七話
07
「じゃああなたの事は内緒にしておくわね」
散々泣いた後にそう言われた。午後からは娘が来るからと教えて貰い病室を出た。
スキルが使えたのもまずいので、見知らぬ優しい人がくれたポーションのおかげと言う事にしてもらう運びとなった。
お互いに何度もお礼を言いあっておかしくなって笑って別れた。病院を出てからギルドカードを確認する。今日の稼ぎは五万ほど。
一日を過ごすには十分すぎるほど。鬱々と生活していた俺にとってこんなに晴れ晴れとした気持ちで街を歩ける日が来るとは思って無かった。
誇らしさを胸にお昼を決めようと歩き出した。
――――――
ダンジョンの帰り。田中病院へ立ち寄った。森田とセシルも中谷ユカリに会えるのを楽しみにしている。
付き合いこそ二年ほどだが家族のように感じれるくらい仲はいいパーティーだ。
昼くらいにダンジョンを出て諸々の買取をしてもらった。宝箱から出た剣は二十万で売れた。
金が無ければ薬も買えない。
もしもユカリを助けるのに有用なものがオークションなどに出れば、全財産をかけてでも落とすつもりだ。
それはアビスメンバーが思っていた。
自分達が不安がってても仕方ないのでいつも通りに笑顔で行こうと決めて入院棟に入った。
ユカリの病室の方が騒がしい。何かあったのかと急いで向かう。
病室には医師や看護婦の人が大勢居た。
そこにアンナやマナ、ユナの姿もあった。
「どした。ユカリさんに何かあったのか」
入口付近に居たアンナ達は泣いていた。
まさか……と一抹の不安がよぎった。しかし三人は笑顔でこちらを向いた。
「治ったんです……母の病気が治ったんです」
みんながその言葉を頭で反芻する。治った。
様々な病気がダンジョンでの研究の末に治りつつ昨今。未だに克服出来てない病気が治った。
思わずアンナに近寄り肩を掴んだ。
「治ったってどうやって!新薬でも開発されたのか!」
その問いにアンナは首を横に振る。
静かにベッドの方を向いた。医師達が頭をかいたり、少しため息を出しながら解散していく。
ユカリの姿を見た三人は益々混乱する。そこには二十代と言われても遜色ないユカリが居た。
けれど間違いなくユカリだった。優しく、攻略が終わったあとに家に招かれた時にはご飯を作ってくれた。
冒険者である双子を心配しているがそれでも子供の夢を応援する心優しき母。
「みんなありがとう」
その声が聞こえるとフラフラとベッドの方へみんな歩き始める。
「ほ、ほんとに治ったのか?」
「えぇ。どうやったかは内緒。約束なの」
「お母さん知らない人から貰ったポーション飲んだみたい」
「信じらんない」
マイとユイがそう言いながらもベッドから離れない。その顔は泣いたあとが分かる。
文句を言ってるように聞こえるが声色は嬉しそうだった。
「そりゃ……不用心……だな。でも……良かった」
ついに佐山、森田、セシルの三人も泣き出した。目を押えて堪えようとするのに涙が止まらない。
暫く泣いたあと色々と話を聞いた。
見知らぬ人がポーションを渡してきた。飲めば助かるかもしれないと。助かる可能性があるならと飲んだら治った。そう言われた。
「でも……それ警察案件だろ」
「ううん。それはダメよ。私被害届出さないもの」
「病院が不法侵入で訴えたりはしないの?」
「それもしないはずよ。その人しか治せないんだから。下手に掴またりして刺激したら二度と手伝って貰えなくなっちゃうかもでしょ?」
それはそうだ。医学が発達した今でも治らない病気は沢山ある。それを待ち望んでいる患者も大勢いる。
病室に入ったなら入室履歴は残ってるはず。もし病院がアクションを仕掛けるとしたら名前から接触くらいだろう。
病院が被害届を出せばきっと大事になる。そう言うのを嫌う人なら雲隠れするだろう。それにポーションを渡したと言っていたが、研究所の可能性は低い。
もし発見、新薬が製造されているのなら病院側が知らない訳がない。
となるとダンジョンでの副産物。宝箱などから発見された可能性が高い。
偶然かもしれない。しかしその人しか知らない宝箱、階層での発見なら刺激をすれば非協力的となる可能性がある。
冒険者ならダンジョンへ潜って姿を隠したり、別のダンジョンへ行ってしまう可能性すらある。
「……その様子じゃどんな人かは教えちゃくれないんだろ?」
「えぇ。あなたたちの事を大切に思ってるけど、その人も私の大切な人なのよ」
「そうかい。体はほんとに平気なのかい?」
「えぇ。今日色々検査して問題なかったら明日退院よ」
礼をしたかったが多分無理だと判断する。その人は治す代わりに誰にも言うなと取り決めたんだろう。
ユカリも命の恩人からの願いだから譲らないだろう。
「ねぇお母さん。その人何も要求してないの?」
「大金寄越せーとかもなかったの?」
「無いわ。ただ治してくれて、このことは内緒と言って帰って行ったわ」
そんな聖人のような人が……そこで佐山、森田、セシルは顔を合わせた。
「どうやってるかは内緒ね」
ダンジョンに入って不思議な方法で宝箱を開けてくれた高山と言う女子高生の格好をした冒険者。
けどまさかなと頭を振った。
「じゃ退院したらパーとお祝いしようぜ」
「いいわね」
「賛成」
明るい雰囲気でその場は解散となった。
その人物が気にはなったが…深入りはしない。ただ訪れた幸せを噛み締めるようにその光景を目に焼きつけるのであった。
――――――――――
「お昼何食べよ」
病院を出て店に入ろうかと思ったが勇気が出ない。一人で入って笑われたら…とか。マナー知らないし。と考えてしまった。
お腹は空いてる。そうやって歩いているとクレープの屋台を発見した。
飯時にクレープはみんな食べないようで空いていた。作ってるのは優しそうなお姉さんだった。
食べたこと無いし。あそこにしてみようかなと立ち寄る。
「いらっしゃいませ」
「……」
ペコッと頭を下げてメニューを見てみる。不思議な横文字が並んでて頭がクラクラする。
こういう時は……。
「店員さんのオススメってどれですか?」
「ウチの屋台は初めて?」
「はい。と言うかクレープを食べるのが初めてで」
「ならオーソドックスなのがいいかも」
と教えてもらったのは、ストロベリー、バナナ、チョコの三つ。この店はここから色んな種類の果物、ソース、ホイップをトッピング出来るらしい。
少し悩んでストロベリーにしてみた。
バナナはたまに食べれたし、チョコも半額のものを少しは食べたけど。イチゴは高くて買ったこともない。
果物買う余裕はなかった。それよりも腹持ちがいい物を選んできたから。バナナもチョコもカロリーが取れて良かったから買ってただけだし。
「はいお待たせ。ちょっとサービスしたから食べてみて」
「ありがとうございます」
両手で受け取る。イチゴがホイップの間に挟まっていて可愛かった。宝石箱のようなそんな食べ物。
屋台の傍には椅子も置いてありそこで食べてもいいよと教えてもらった。
邪魔にならないように端っこに座ってまずは眺める。クレープの上から手が汚れないようにと紙で包んである。それもピンクと花柄が描いてあって可愛い。
そして一口食べてみる。
驚いた。クリームの甘さ、イチゴの酸味。それらを調和させるようなクレープの生地の程よい味。
三位一体の織り成す味のコラボレーションは噛めば噛む程に、互いの良さを引き立てあって飽きさせない。
たまに口の端にクリームが付くのを人目も憚らずに指で掬って舐めとる。
そのくらい美味しい。一口食べる度に口に広がる幸せ。頬が落ちないように手で支えて堪能する。
行儀が悪いのは理解してるが足をパタパタと動かしてしまう程美味い。スイーツとは最高の贅沢だ。
オーソドックスなストロベリーでこれならトッピングなんてしてしまったらどうなってしまうのだろうか。
これ無しでは生きれなくなってしまわないか。そんな不安が過ぎるほどに美味しい。
包みを食べないように少しづつクレープを動かしながら食べる。甘さに程よく満足した頃に質素な生地の味が強くなる。
最後は余韻に浸りながら美味しさを噛み締めた。
包みを丁寧に折ってご馳走様でしたと手を合わせる。食べる前のいただきます忘れてたな。
なんて思いながら前を向くと行列が出来ていた。
目をぱちくりさせていると何人かと目が合った。
「美味しそうに食べてるから並んじゃった」
「何食べたの?」
「ストロベリーです……」
「それにしよっと」
陽気なお姉さん達にそう言われた。顔が赤くなるのを感じた。食べる姿見られてた?!
あまりの恥ずかしさに屋台横に置いてあるゴミ箱に包みを捨てて素早く立ち去る。
その時後ろから。
「また来てねー!」
とクレープのお姉さんの声がした。
振り返って頭を下げた。
あああああ!!!
恥ずかしい!!!
けどまた来てと笑顔で言われたからまた行きたい。今度はトッピングもチャレンジしたい。
今度はちゃんと礼儀正しく食べる!
そう決意しながらその場を後にした。
「あの子めっちゃ可愛かったね」
「ねー。一口食べる度に笑顔になって足パタパタさせてたのめっちゃ可愛い」
「あれ見せられたらちょっと食べたくなっちゃうよね」
「ギャルっぽいのにちゃんとご馳走様してたの高評価」
「注目されてたの気がついた時に顔赤くなるのほんっとにムリ……あのつよつよ顔面からあんな顔されたら堪らんって……」
などと言う会話が屋台の列からは聞こえていた。
クレープの繁盛を喜びながら作るお姉さんもひっそりと「あの子また来てくれないかな」と思うのであった。
――――――――
「はぁ……恥ずかしかった」
逃げるように立ち去ってから次に来たのは武器屋。中に入って見るとそこそこ人がいる。
武器はショーケースに入れられて簡単に手に取ることが出来ないようになってる。
前までは格好がボロボロで入りずらかった。それにヒソヒソと陰口を言われたりしてたから。
でも剣の整備はしないといけないから来てた。
周りを見る事もせずにじっと地面を見て過ごしてた。整備が終わると足早に立ち去っていたし。
今は武器は必要無いのだが自分の持ってる武器の性能がどんな値段なのか調べたかったのもある。
こうやって武器を見るのも好きだし。
「……いち、じゅう…………ひゃく……」
値段を見て驚く。刃こぼれしにくくなると言う効果付きの武器で五十万。
となると希少性などを考慮したら百万以上の価値は超えてる。それを数本スマホにぶら下げてる事になる。
「何かお探しですか?」
そう声をかけて来たイケメンの店員。俺は知ってる。ボロボロの服を着ていた俺に舌打ちまでした店員だ。
目を合わせないように答える。
「武器を見てるだけなので気にしないでください」
多分女慣れしてるんだろうな。俺にそう言われたのが意外だったらしくたじろいでいた。
そいつから離れるように別のショーケースを見に行く。比較的安い値段の武器が並べられている。
昔は剣のデザインも違っていた。無骨なデザインのものが多かったが最近は色んな形のものが売られている。
ケースを見ているとさっきの男の声が聞こえてくる。「こちらオススメでして……」相手は女性。
俺の時にはめちゃくちゃ嫌な顔してたのにな。
女性の接客が終わったその職員は男性の冒険者が商品の場所を聞くと無言で指を指していた。
こういう奴も居るか。俺は若干苛立ちながら商品を見た。
最近は特定の魔物用の解体ナイフもある。
刃が湾曲していてどうやって使うのかも分からない。
「こちらはオーク用の解体ナイフとなってます」
さっきの男が凝りもせずに近寄ってきた。
見た目で人の印象が変わるのは理解してる。ボロボロの服を着て清潔感の無いおっさんと、スタイルが良くて綺麗な女子高生とではその差は歴然だろう。
けど。人によって態度を変えるヤツは嫌いだ。
「聞いてません。私は私のペースで商品を見たいのでお気になさらないでください」
今度は睨むようにそう告げる。男は「し、失礼しました」と弱々しく言うと早歩きで何処かへ行った。
少し嘆息をついてからまた見始める。
商品を見ながらあの男の言葉を聞いているとやはり男女で態度を変えてるようだ。
それにしてもこの体耳がいい。こういう部分も伸びているのは素直に嬉しい。
暫く見たが武器はやっぱり今のものを使った方が良さそうだ。
この店の二階には高額な武器も取り扱っている。数千万や億単位のものだ。
そのくらいになれば一本二本持っておくといざと言う時に安心かもしれない。
武器も解体ナイフも今はいいや。百層を超えて必要になれば買いに来よう。
あとは何かあるかなと周りを見ると雑貨品が売られていた。そこに行くといいものがあった。
解体する時に手が汚れない手袋。魔物の素材を使用していて水を弾く、怪我防止で厚みがある。
触ってみると少し使いにくそうだけど使う内に柔らかくなるだろう。革手袋とかと同じだ。
それに肘上まで手袋があるのもいい。
値段は五万。今日の収入は無くなるけどいい。
ゴブリンの魔石を取る時に少し気になってたから。
血だらけになるのは構わないけど、服に血がついて汚れ知らずで綺麗になったら、何その装備!と言われる可能性もある。
あの時は腕まくりをしてやったからバレなかったけど。
そうしてお会計をしに手袋を持っていく。
あの男がレジに居た。少し気まずそうにしながら解決をしてくれる。
ギルドカードで決済をしながら言う。
「人によって態度変える接客はやめた方がいいですよ」
そう言うと驚いた顔をした後に汗を流しながら「すみませんでした」と弱々しく言った。
店の信用を失いかねないし、客としても嫌だ。
女性への接客は丁寧で分かりやすかった。少しでも変わってくれればいいなと思いながら、買った商品を手に取った。
店をそのまま出て今日泊まるビジホを探すのであった。




