街へ
翌朝、アメリアとランスロットは早くに起きて街へ出かけた。
朝は凍える寒さだったが、森を抜けて街に出る頃には日が高く昇っていて少しだけ寒さが和らいだ。
「ランスロット、あなたのコートも買おう」
「おう、ありがてえ」
アメリアは慣れた足どりで街を歩き、するりと店に入った。
「おばちゃん、こんにちは」
「ん?アメリアかい。いらっしゃい」
アメリアに付いて店に入ると、狭い店内に衣類と革製品がずらりと並んでいた。
物珍しさに店内を眺めまわしていると、女店主がにやりと笑って声をかけた。
「男連れかい?珍しいじゃないか」
「あはは、そうだね。この人のコートを買いに来たんだ。森は寒いから、うんとあったかいの」
「任せなさい。あんた、よく見ると背が高くて精悍な顔してるじゃないか。何着ても似合うさね」
「だって。よかったね」
「おう、流石は店主。見る目があるねえ」
「似合いのお二人さんだけど、アメリアのいい人じゃないのかい?」
「ちが」
「なんだよアメリア、照れんなって」
「は、何も、照れてなんか!」
「痴話喧嘩かい、仲良いねえ」
とっておきを持ってくるから、待っておいで。
そう言って、女店主は奥に引っ込んだ。
「……悪かったって」
隣から冷ややかな視線を感じて、俺は素直に謝った。
アメリアが怒るだろうことは分かっていたが、動揺した顔が可愛くて、からかいたくなったのだ。
「さあお二人さん、持ってきたよ。飾りボタンとベルトがしゃれてるだろう。今年の新作だよ。黒とグレー、どっちがいい?」
「どっちがいい?」
俺はアメリアの機嫌をとるように言った。
「自分で選びなよ」
不機嫌そうなアメリアに、甘えるように「選んでくれよ」と笑った。
「……グレー」
「うん」
会計をして店を出た。
買ったばかりのコートに袖を通し、腰のベルトを締める。
今までの自分だったら、王子の護衛をするのに目立つからと黒一択だった。
アメリアが俺のために選んでくれた色に、にやにやと口元が緩むのをぐっと我慢した。
その後、露店で串焼きを買い食いしながら、マリラの薬屋に向かった。
「やっぱ肉はうめえなあ」
「ごめんね普段野菜ばっかりで」
「拗ねんなよ。俺、アメリアの料理好きだって」
「はいはい。言ってなよ」
「ほんとなのに」
マリラの薬屋の目の前まで来ると、中から話し声が聞こえた。
「お客さんかな。ちょっと待ってたほうがいいかも」
扉の外から中の様子を窺うと、低い男の声が聞こえた。
「――、――魔女を探している」
「魔女?……さあ、知らないねえ」
困惑したようにマリラが答える。
魔女という言葉に二人はひゅっと息を呑み、顔を見合わせた。
「本当に知らないのか?森に棲む魔女のことだ。不気味な薬を作って売りさばいている」
「さあ……」
「……知らないならいい。邪魔したな」
男が二、三人店から出て行く気配がする。
隠れたほうがいい。
ランスロットは直感的にそう思い、アメリアの手を握って駆けだした。
「アメリア、こっちだ」
店の裏の路地に回り込み、アメリアを隠すように庇って息を潜める。
しばらくそうしてじっとしていると、ザクザクという足音が遠のいていった。
「……行ったか」
ふう、と息を吐き出す。
視線を正面に戻すと案外近くにアメリアの顔があった。
アメジスト色の瞳と目が合い、握っていた手をぱっと放す。
「わ、悪い」
「いや……ありがとう」
互いにぎこちなく目を逸らした。
「……もう少し、ここで待つか?」
「……うん」
力が抜け、二人で路地に座り込む。
「……魔女って、あんたのことか?」
「……私のことだと思う。でも、私は魔女じゃない」
「そうなのか」
ほっとしたような、意外なような。どっちつかずの気持ちのまま、ならば彼女は何者なんだろうと思った。
俺の思考を読んだように、アメリアが呟く。
「ただの人間だよ。悪魔に拾われただけの」
「……家主の旦那が悪魔なのは、本当なのか」
「うん」
通りを人々が忙しなく歩いていく。
俺たちは路地裏で子どものように座り込み、昔話をした。




