ロッキード
「すいません、気を遣わせてしまって」
暖炉のそばで服を乾かしながら、旅人は興味深そうに部屋を見回した。
アメリアはキッチンで湯を沸かし、紅茶を淹れているところだ。
「おじさん、名前は?」
「名乗るほどの者ではないですよ?」
「名前がわからないと不便なんだ。なんて呼べばいい?」
「んんんん。そうですね、ではロッキードと」
「うん。ロッキードさんはどっから来たんだ?」
「出身はこの国のうんと北のほうです。物語を集めて旅をしてましてね」
「へええ。そりゃすげえや。物語って、伝承のことか?」
「伝承や民話が多いですね。でも、色々です。不思議な夢の話とか、おばあちゃんの身の上話とか。面白かったらなんだっていいんです」
「俺、今日アメリアに怒られる夢見た」
「ほう。予知夢かもしれませんね?」
「勘弁してくれ」
「ふふふ」
ロッキードは薄く笑んだままランスロットにそっと近づき、声を落とした。
「人は恋をするとその人を夢に見ると言いますよ。想い人ですか?」
「……な、何言ってるんだよ!」
「ふふ。ね、面白いでしょう?」
ランスロットはアメリアがキッチンから戻って来るのを見て急いで話題を変える。
「旅人ってんなら、異国の言葉もわかるのか?」
「ふふ。まあ、言語には自信がありますよ」
「本当?」
紅茶を運んできたアメリアが、ぱっと目を輝かせた。
「見てほしいものがあるの」
急いで階段を上り、自室から鞄を抱えて戻る。
鞄から取り出したのは、一冊の本だ。
「ほう」
ロッキードは興味深そうに眼鏡を押し上げ、しげしげとその本を見つめた。
やがて顔を上げ、アメリアに向き直る。
「滅びたルーン文字ですね。悪魔についての書です」
ランスロットとアメリアは、思わず息を呑んで顔を見合わせた。
ペラペラと頁をめくるロッキードに、アメリアは上ずった声で尋ねる。
「悪魔についての、何が書かれてるの?」
「……知りたいですか?」
「ええ。とても」
「ふむ」
ロッキードは顎に手を当て、目を細めて笑った。
「いいでしょう。ですが、お代は高いですよ?」
「うっ」
アメリアがしょんぼりとうなだれる。
自給自足が主なのでどうにか生きていけるが、薬の売り上げだけではなかなか生活は厳しいのだ。
「と言っても、金銭は不要です。私は物語を集めるのが仕事なので」
「っ、なんでも話すわ!」
アメリアがぱあっと顔を輝かせ、食い気味に答える。
ロッキードはにっこりと、食えない顔で笑った。
「それでは、聞かせてください――あなたと悪魔の、出会いの物語を」
「……!?」




