔は、知能・思考・感情・欲望といった、すべての余分な自我を失い、神に忠実な僕となる。
ああ、偉大なる創造主は、まことに賢きお方である。
「ふう。訳するとしたらこんな感じでしょうか」
一節を読み終えたロッキードが息をつく。
アメリアはそれを一言一句書き留め、ため息を吐いた。
「ひどい話だわ」
「違いねえ」
「まったくですね」
もしも師匠が魂を失くして亡霊のように生きるしかなくなったらと思うと恐ろしかった。
もっとも、師匠に愛する者がいるのかはわからないが。
「他には?何が書かれているの?」
「彼らの働かせ方、それから、彼らが悪魔になるまでの物語ですね」
「なんだそれ。悪魔って、最初っから悪魔なわけじゃないのか?」
「ええ。皆もとは人間です」
アメリアはランスロットと顔を見合わせた。
師匠が、人間だったなんて。
「師匠はどうして悪魔にされたの?」
「さあ?知りたいんですか?」
「うん。知りたい」
アメリアの真っ直ぐな目を見て、ふむとロッキードは肩をすくめた。
「彼の話は彼の口から聞くべきだと思いますけどね。この本の信憑性はさておき、他人に切り取られた話なんて噂話みたいなもんです。過去なんて、悪魔にされたという事実以外必要ですか?」
眼鏡を直しながらロッキードは細い目で不思議そうにアメリアを見つめる。
「……そうね。師匠から聞かないと意味が無い。……それでも、知りたいと思ってしまうの」
アメジスト色の瞳が悲しそうに揺れる。
ロッキードはやれやれとため息を吐いた。
「基本的に、悪魔にされるというのは罰です。神の怒りを買うような最悪レベルの罪を犯した者への、ね」
「……そう」
優しい師匠が、そんな大きな罪を犯したなんて考えられない。
それでも、事実は事実なのだろう。
アメリアが俯いて黙っていると、ランスロットがどんよりした空気を払うようにパンパンと手を叩いた。
「もう遅いし、とりあえず今日は飯食って寝ようぜ?俺、腹ペコだ」
「そうですね、もうこの本の主要な部分はお伝えしましたし。私もおなか減りました」
「うん。そうだね、ご飯にしよう」
アメリアはそう言ってキッチンに立ち、カブのスープを温め始めた。
その日はロッキードも泊まることになった。
三人とも疲れていたのか、毛布にくるまるとすぐに眠ってしまった。




