古書店にて
カランカラン。
その日の夕方、悪魔はぐったりしながらアンダーソン古書店の扉を開けた。
店主は読んでいた本から目を上げ、驚きつつも柔和な笑みを浮かべた。
「いらっしゃい。――なんだ、珍しいじゃないか」
「こんばんは、アンダーソンさん。久しぶりだね」
「本当だよ。老いぼれには長すぎて、うっかり死んでしまうところだった」
「ダメだようっかり死んじゃ。ほら、薬」
「ほっほっほ。助かるねえ。ところで、さながら熊のようになかなか人里に降りてこない君が、今日は何用で街に?」
「熊なら人里に降りてこないほうがありがたい話じゃないか。――まあ、ちょっと情報収集にね」
「そうかい。情報は集まったかい?」
「まあ、それなりに。明日も街に出かけるから、今日は泊めておくれよ」
「しょうがないねえ。で、何が聞きたいんだい?」
「流石アンダーソンさん。話が早い。最近どうやら、『魔女』について嗅ぎまわってる輩がいるようなんだが。何か知らないか?」
「『魔女』?」
アンダーソンは興味津々といった様子で目を輝かせる。
立ち上がってコーヒーを淹れ、悪魔の前にカップを置いて問い返した。
「アメリアのことかい?」
「たぶんね。よかった、まだ彼らは街はずれのおんぼろ古書店が魔女の行きつけだって情報は握ってないわけだ」
「言ってくれるね。まあ、年頃の女の子が好みそうな場所ではないから、まだ調査対象に入っていないんだろう――調べがつくのも時間の問題だろうが」
「その通り」
悪魔はやれやれというように肩をすくめる。
「マリラの店で怪しい男が客に扮して聞き込みをしていた。ここも危ない。アンダーソンさんも気をつけて」
「そうするよ。ところで彼らは何者なんだろうね?目的は?」
「そこだよ」
悪魔は淹れてもらったコーヒーをチビチビと啜り、ほうと息をつく。
「何か知らないか、アンダーソンさん」
「残念ながらお役に立てそうにないな」
「だよねえ」
悪魔は椅子の背にもたれて腕を組み、うーんと唸った。
「徒に頭を悩ませても仕方ないね。明日考えるとするか」
「そうしておくれ。――ああ、そうだ、王宮の近辺には気を付けるんだよ。ユーサー王の後継争いでピリピリしているからね」
「ふうん。何かあったの?」
「うん――第二王子が、消えた」
消えた。
悪魔はその言葉を口の中で転がしながら、腕を椅子の背にぐるりと回した。
「この服で行っちゃダメかな?」
「やめておくれ。フードが深すぎて不審者だよ」
「緑色の目を晒していくのと、どっちが危険だろうね?」
そう言って悪魔は肩をすくめて薄く笑った。




