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三話

03


「ギルドカードあった」


 アイテムボックスの方に入っていた。しかも腹黒い声の主。邪神と思っているがあの人の高笑いの声が聞こえたので、意図して嫌がらせをしたのだと思う。


 そしてあの澄んだ声の主は女神と思っておく。

 邪神に苛立つこともあったけど……棺の夫婦は多分……結ばれたって事だよな。それなら良かった。


 その恩恵がかなりヤバいのは自覚している。

 生活が苦しくてスマホなども解約して、テレビもない、情報は冒険者ギルドの資料室で見たりしていた。

 ここ数年はそれすらしてなかったが。


 そんな情報に遅れた俺ですら色々貰ったものが世間に出回ると問題があるのは分かる。

 そして一番ヤバいのは……。


「このスマホ……ヤバい」

 

 何はともあれまずはこの部屋から出ること。それから自分のスキルなどについて確認した。

 最後に持ち物を確認していると。スマホ。使えるのかと取り出すと……。ピンクのうさぎの形をしたスマホケースに入って、キーホルダーがジャラジャラと付いてる。


 電源を付けてみると説明書と言うアプリがあった。それを開いて中身を読むと中々に壊れていた。


「カメラを向けて撮ると鑑定が可能、食べ物の写真をフォルダに保存して魔力を込めるとそれを生成する……」


 他にも今持ってる装備などは全て盗難不可でもし盗まれてもアイテムボックスに帰ってくる。

 そしてジャラジャラと付いていたキーホルダーは武器の見た目をしている。金属などではなく何かの樹脂のような感じだ。


 試しにナイフの形をしたキーホルダーに魔力を注ぐと、手元にナイフが出てきた。

 手から離すとまたキーホルダーとして戻る。


「武器は切れ味向上か貫通向上、手入れ知らずの効果が付与されています。汚れなどはキーホルダーに戻すと消えます……」


 壊れてる。こんな効果の武器を買おうとしたらどんだけの値段になることか……。

 服もそうだ。カメラで着ている服を撮る。……自撮りみたいになったけど……。


 すると詳細が分かった。

 魔力を流してガード出来る、汚れ知らず、破損修復。最初の二つはわかってたけど破損修復は服が破れようと、切られようと治るものだ。


 そしてローファー。ガード性能、汚れ知らず、破損修復に加えて足疲労軽減。

 長く歩くと足が痛くなったりするがそれを軽減してくれるらしい。


「………………」


 絶句していた。見たことしか無かった高額装備を着ている、持っていると言う事実に。


「も、もう少し落ち着くまでここに居よう」


 色々考えることもあるし、検証しないといけない事もある。

 部屋の隅っこでスマホをポチポチしたり、スキルについてを再度確認していた。






 ――――――――――


「…………」


 調べれば調べるほどに色々引く性能をしていた。

 とはいえ生活の為にはダンジョン攻略をしないといけないし、これを機に新しい人生と割り切ってしまうのも良いように思えた。


「人生で大切な人とか居ないし」


 ふと頭に中谷の笑顔が浮かぶ。

 いやいや。あの人は営業スマイルを向けてただけ。勘違いするとキモイおっさんに…………なってるか。

 いや今は女子高生か。


 色々とめんどくさい自分の状況を整理する為に、スマホのメモアプリを開いて分かったことを書き込んで行く。


「装備類はこのまま行くしかないよな」


 便利すぎるしこんな高額装備を揃えれるなんて何ヶ月先になる事か。人とのコミュニケーションも最低限レベル。ソロで潜るのは確定している。

 パーティーとしての動き方とか全然知らないし。


「攻撃は武器ホルダーあるし、スキルもあるから問題無い」


 武芸百般はどんな武器であろうと扱いに困らないと言うスキル。ナイフを見たことない速さで回したり投げたり出来た。

 それにこの体。邪神のような人が用意したんだろうけど……。身体能力が高い。全力で空中にパンチをしたら聞いたことない音と風圧が起こった。


 それに体の確認と軽くなった身体能力を確かめる為に動いた結果。


「胸の揺れが……気になる」


 痛いなどはなかった。けれどブルンブルン揺れる胸の感触になれるのは暫くかかりそうだ。

 それにしても身体能力の向上が凄い。


 冒険者は魔力を体内に流す魔力強化と呼ばれるものが使える。これはスキルなどではなく能力に近い。

 それを使ってないにも関わらず五メートルはある部屋の天井にタッチ出来た。


 そしておっさんには嬉しい体各部の痛みが無くなっていた。スマホで文字を読む時に焦点が合わないなんてことも無くなった。

 今も戸惑いはあるものの若い体の恩恵を感じ取れて嬉しさの方が勝っていた。


 自分の体の確認をした後はスキルの確認だ。


「神聖魔法は結界、回復、状態異常回復、魔物に対する状態異常を引き起こせる、祝福で魔物特攻の強化付与可能」


 複合スキルと言うやつだ。一個のスキルの中に何個も使えるスキルが内包されてる。

 とはいえここまでのスキルは聞いたことも無い。

 スマホで色々検索も出来たので調べてみたが、似たようなスキルはなかった。


 そして元々のスキルが進化したもの。絶影は視界からも消える。幻影は文字通り敵に自分の思った通りの幻影を見せる。

 絶死。首などの急所、弱点を攻撃すると攻撃が通りやすくなる。相手の魔力耐性によって攻撃の通りは変動する。


「完全に暗殺者の女子高生……」


 ま、まぁ元々根暗だし……。人慣れしてない俺にとってはラッキーって事にしておこう。うん。

 元々魔物と戦う時に正面切って戦うやり方は苦手だ。石などで注意を逸らして一撃。そう言うやり方の方が得意だ。


 そしてスクールバックに入っていたものは全てアイテムボックスに移した。と言うのも収納鞄みたいな拡張魔法のかかった鞄は最後に職員の人に提出するからだ。


 そこで下着とか服とか出てきたら困るだろうし……。


「よし。じゃあまずは食料集めしておかないと」


 ここから出ても帰る家もない。何処かに泊まるのは出来る。ギルドカードには魔力を注ぐと本人と証明出来る。

 魔力は人によって波長が違うので指紋のような扱いになっている。


 泊まる時に必要な年齢確認や色んな問題などはこれで解決する。

 スマホで美味しそうな料理の画像をフォルダに保存しながら考える。


 次は資金だ。今は金がない。ギルドカードに魔力を通して残高を確認すると五千円も無かった。

 このまま出ても泊まるところもない。


 公園で寝泊まりくらいどうってことは無いが……。流石に女性になったんだから危機管理くらいはしておかないとな。


 当面の目標は資金集め。装備がこれだけ充実してるなら可能。というかやらなきゃいけない。


 昨日の布団で泣いた事を思い出す。

 あんなこともう嫌だ。


「よし!頑張れ俺」


 いや一人称くらい変えてた方がいいか……。

 目上の人と話す時に私って言ってたしそれでいいか。不自然じゃないよな。


「私は高山です」


 うん。違和感しかないな。あとは角とかだけど……。エルフ耳とか猫耳の冒険者が居るんだから問題ないか。

 ダンジョンの罠でこうなったと言えば通せるだろ。


 それと性別の事は……聞かれない限り黙ってよう。変な噂が回ると嫌だし。


「よし画像も結構集めれた」


 フォルダを開くと……。可愛いパンケーキ、綺麗な仕上がりのケーキ、チーズたっぷりのピザ、アイスの乗ったジュース。など……。


 自分でとてもおっさんが選ぶセンスではないなと思いながら試してみる。

 ピザとコーラを生成してみる。


 本当にその商品がスマホから出てきた。ピザは箱に入ってて、コーラは紙コップに蓋が付いてストローが刺してある状態だった。


 地面に座って箱を開けてみるといい匂いが漂ってきた。思わずお腹が鳴ってしまう。

 少し恥ずかしいなと思いながらも、手を合わせて「いただきます」と言ってピザ一切れを手に取る。


 口に運ぶと切れないチーズに戸惑いつつ食べる。

 口に広がるジャンキーな味。こんなの何年食べてなかっただろう旨みの暴力が頭を殴ってくる。


 あまりの美味しさに涙が出てくる。


「美味しいな。……良かった。また美味しいご飯が食べられて……」


 コーラも最高に美味しかった。味のついた飲み物なんて久しぶり過ぎだったから。

 それと炭酸も久しぶりに飲んだので喉の痛みに思わず涙目になった。


 けれどこういうので一喜一憂するのも嬉しかった。

 全て食べ終わり「ご馳走様でした」と手を合わせた。

 ゴミは何もしてないのに消えた。


 こういう気の利いたシステムは女神様だろうな。

 邪神なら食べ物を出しても砂の味とかにしてそうだし。


 あの声からは底知れぬ悪意を感じた。それでも女になったのを引いても、色々な機能をつけてくれたのは感謝している。


「そうか。魔封じの腕輪」


 食べ終えて食料を作ろうとした時に気がついた。魔封じの腕輪をするから、外ではアイテムボックスに入れてても使えない。

 それに経済のこともある。お金を落とさない方法を使うのはカツカツになってからにしよう。


「さーて脱出しよう」


 スマホをつける。アプリの一つ「謎解き」のアイコンをタップする。

 画面はカメラみたいに切り替わる。部屋の壁などをカメラで見ていると。


「あった。えーと撮影すればいいんだよね」


 赤い光がカメラに写りそれを撮影すると画面が切り替わる。

 色とりどりのボールが画面に並び、上にはスコアと表示されている。

 ボールはランダムに配置されていて、同じ色を三つ揃えるとボールが消えてスコアが上がる。


 ボールを動かせる回数も決まっている。ボールを消すといくらか回数も回復する。


 最初は慣れないゲームに苦戦した。もし失敗しても撮影する時に持ってかれる魔力が帰ってこないだけ。


 何度か挑戦しているとやっとスコアの横に書かれたクリアノルマの数字を超えた。


 最後に画面に解除というボタンが表示されるのでそれをタップすると扉が出てきた。


「すっご……」


 斥候要らずじゃんとか思いながら扉の方へ歩いていく。そして出る前に部屋の方を振り返る。


 一礼して「ありがとうございました」と言ってから扉を開けた。

 開けると同時に俺はダンジョンに帰ってきていた。


「ここって……罠にかかった場所?」


 後ろを向くと壁。触ってみても、謎解きアプリを使っても反応は無い。

 消滅したのか。


 直ぐに切り替える。武器ホルダーが直ぐに使えるようにスマホは持っておく。


 資金がないと帰っても仕方ない。元々は死ぬ予定が稼ぐ予定になっただけ。

 少しだけ目を閉じて息を深く吸い込む。

 そして息を吐くと。しっかり前を見て歩き出した。



「そうだ。地図アプリ。マッピング付いてたよね」


 前を向いていた目はすぐさまスマホに落とされた。

 傍から見れば歩きスマホをしている女子高生にしか見えない。


 地図アプリのマッピングは一度通った事がある場所の地図を作成してくれる。


 ダンジョンの中は色々ある。洞窟のような場所、煉瓦で作られたような場所、所々に水がある場所など。

 一層から百層まではそう言う作りのものが多い。


 百層よりも上になると外エリアと呼ばれる場所になる。草原があったり、海があったり、極寒の雪山、火山。

 魔物しか相手にせずに済むのは大抵が百層まで。


 それ以降は環境のことも頭に入れないといけない。


 七十層は頑張る初心者が到達出来るくらいの場所。

 遊び半分の人なら五十層くらい。百層までいって一人前と言われている。


 俺はそんな一人前にもなれてない。

 今はどうかは分からない。昔の基準だとそう言うものだった筈。

 なので百層以上にいかないと俺のギルドカードでは買取価格が下がる……と思う……。


「昔に言われて覚えてないんだよね」


 そして七十層は少し迷路のような地形をしている。

 複雑では無いが曲がり角などに注意しないと魔物と出くわすなんて事も起こる。


 ここにはゴブリン、ゴブリン亜種がいる。

 普通のゴブリンは棍棒を持って襲ってくる。人型でこれまでに無い攻撃。

 物を掴むというのをやってくる。盾役に飛びかかって盾を掴んで来たりする。


 対処を間違えると棍棒が頭に振り下ろされるなんて事もある。しかもゴブリンは子供程しか無いのにも関わらず力は男性の大人くらいある。


 ゴブリン亜種は棍棒が剣になってたり、弓になってたりする。棍棒以外の武器を持つゴブリンをゴブリン亜種と呼んでいる。


 知性が高い個体もいる。魔法スキルを持っているやつもいる。


 それが集団で襲ってくる。

 昔の俺にはこいつらがトラウマだった。


 曲がり角でちらっと顔を覗かせるとゴブリンが五体いた。


「絶影」


 ゴブリン退治の基本は奇襲、速攻。仲間を呼ぶ知能を持っているので一匹も逃がしてはならない。


 絶影で姿を消して曲がり角から出る。

 俺の方を向いてる個体も居るのに全く気がついて無い。

 武器ホルダーのナイフを取り出す。


「武芸百般……絶死」


 武芸百般。どんな武器も十全に使えるスキル。それは狙った場所を切ると言うのも容易にしてくれる。

 今のように動いてない相手でも緊張、気持ち、疲れなどで手元が狂う時がある。

 それを打ち消してくれる。そして絶死との相性は抜群。狙った急所にダメージを通りやすくしてくれるスキル。


 ナイフに少しだけ魔力を込めて五体のゴブリンの首を狙った。流れるように体が動く。

 一瞬で終わった。


 ゴブリンの首はコロコロと転がった。首から上を無くした胴体は力なく倒れていった。


「これなら……」


 絶影を解除してホッとする。ゴブリン相手に戦えるか少し不安だったけど。貰ったスキルがあれば越えられる。


 ゴブリンの死体から魔石を回収するのであった。

カクヨムで先行掲載してます

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