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五話

05


 制服姿で色々疑われたがギルドカードを提示するとすんなり泊まることが出来た。

 一泊八千円のビジホ。


 コンビニで美味しそうなパスタとサラダ、インスタントスープ、ココアを買ってきた。

 電子レンジは付いてるので温める。


 それとアパート大家にメッセージを入れておく。退去する旨を書いておく。必要費用があればメッセージをくださいと。


 あのまま失踪するつもりだったけど。こうして生き残ったのならちゃんとしないといけない。


 返事は早かった。急に決まった退去の話申し訳ないと言うのと、リフォームで壊したりするから費用は気にしないでくれと言うものだった。

 長年お世話になったがいい思い出も無いのでこれで終わった。


 しかしこのスマホなんで普通にメッセとか送れる……?使用料金は……?マギフォンに該当するから要らないのか?


 マギフォンは魔力を使って連絡をしたりする物だ。月々の支払いなど無い代わりにマギフォン自体がべらぼうに高い。

 いいものを貰ったなと少し微笑む。


 そしてパスタが温まる。備え付けの電子ポットからお湯を注いでインスタントスープを作る。

 コーンスープだ。


 ベッドの横にあるテーブルに並べていく。

 そして手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始める。


 パスタなんて何年ぶりだ。明太子パスタにしてみた。フォークで麺を絡めて口に運ぶ。

 明太子の味と海苔の味がマッチしていて美味しい。和風の味付けも相まって本当に感動する。

 サラダはレタス、玉ねぎ、コーンが入ったもの。別売りのドレッシングをかけて食べる。


 野菜なんてもやしくらいしか食べてなかった。

 こんなにも美味しいものなんだ。塩胡椒だけでは味わえないドレッシングの味。飲み込んだ後に残る野菜たちの風味。

 コーンスープは甘くて鼻から抜ける風味が心地いい。


 全部食べ終えてからココアをゆっくり飲む。

 甘くて美味しい。一口飲む度に頬が緩む。


「美味しい……」


 幸せ。本当に心の底からそう思った。

 こんな贅沢にも泊まりで買い食いが出来るなんて……。

 しかし。これから山場があった。


 風呂だ。ここでアイテムボックスに仕舞ったのであれやこれやが取り出せないと思ったのだが……。


「なんで……使えてる?」


 普通にアイテムボックスを開くことが出来た。ちょっと使いにくい感じはしてるが問題なかった。

 状態異常耐性。多分あれのせいだ。


 これはバレたらめんどくさいから気をつけないとな。そう思いながらお風呂の用意をした。


 シャンプーなども女神が用意してくれていたのでそれらを用意。着替えも用意。下着は……今のと似たようなものを選択する。

 薄い青色のレースのフリフリがついたもの。可愛すぎやしないか……。


 そう思いながらも諦めて脱衣所に置いていく。

 粗方の用意が終わって服を脱ぐ。


 色んな場所が見える度に顔が赤くなる……。

 まだ自分にもドキドキする心が残ってたんだ。と思いながら全て脱ぎ終えた。

 ふと鏡を見た時に思ったのは綺麗。それと可愛い。

 自分なのにそこに居たのは芸術とも呼べる程に整った顔立ちをした女性。


 髪の毛は黒く長い。膝くらいまである。目は碧色。頭から生えてる角はこれはこれで何か引き寄せられる魅力があった。


 ふと気になってしっぽの付け根を見た。尾骶骨辺りから生えてる。触って見ても変な感じはない。


「しっぽがあるのも不思議」


 自分じゃないようだと感じながら風呂に入った。

 女神の用意してくれたものは使う時に洗い方、使い方が頭に流れて女性初心者の俺でも何とか出来た。


 体も石鹸をタオルにつけて洗うのではなく、しっかり泡立てて洗うやり方が頭に流れる。


 公園で体を拭いていた時とは違うな。そう思いながら隅々まで洗う。股の部分は……恥ずかしかったが汚れてる方が嫌と自分に言い聞かせて洗う。

 胸も洗い残しがないようにしっかり洗った。


 とんでもなく疲れた。

 その後はタオルを頭に巻く。これも女神直伝。

 湯船に浸かると声が出る……。


「ああぁぁ……」


 おっさんくさいなと笑ってしまう。でも本当に気持ちがいい。湯船に浸かるのも何年ぶりのことだろう。


 浸けたタオルで腕を擦る。肌は水をしっかり弾くほど潤っている。

 水で手を洗うと水気が切れなかった程乾燥していたのに。湯船から手を出して振るう。


 水気が綺麗に飛んでいく。多少濡れているもののその差は歴然。若いって最高と思いながら足を伸ばす。

 湯船から出るが気にしない。


「それにしても足長くなったな」


 腕も伸ばしてみる。男の頃よりかは縮んだ気がする。でも長さ的にはそんなに変わってない。

 胴長短足のおっさんがどう転んだら手足も長いスタイル抜群の美少女になるんだ。


 腰も触ってみると異様に細い。くびれもしっかりついている。力を入れると薄く腹筋が見えるが薄い。

 横から見た時に厚みがない。


 こんな体なのに男の頃より高性能なんだもんな。

 今の身長は百六十五くらいか。男の頃より少しだけ目線が下だ。


「爪もこんなに伸ばしたことなかったな」


 濃い青で塗られた自分の爪を見る。伸ばされており一センチくらいはある。

 切ろうかと思ったけどなんか女子高生らしくて残してる。こういう子もいるよな。

 足の爪はちゃんと切ってあるがこちらも塗られている。


「さーて……上がろうかな」


 体も熱くなり汗がじんわり出てきた所で上がる。

 バスタオルで丁寧に体を拭いていく。


「すごっ……あの薄いタオルだと水を吸い切らなかったのに……。バスタオル一枚で全身拭ける?!」


 感動した。あのボロボロのタオルは腕を拭くだけで水を吸わなくなった。

 けれどふかふかのこのバスタオルは、全身を拭いたのにも関わらずまだ余力を残していた。


「バスタオル最高」


 と顔を埋めた。丁寧に洗われて置かれていたのが分かる。柔軟剤の匂いもする。


 その後はヘアオイルをつけて髪の毛を乾かし、化粧水などをした。

 サラサラだった髪の毛はさらに艶やかにサラサラになった。指で梳いて見ても何も引っかからない。


 指の間を通り抜ける髪の毛の感触が心地いい。


「すっごいな」


 ドライヤーも女神のものがあったので使う。こんなにも長い髪の毛なのに一瞬で乾いた、冷風を当てて熱を逃がすなど基本的なやり方も学んでおく。


「これ優遇されすぎてないかな」


 ふかふかのベッドに横になりながらそうつぶやく。

 今はパーカーにショートパンツ。楽な格好だ。男の頃も、トランクスで寝てたりしてたから、足を出すのはどうってことない。


 寧ろ楽だ。


「まぁいいか。けど使い方は間違わないようにしないと」


 今の俺は犯罪もできる。魔封じの腕輪の効力を無視できるから。

 店を開くのだって出来る。写真から料理が出せるから。でもやったらダメだ。


 それは本当に人を捨てることになる。昔のストの時や荒れた時期でも、犯罪に手を染めなかったのは、人として終わりたくなかったから。


 それを守った過去の自分を裏切るような行為は出来ない。してしまうと本当に人として終わってしまう。


「うん。気をつけ……よ……」


 そう考えていると瞼が重くなってくる。食べ物の片付けとか諸々残ってるのに。

 など考えたが体が動くことはなく夢の世界へ誘われた。










 結局早寝をしてしまったせいで早起きをした。

 昨日の片付けをして今日の予定を考える。


 ダンジョンに潜るのもあり。昨日の感覚を覚えている内に練習するのはありだ。

 それでも昼には帰って街ブラしてみたい。百体で十万なら午前中で狩れる筈。


 お金もなくて入れなかった店とか。縁がなかった武器屋とか見てみたい。


「これってウィンドウショッピングってやつ?」


 若者がやってるというものだ。直ぐに制服装備に着替える。少しテンションを上げながら部屋を後にする。ロビーで鍵を返して支払いを済ませると外に出る。


「んー……朝の空気が心地いい」


 背伸びをしながら朝の空気を吸い込む。

 絶望の朝じゃない。希望のある朝だ。


 今日と言う日に感謝しながら歩き出す。

 この幸せを続けるためにも稼ぐ。そして笑われないようになる。けど無理はダメ。命大切に。


 英雄になりたい訳でも勇者と呼ばれたい訳でもない。ただ人並みの幸せを享受したい。それだけなのだ。


 ダンジョンの受付に行って魔封じの腕輪を外してもらう。今日は女性だったので変な視線はなかった。ただ角をめっちゃ見られた。しっぽも……。


「では水晶にカードを」

「はい」


 そう言ってカードを翳してからダンジョンへ入る。

 何時もは恐怖や絶望をしながら入っていたのに。今は少し足取りが軽い。


 こんな気持ちでダンジョンに入るのはきっと初めてだ。今ならわかる。若者や仲の良いパーティーが笑いながら入っていた理由が。


 それに混じれたと思うと少しだけ誇らしい気分になった。











「ほいっと」


 ゴブリン亜種がメインで出てくる階層になった。今は七十三層。思ったよりもゴブリンが居なかった。もしかすると夜に冒険者が来てたのかもしれない。


 昼間は人が多く嫌だと言う冒険者もいる。ダンジョンの中は光源などが昼も夜も変わらないので夜を好む人もいる。


 もしかすると七十二階層はそういう人が居たのかもなと思いゴブリン亜種を討伐していく。



 そしてスマホでマッピングをしながら睨めっこしていると……。


「おーい!お嬢ちゃん!」


 と声をかけられた。声の方を見ると男性一人、女性二人のパーティーがこちらを見ていた。

 戦闘中でもないのでそちらに歩いて行く。


「どうしたの?」

「えっ?学生?大丈夫?親御さん心配してない?」


 剣を持った女性が心配してくる。

 まぁ普通にブレザーだからな。心配もする。俺も立場が逆なら心配する。


「大丈夫こういう装備。年齢も二十歳超えてる」

「そうなのね。良かった」


 金髪の髪の毛を後ろで纏めてる。腕と足以外に防具はない。男性が盾を持ってるのを見ると前衛二人か。

 残った白髪の女性は白いローブに白い杖を持っている。回復かな。


 余計な詮索はしない方がいいのであくまでも予想に留めておく。


「それで用事は?」

「宝箱見つけたんだが……俺ら見ての通り斥候じゃなくてな。金は払うから開けてくんねぇかなって思って」


 見ると木製の宝箱。こうして見ると壊せばいいとか、無理やり開ければいいと思うが、それをすると高確率で罠にかかる。


 ダンジョンは生きてると提唱されている。宝箱は人を誘い込むための罠。けれど中身が無いものばかりだと人は開けなくなるから、宝物を実際入れている。


 と言われている。ダンジョンが生きてるなんてのも検証出来た訳じゃない。


 つまりこのパーティーはお宝かもしれないものを発見したがどうしようもないと言う訳だ。

 まぁ中身がどうあれお金が貰えるならやる方がお得だろう。


「前払いならいいよ」

「サンキュー。とりあえず一万でいいか?」

「相場知らないからそれでいいよ」


 そう言ってギルドカードを取り出す。こういうお金の受け渡しも出来る便利なカードなのだ。

 しかし……。


「いやいや待て待て嬢ちゃん。七十層付近の宝箱は即死の罠もあるから相場は五万くらいだ」

「随分値切ったね」

「普通は値切りと値上げの交渉すんの!」


 なるほど。この人結構お人好しだな。

 好印象ではあるけど。


「でも一万でいいよ。差額は勉強代ってことで」

「いいのかい?宝箱は俺たちが見つけたんだ。中身の権利は俺たちにある。とんでもない高額なものだったら」

「それは別に興味無い。見つけた人のもの。ダンジョンの掟でしょ?」


 そこまで話すと男性は大笑いをした。

 周りの人も笑ってる。なんだ?ウケるようなことは言ってない筈だけど。


「嬢ちゃんは冒険者だな」

「見ての通り冒険者だけど?」

「学生にしか見えないわ」

「うんうん」


 そんなことを言われながらお金を振り込んで貰った。相場も調べないとな。こういう交流は増えるだろうし。


「じゃ始めるね」


 俺は謎解きアプリを起動して写真を撮る。そんでゲートに集中する。結構スコアが高い。

 えーとあと二回しか動かせないから……ここと…………ここを消して…………それから…………。


「何してんだ?」

「黙ってて。集中しないと開けれない」


 多分傍から見たら宝箱の前でスマホ弄ってるように見えるんだろうな。

 そりゃ疑問も出るわ。


 上手く消すことが出来て一発クリア。これは積極的に罠を見つけて解除練習した方がいいな。

 最後の解除ボタンを押すと宝箱がガチャと開いた。


「おぉー!すっげ!初めて見たやり方だったな」

「そりゃそう。私も私以外知らない」


 そう言いながら男性達は宝箱へ寄って中身を確認した。そして興奮したような声を出して中身を取り出した。


「見ろよ!新品の剣だ!!使いやすそうだな。柄は実用性が無さそうだから売ってもいいな」

「そうね。装飾品が付いてるし高値で売れそうね」

「女子高生パワー」


 白髪の女性は俺の近くにきて頭を撫でてきた。

 無表情に近いけどよく見ると口元が笑ってる。多分優しい人なんだな。


「ご利益ありますようにー」

「無い無い。これは運でしょ」

「いやいや。俺らのパーティー運が無いんだぜ。これまでの宝箱の集計表みるか?」


 男性が腰の革袋から取り出した紙をみる。これまでに五十は宝箱を開けているのに。


 当たりのものがほぼ……いや皆無だった。

 空が五回続いた時もあったようだ。


「嬢ちゃんまじで女神様だぜ。また見かけたら頼んでもいいか?」

「次は正規の値段取るよ」

「そりゃ構わねぇよ。俺はパーティーアビスのリーダー佐山だ」

「私はアビスの剣士森田よ」

「私は回復権魔法担当セシル。よろしく」

「ソロ冒険者高山。よろしく」


 そう告げて握手をした。中には騙そうとしたり、罠にかけようとするやつもいる。

 いい人たちに巡り会えて良かった。

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