二話
02
俺は目を覚ます。
周りは正方形の部屋。ダンジョン特有の薄暗く光る壁や天井それに床。全体を見通せるほどでは無い。
体をゆっくり起こす。
何処か怪我をしてるなどはない。
そして記憶を辿る。確か俺は過去最高到達点の七十階層に来たはず。
壁伝いに歩いていたら……。
「そうだ。壁の罠を押したんだ」
どのくらい落ちたのか分からないが怪我もしてないのは幸運としか言いようがない。
「出入口が無いな」
辺りを見渡しても出入口は見えない。それに落ちたと思ったのに天井はある。閉じ込める系の罠か。
それと部屋の真ん中には祭壇のようなものがある。棺のような箱もありギミックを解除しないと出られない部屋なのかもしれない。
「詰みだな。罠解除なんて……した事ない」
ゆっくり立ち上がる。何処にも痛みはない。問題なく歩ける。
祭壇の方へ向かう。
不気味な像を祀っている祭壇だ。
棺の方を見る。蓋を持ち上げてみると簡単に開いた。
中には白いドレスを来たミイラが入っていた。
手を胸の前で組んである。それに副葬品が沢山入ってる。
これは俺なんかが暴いちゃいけないものだと蓋を戻す。
「大切に埋葬されたんだな」
もしも棺に何かのギミックがあるのだとしたら諦めよう。綺麗な服に素敵な副葬品。
罠にせよあぁ言うのは苦手だ。
祭壇の方に何か無いかと探してみる。
棺よりも高い台座、台座の上に不気味な像。
一応手を合わせておく。
「ダンジョンの中での事です。無作法を働きたい訳ではございません。どうかご容赦ください」
そして二礼二拍手一礼をして像を調べる。
変わったところは無い。台座を調べようとしゃがむ時に腕で台座を押してしまった。
ゴゴゴと言う石と石が擦れる音がする。
そこには階段があった。螺旋状になっており底は見えない。
壁は人工的に作られたような綺麗な作りに松明がかけてあり、どういう仕組みか明かりが灯っている。
「降りるしかないか」
痛いのとか怖いのは苦手なんだが……。そう思いつつ階段を降りていく。
手すりが無いので壁沿いを歩く。
コツンコツンと自分の古びた革ブーツの音が鳴る。
そして一番下にはまた棺があった。
仕方ないと思い手を合わせてから蓋を開ける。
そこには白いタキシードに身を包んだミイラがあった。こちらには副葬品は無かった。
「こっちの仏さんは……大切にされ無かったのかねぇ」
それともそういう文化だったのか。
ダンジョンには半壊した建物。石板などがある。異世界のものと言われているが判明していることは殆ど無い。
ただ生活に使うような道具が幾つか見つかっていることから異世界のものかもしれない。と言われている。
実はそういう罠かもしれない。など色んな説が囁かれている。
これも十年くらい前に買った雑誌に書いてあったことだから今は分からない。
螺旋階段は途切れているし。上と下にミイラ。しかも……。
「花嫁と花婿だよな」
何となくそう感じた。となれば別々にしておくのも少し心苦しい。
螺旋階段の下はこじんまりとしていて好きじゃない。不気味とは言え一応祭壇もあったのだから上の方がいいだろう。そう思って棺を持ち上げて見る……。
「重いなぁ……」
これで階段を上がると腰が死ぬ。
そこで蓋の上にミイラを乗せて一回上がる。
棺の下の部分を半ば引き摺るようにして持って上がる。
これだけなのに魔力を殆ど使い切った。
ゼェゼェと肩で息をする。
棺を二つ並べて男性のミイラを丁寧に中に入れる。
「悪いな。いいもん無いんだ」
お守りとして買った短刀と回復ポーションを入れる。
けどやっぱり花嫁の副葬品に負けるよなと考える。
周りを見渡しても出入口はやっぱり無い。
ボロボロだけど剣も入れる。手入れはしてるからまだ使える。解体ナイフ。
捨てた方がいいと思われるくらいに刃が磨り減ってる。
腰ベルト。ポーションを入れたり、解体ナイフを付けたりと冒険者には必須の装備。他にも応急処置キットが入ってたり、人によって付けてるものは変わる。
「こんくらいかな。ボロボロの服とか入れても迷惑だろうし」
そう言って最後は蓋をするかと棺の縁に手を置いて立ち上がろうとした。
その時手が滑り棺の中に倒れ込んだ。その拍子に足が立て掛けてあった蓋に当たる。
蓋は揺れてから棺の方へ倒れてきた。
足を挟まれたら叶わないと、悪いとは思ったものの棺の中に一旦入った。
立て掛けてあったのだから普通は棺全てが閉まることは無い。蓋に隙間が出来るはず。
けれど大きな音を立てて閉まった蓋は勝手に動き完全な暗闇になった。
こういう罠だったのか。暗闇で見えない隣のミイラに心の中でスマンと思いつつ蓋を開けようとしてみる。
ビクともしない。魔力が切れて動かせないだけなのか。それとも罠で完全に閉じ込められたのか。
まぁミイラとはいえ一人の最後じゃなさそうなのが救いか。
と諦めた時に声がする。
「姫は皆から愛された。しかし姫が選んだのは平民の男。皆が反対した。そして姫は平民と駆け落ちをした。
姫の父は怒り狂った。そして姫と平民を追い殺害した。二人が死後も結婚出来ぬようにと二人の棺桶を分けた。
姫の傍には邪神像を置き魂が冥界へ入れぬようにした。
平民の男の上には長い階段を用意し、出口は邪神像で押さえた。
それでも二人の愛は時間を超え、時空を超えて流れ着く。
二人の愛は今証明された」
いきなりの事で何が何だか分からない。けれどさっきの棺桶二つにミイラ。きっとそれが姫と平民なのだろう。
知らんおっさんが混じってすまん。
申し訳無さを感じていると更に声がした。
「姫の副葬品に負けぬようにと身を賭した行動に敬意を表する。自らを副葬品として捧げる勇気に感激する。見ず知らずの為に命を捧げる覚悟確かに受け取った」
その声は先程のナレーションを読んだ声とは違っていた。もっと暗くどす黒い声だった。
敬意や感激、覚悟など言ってるがはっきり分かる。
笑いながら言っている。虫けらが行動して面白かったから言ったに過ぎない。そういう印象だ。
しかし買いかぶり過ぎだ。俺は事故でこうなっただけなんだが……。
「二人の魂の接触を止める邪神の契約は破られた。二人は今日全てを乗り越え夫婦となった。そしてそれを成した貴方にささやかながら贈り物があります」
また別の人の声。澄んでいて何時までも聞いていたいと思えるような声だった。
なんだ……全く分からない。
「我は貴様に」
「私は貴方に」
「褒美として授ける」
「贈り物としてこちらを授けます」
二つの声が同時に聞こえた。
そして暗闇なのに視界が回った。
浮遊するような感覚。意識が飛びそうになる。
我慢するが無理だ。と意識を手放そうとした瞬間。
「ありがとう」
そんな声が聞こえた。
――――――――
目を覚ますと棺から出ていた。というより棺が無かった。祭壇の前で寝ていたようだ。
何が起こったのか確認するために起き上がる。
「………………」
一つ一つの確認は大切だ。まず髪の毛が異様に長い。ボサボサで後ろで結んでいた長さでは無い。それに髪の毛が細く艶やかになっている。
そんな髪の毛を見るために使った自分の手。
白くきめ細やかな透き通るような肌。皮が剥けてボロボロじゃない指。手入れの行き届いた爪。
そして起き上がると揺れている胸のメロン二つ。
下が見えない……。
短足では無くなったスラッと長い足。
そしてあるはずの股間の感触は無い。
最後に一縷の希望を胸に声を出す。
「あー」
その場でドンっと床を叩いた。
「女になってるぅぅ!!!!」
む、息子よすまない。一度も使ってやれなくてごめん!お金もなくてムフフなお店に入ることも出来なかったんだ!いつの間にか使えなくなってたし!!
「それに……服も変わってる……」
見ればブレザーの制服。もちろん女性用。リボンじゃなくてネクタイなんだなーと思考放棄した。
スカートはミニスカート程ではないが太ももの半分くらいまでしかない。スパッツは履いてた。
ブラジャーもついてた。
「いやいや!!待ってなにこれ。なんで……」
そういえば……頭の声の主が贈り物……褒美……って…………。
そこまで考えた時頭に違和感を感じた。恐る恐る手を伸ばして確認すると耳の上辺りから何かが生えていた。
それを触って確認してみると……。
「角……生えてる」
罠でエルフ耳になったもの、猫耳になったもの。そういうのは聞いたことがある。配信が多くなってきた今ではそれらは誰しもが持ちたいものになっていた。
しかし角は自分の知る限り居なかった。
そして追い打ちをかけるかのように……。
「しっぽまである……」
細いしっぽ。先っぽがハートのようになってる。小悪魔のような姿をした人物が生やしてるアレだ。
結構自在に動かせるな。
「じゃなくてぇ!!!」
再び床を殴りながら考える。装備全部消えたし!知らない女の子になってるし!角としっぽ生えてるしどうすんの!
明日からどうやって生活………………。
「そっか……。どうせあのままだと居場所なかったし……。帰るところも無い」
頬を思い切り叩いてから頭を振る。そして確かめるように立ち上がる。
「……ひ、膝が痛くない……。腰も痛くない!軽い!体が軽い!ジャンプしても大丈夫!」
肩も痛くない。首を回すと攣るなんてことも無い。
走ってみてもかなり早……早…………。
「早すぎる!!!」
慌ててブレーキをかける。壁目前で何とか止まれた。慌てて靴を見る。今はローファーだ。靴下は黒だったので汚れの心配が無さそうで安心した。
ローファーの底を確認する。すり減ってない。良かった。
「それにしても……なんで。身体能力が上がった……?」
その時祭壇の方から音がした。
見るとスクールバックが落ちていた。
一応警戒しながら祭壇の方へ向かう。あの不気味な像は無くなっていた。代わりに紙が置いてあった。
見た事のない文字なのに意味が理解できた。
「楽しいものを見させてもらった。記憶を覗いた時に女子高生と言うものを好んで見ていたようだったのでその姿にしてやった。角としっぽは我からのサービスじゃ。素直に受け取るといい」
わなわなと震える。言葉の意味が頭に流れる時に全て半笑いで再生された。つまり嫌がらせでこの姿にされたのだ。
怒りのままに文章を読んでいると。次は声が変わった。あの澄んだ声になった。
「邪神が悪い事をしていたのを止められず申し訳ございません。姿かたちを変える事は出来なかったので、そちらの姿に因んだ服装をお送りしました。
魔力を込めれば防御出来るものです。肌の出ている所も守ってくれます。
あなたの副葬品として全てを差し出す覚悟、姫と平民……いえ。あの夫婦からの進言もあり幾つか贈り物をしておきます」
そこまで読むと頭に何かの使い方が流れた。これは宝珠やスクロールと呼ばれるアイテムでスキルを会得する時に似ている。
過去一度スクロールを使った事がある。あの時と似ている。
神聖魔法、アイテムボックス、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、状態異常耐性。
あとは俺が元々持っているスキルが流れた。しかしそれは少し変化していた。
隠れる系のスキルと奇襲した時に威力が上がるスキル。剣術、ナイフ術のスキルだったのが……。
絶影、陽炎、絶死、武芸百般。
それぞれのスキルの効果、使い方が頭に流れて来るが……正直右から左に流れて抜けていく。
意識すればまた使い方とかは分かる。
それにスキルには習熟度があり使い込めば新しい能力の開花や新スキルへの進化がある。
ちゃんと使うと決めた時に改めて勉強しよう。
そして手紙の最後には。
「あなたの未来に幸あらんことを」
その言葉が聞こえると同時に手紙はボロボロになって消えた。最後にあのどす黒い性悪の声が高笑いが聞こえた気がする。
けど……。何者か知らないけどそう祈られるのは悪くないな。
そしてスクールバックを拾ってみる。手に持つと使い方、中に入ってるものが分かった。
「カーディガンが入ってる。化粧品……シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアオイル、下着……下着?!」
色とりどり様々なデザインの下着が入っていた。まぁ……買う手間が省けたのか……。うん……Tバックなんて絶対履かん。それになんだこれ。どこを隠すつもりがあるんだこの下着は……。
とりあえずしまっておく。
「体操服に普段着?パジャマ?良かった……。膝掛けもあるな。生活には困らなそう。化粧水とかのケア用品も入ってる……ハンカチ、ティッシュ……髪留め。この辺は持っててもおかしくなさそうなものか?」
普段着はパーカー、ワンピースなど色んな種類があった。
化粧品などの消耗品は魔力を込めたら補充出来る代物だった。使い方も持てば分かる。
「多分あの澄んだ声の人が色々気を利かせてくれたんだろな」
ありがたやと手を合わせておく。
そして目を閉じて天井を見上げる。
「ギルドカードも無いし……どないしよ」
もう少しの間途方に暮れるのであった。




