来訪者
サク、サク、サク。
雪を踏みしめて歩く音が、静かな森の中に響いては吸い込まれるように消えていく。
「おーい、アメリア」
「どうしたの」
「このカブもう引っこ抜いちゃっていいのか?」
「うん。そっと抜いてね」
ランスロットが雪を搔き分けてカブをうんしょと引っこ抜く。
「しばらくはカブ料理だな」
「冬に贅沢言わないの。食料があるだけマシでしょう」
「違いねえ。だが俺は肉が食いたい。というわけで罠をしかけてみた」
「……罠?」
「ああ。簡易的なやつだけどな。ウサギでも引っ掛かってくれてりゃラッキーだ」
「そんな簡単に引っ掛からないと思うけど」
「まあそう言うなって。ちょっと見に行ってこようぜ」
肉が食えるかもしれないという期待にウキウキしながら、罠を仕掛けたほうを指さす。
アメリアの先に立ち、俺はサクサクと音を立てて歩いた。
真っ白な雪の中に、黒っぽい何かがジタバタと動いているのが見える。
「あれ、ほんとに何かかかってるんじゃないか?」
「……ずいぶん大きい動物ね」
「ああ、大物だぜ。鹿か?」
鹿や猪だったら、逆に襲われるかもしれない。
俺はアメリアを後ろに待たせて注意深く獲物に近づいた。
「んんんん。あ、すいませんハマっちゃって」
獲物がてへっと首を傾げた。
***
「せーのっと」
尻と足が雪の中にハマって抜けなくなった旅装の男を二人がかりで助け起こす。
哀れな男は、くすんだ赤茶色の髪を掻き、ずり落ちた眼鏡を押し上げて「助かりました」とへらりと笑った。
毛皮の上着を着てなおひょろりとした身体に、長い髪。話し方も相まってか、随分と中性的な印象を与える。
身長のわりに声が高いんだな。
思わずじっと男を見つめて考えていると、隣から呆れたような視線を感じた。
「罠がまさか落とし穴だったとはね」
「だって、雪が降っていい感じに隠れそうだったんだ」
俺がむくれて言い返すと、男は恥ずかしそうに笑った。
「いやあ、いい年して落とし穴にはまって抜けなくなるなんて思わなくて。ちょっと楽しかったです。お尻は冷たいけど」
「……悪い」
俺は流石に決まりが悪くなった。冬に濡れて体温が奪われるのは死活問題だ。つい先日それで生死を彷徨った身としては見過ごせない。
男は責めるつもりはなかったらしく、余計なこと言ったとオロオロしている。
「とりあえず服が乾いてから出発しなよ」
「いいんですか?私が勝手にハマっただけなのに」
「いいさ。掘ったのは俺だ」
「んんんん。ありがたいですねえ」
すたすたと家に向かって歩き始める俺に、アメリアが焦ったように耳打ちする。
「ちょっと、入れなかったらどうするのよっ」
「え?旦那が留守だから大丈夫じゃないのか?」
「……師匠がいないときに誰か来たことないからわかんない……」
途方に暮れるアメリアと対照的に、俺は楽観的だった。
入れなかったら鍵が壊れてるとかなんとか言い訳すりゃいいし大丈夫だろ。
何かあったら俺がアメリアを守れる。
「まあ、入れよ」
俺は家主のように偉そうに扉を開けて招いた。
旅人は目を細めて笑い、扉は無言で俺たちを受け入れた。




