六話
06
宝箱の集計表を見せてもらい足を止めたら休憩の雰囲気になった。周りに敵も居ないし七十二層からずっと歩きっぱなしだったので俺も休憩にした。
「珈琲、紅茶、ジュース、お茶、水。好きなのある?」
「俺は珈琲が好きだな。砂糖たっぷりのやつ」
「私は紅茶が好きよ。無糖が特に好きね」
「私はエナジードリンクが至高」
出すとは言わずに好みの飲み物を聞いてスマホを操作する。砂糖たっぷりは難しいな。
珈琲と角砂糖出せばいけるか?
紅茶は銘柄を聞くとアールグレイ。エナジードリンクは化け物と言うものだった。
そんな飲み物あるの?
スマホでそれらの画像を集めてから生成する。
生成する所は見られたらまずいのでひざ掛けでガードする。昨日の水は収納鞄から出したように見せかけたので多分大丈夫のはず。何も突っ込まれなかったし。
「……はえぇ嬢ちゃんすげぇな」
「これ美味しいわ」
「おぉ……神。感謝」
俺はアイスラテにした。みんなでブレイクタイムになった。座って駄弁るなんて事はしてこなかった。
こういうのも悪くない。
「どうやってるかは内緒ね」
「聞かねぇよ。掟だからな」
「冒険者の手の内を探る真似は禁止よね」
冒険者の手の内は明かさない。探らない。
それは命のやり取りに直結するから。
身体能力が向上するスキルがあったとする。それはデメリットとして効果時間を過ぎると体が動かなくなる。
これのデメリットを話すと戦闘終了後に他の冒険者に襲われたりする。
今普通に使ってる収納鞄。これにはナンバーが割り振られている。過去にそういう冒険者の事を狙う犯罪者が居たのだ。
そして回収した素材をギルドで売って豪遊。と言う事件。
その後目撃者が出たり、襲ったものの返り討ちにあったりで犯人が特定された。
特定された犯人はダンジョンに潜って行方を消したとされているが……。多分他の冒険者の私怨で殺されていると思う。
犯罪をするのも容易だが、復讐するのも容易なのがダンジョンだ。
なのでギルドの規定、掟と呼ばれてるもの。それでは他の冒険者への探り行為を禁止にする。また人にスキルの内容を話すのを禁じるとある。
仲間内では知っててもいいが、他の人に教えてもらないない。話してはいけないと言う掟を作ったのだ。
「この珈琲美味いな」
「そりゃよかった」
「こんな不思議な嬢ちゃんに会えるならあの二人にも会わせてやりたかったな」
「?」
あの二人が誰を指してるのか分からず頭を傾げていると佐山が話してくれた。
元々アビスは五人パーティーだった。一番年上の佐山。次に森田、セシル。最後にここには居ない学生の斧使い二人の双子が居たそうだ。
ただその双子のお母さんが病気で倒れて今はパーティーを離れて看病しているそうだ。
「それは……元気になってくれるといいね」
「おうさ。俺達もちょっとでも役に立てるように稼いでるって訳だ」
「それに宝箱から病気に効く薬が出るかもしれないわ」
「何もしないよりマシ」
いいパーティーだ。きっとその斧使いの双子もこの雰囲気に似合う子達なんだろうな。
「いいパーティーだね」
「だろ?俺がみんなを勧誘したんだ。人を見る目があるだろう」
「女性しか誘わないのはちょっとどうかと思うけど」
「しゃ、しゃーねーだろ!いいなと思ったやつらがみんな女性だったんだから!」
双子も女の子らしい。佐山と森田が言い合いを始めてどうするか悩んでたらセシルが隣に来て座ってきた。
「大丈夫。いつもの事」
「仲良いんだね」
「うん。中谷達も早く帰ってきて欲しい」
「そうだといいね」
中谷…………まさか。色んな人が集まる場所だ。中谷って名前も偶然同じなだけだろう。
悟られないように流して聞いていた。
「中谷の双子ちゃんお姉さんがギルド職員。お姉さんもお仕事休んでるみたい」
「へ、へぇ……そうなんだ」
個人情報!!!
セシル?!
顔を見ると相変わらず無表情。エナジードリンクをごくごく飲んでる。
「入院してる病院は大通りにある有名な所」
「待って待ってセシル。個人情報言い過ぎ。それを話されても私にはどうにもできないよ」
「知ってる。でも話しておけば誰かが有効な薬見つけて届けてくれるかもしれない」
セシルの顔は無表情だけど膝に置いた手は服を強く握り締めていた。
佐山も森田も言い合いをやめてこっちを見てた。
「言い値とまではいかないがもしも有用な情報かブツがあれば教えてくれ。礼は弾む」
「私からもお願い」
本当にいいパーティーだ。
真剣な眼差し。ちゃんと大切な仲間だと思ってるんだ。こういう雰囲気いいな。俺は体験したことないけど。
第二の家族って感じなんだろうか。
俺はその目をしっかりと見てから返事した。
「分かったよ。けど期待しないでね。私見ての通りソロだし、マイペースに攻略しかしてないから」
「わかってるよ。でも嬢ちゃんは女神様だ。もしかしたらって思ってるぜ」
そう言って二カッと歯を見せて笑う佐山。頼れるお兄ちゃんって感じがするな。
それにしてもまさかの中谷かぁ。
感謝は忘れてない。あの人だけが俺を人として扱ってくれた。その恩を返す時が来たのか。
アビスのみんなに会えたこと。この情報を聞いた事。多分偶然では無い。導きのような何かだろう。
それに……。
中谷の顔が浮かぶ。いつも笑顔で仕事に熱心。そういう人は報われるべきだ。
目を閉じて心に問う。
助けたいか。
直ぐに答えは出た。
俺は立ち上がる。
「休憩も終わったし私は帰るよ。七十二層の転送ゲートも登録したし、七十三層の下見も終わったし」
「おう!俺たちはもう少し攻略していくからお別れだな」
「本当に助かったわ」
「感謝」
みんなから空いた容器を回収する。俺が手に取ると容器は消えた。不思議な能力……。あのスマホやっぱり壊れてるだろ。
手を振って別れてから急いで帰る。転送ゲートでダンジョンの入口に飛ぶ。
時刻は十時くらい。
受付で査定を終わらせて魔封じの腕輪をつけてから外に出る。
大通りまでを走る。多分走らなくてもいい。でも気持ちが焦ってる。早く行ってあげないと。
病気がどんなものか分からない。でも神聖魔法の回復。使えるかもしれない。使い方は分かるけど効果があるかどうかは分かってない……。
病院にいれば安心かもしれない。でも未来の不安は付き纏う。その感覚を俺は知ってる。
笑ってても頭の中、心の何処かに潜んでる不安。それは次第に心を蝕んでいく。
気がつけば心は壊れて……気持ちや何もかもに火がつかなくなる。
大通りの病院。田中病院。一般人、冒険者両方に対応している病院。俺も昔大きな怪我をした時に来たことがある。
一応名目上お見舞いと言い切る為に花屋で花を包んでもらう。
そして病院のロビーで場所を聞いて必要事項を記入する。
三階の入院棟へ向かう。そして目的の部屋を見つけた。中谷ユカリという名前なのか。中から声はしない。ノックをすると声が聞こえた。
「はい」
「失礼します」
とドアを開ける。あぁ目元がよく似てる。中谷のお母さんとすぐに理解した。
中は個室のようで都合が良かった。
「どなたかしら?」
「初めまして。高山と言います。ダンジョンでアビスの皆さんと話す機会がありまして。何も出来ませんがお見舞いをと思いまして」
「まぁ。そんな律儀な事しなくても。でも嬉しいわ」
「アレルギーなどは大丈夫ですか?」
「えぇ。花は毎週買うくらい好きなのよ」
そう言って花束を渡す。店員の人にお任せで包んでもらったが嬉しそうな顔をしていたので良かった。
花束の匂いを嗅いでいる。
「それでご容態の方は」
「……癌よ。ステージ四って言われたわ」
癌……未だに人類が治せない病気だ。ダンジョンの回復ポーションなどでも治せない。しかもステージ四なら尚のこと……。
回復スキルも気休め程度。回復ポーションで少しは治る。けれど回復ポーションは飲み続けると中毒症状が出る為、数時間は飲めない。
それは冒険者の話。この人は見る限り魔力がない。
一般人だ。そういう人は月に一度しか飲めない。
個人差はあるものの冒険者よりも中毒症状が出るのが早い。
なので薄めて投与するか、飲んでから時間を空けるしかない。
神聖魔法を使っても治るかどうか分からない。けど使うにはこの人に話さないといけない。
強制的に使ってナースコールを押されたら俺は犯罪者になる。
それでも……。
「もし……もしも……。治る可能性があるなら試したいですか?」
俺の言葉を聞いて花束から顔を上げた彼女の瞳にはまだ光があった。熱がある。
そうだよな。俺もあの晩嘆いた。
生きたいと。死にたくないと。
そうだ。生きる希望があるなら迷うな。
俺も踏み出せ。この人の方がもっと辛いんだ。
「私には神聖魔法と言うスキルがあります。その中に回復魔法があります。治ると断言はしません。でも賭けてみませんか?」
そう告げると驚いたような顔をしていた。そしてゆっくり目を閉じてから花束の匂いを嗅いでいた。
「まだ私は諦めないでいいのかしら」
「はい。きっと。私がアビスの皆さんに出会えたのもお導きと思ってます」
「……そう……高山さんと仰っていたわね。お願い出来るかしら」
「お任せください」
「また花の匂いを楽しみに出来るのね」
「……やれるだけやってみます」
そうして俺はベッドの横に膝をついて彼女の手を取る。魔封じの腕輪はあるが俺には関係ない。
祈るように取った手を額に当てながら発動する。
「神聖魔法……回復」
手から白金の光がゆっくりと出てくる。それはユカリの体を包み込んでいく。
「これは……綺麗ね」
「……そうですね」
そう呟くユカリの声は震えていた。そうだ。その場で一番不安なのは彼女だ。俺じゃない。
俺は効かなくても謝罪して逃げて関係者に会わないようにすれば生きれる。
けどこの人は違う。これが失敗すれば延命は出来るかもしれないが未来はない。
邪神でも女神でもいい。この人の病気をどうか治してください。
そう心の中で祈りながらスキルを使い続ける。
何分そうしていたのか分からないが。段々とスキルの光が消えていく。
不安はある。本当に効いてるのか分からない。
そして完全に光が消えてスキルの発動が終わった。
ユカリの方を見てみる。すると彼女は驚いたような顔をしていた。自分の手を見たり、体を触っている。
俺も変化に気がついた。若返っている?
目尻のシワやほうれい線が無い。
「あなた……これは」
「いえ。自分も驚いてます」
「手のシワも無いわ。それに体も痛くないのよ」
そういう彼女の目には涙が浮かんでいた。
多分大丈夫だ。この人はもう大丈夫。けど不安はあるので……。
「あ、あの。もし良かったらツーショット撮りませんか?記念と言う事で」
「あらいいわね。私も自分の顔見てみたかったのよ」
そう言ってベッドの横に腰掛けて二人並んだ所を撮った。狙いは鑑定だ。
もしも人体の病気も鑑定出来るならこれで確認出来る。流石に流れ的にも不自然かと思ったが、ユカリはテンションが上がってるらしく受けてくれた。
「ほら……お綺麗な顔をされてますよ」
「あらヤダ。シワが無いわ。あなた凄いのね」
「いえ……こうなるとは思わなくて」
写真を見せたあとは鑑定を使ってみる。
中谷ユカリ。年齢四十二。女性。魔力無し。身体健康体。
女性の年齢を知ってしまった罪悪感はあるものの。最後の健康体を見て涙が出る。
良かった。この人は生きれる。諦めなくてすんだ。
期待に応えてあげられた。
運で手に入れた力。実力でもなんでもない。けれど期待に応えられた自分が誇らしかった。
それが何よりも嬉しかった。止めようとした涙は勢いを増してしまった。
「あらあら。どうしたの。ほら私は元気にしてもらったわ。安心しちゃったのかしら」
そう言って俺を抱き寄せて頭を撫でてくれる。
人って温かいんだな。そう感じながらただ心地いい感覚に身を委ねて素直に撫でられるのであった。
「す、すみません……」
「いいのよ。それより本当にありがとう。病気って分かって心配かけたらいけないってずっと笑ってたのよ。けど今なら心から笑えるわ」
そう言って笑うユカリの顔にいつもの受付の中谷の姿が重なる。
親子なんだな。そう思い少しだけ羨ましく思う。
「私冒険者で……中谷さんにずっと優しくしてもらってたんです」
「そうなの?アイナったらこんな可愛い子を誑し込むなんて」
「いやいや誑し込まれ無いです!」
「ふふっ。これからもアイナをよろしくね」
「はい」
さて多分もう大丈夫。でもどうする。
珍しいスキルだし、黙っててもらう?嘘ついて貰う?
自分が嘘つくのはなんて事ないけど人にそれを強要するのはちょっとなぁ……。
それにバレたらあれこれ聞かれるか……?
角あるししっぽあるし……目立つし……。
「あなたのこと話さない方がいいのかしら?」
「えっ?」
「一般人でもアイナがギルド職員でしょ。アビスには冒険者のマイとユイが居るわ。あなたのその力が貴重な物ってのは分かるわ」
「い、いや……その。娘さんや周りの人騙させるのは違うと思いまして」
「違うわ。娘も私を支えてくれる人もみんな大切だけど。あなたも大切だから。私が言いたくないのよ」
その言葉に思わず顔を上げた。優しく微笑む顔。頬に手を添えられる。
「私にあなたを大切にさせて。これは私が出来る最大の恩返しなの。もちろん他に頼み事があれば叶えられるものは叶えるわ」
意味が分からない。感情が追いついて来ない。
俺が大切に。そんなこと言われた事もない。感情の整理はついてないのに、涙だけは勝手に零れ落ちていく。
困惑、嬉しさ、恥ずかしさ。色んな感情が胸に集まる。どれもが混ざり合い言葉に出来ない。
「……ありがとう……ございます」
俺はただお礼を言って泣くしか出来なかった。そんな俺をただ優しくユカリは抱きしめてくれた。
人として生きていたらこの感情にも説明が付く日が来るのかな。そんな事を考えながら涙が止まるのを待つしかなかった。




