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一話

よろしくお願いします

01


「今日は二十層まで行くぞ!各々パーティーメンバーと最終確認をしておけ!」


 熟練冒険者が声をあげる。それに元気よく返事する新人冒険者達。

 その横を通り過ぎる。キラキラした瞳、夢に溢れる若者。大切にされているのだろう。高価な装備、武器を身に付けている。


 それを羨むでもなく、ただ通り過ぎる。

 少し進むと……。


「今日は五十層のボスチャレンジでーす。みんな応援よろしく」


 浮遊するボールのようなものに挨拶をしているダンジョン配信者。ボールのようなものは電子機器が使えないダンジョンでも使える「魔道カメラ」だ。

 普通の代物ではないので高価だ。


 配信者はパーティーメンバーを撮りながら今日の予定を話している。

 邪魔をしないように通り過ぎる。その時。


「うっわ……なにあれ」

「ボロボロじゃん……」


 俺の格好を見た人がそう囁くのが聞こえる。

 ボロボロの服。補修しながら使ってる胸当て、手甲、足甲。

 剣を収めてる鞘も傷だらけ。革手袋も長年使っている為にほつれも目立つ。

 髪の毛も伸ばしっぱなしのものを後ろで縛ってるだけ。髭は沿ってるが清潔感があるかと問われれば無いだろう。


 そんな言葉を聞きながらダンジョンへ入った。





 この世界にダンジョンが出現して五十年。

 世界中に発生した未知の現象。未だダンジョンの発生理由も不明、本当に攻略可能なのかも分からない。


 世界中で発生したダンジョンはどれも未攻略だからだ。当時の人々はダンジョンを軽視していた。


 軍が何とかする。国がどうにかしてくれる。

 しかし軍が何度調査隊を送ろうと失敗した。


 そして人には魔力がある人と、ない人がいる事が判明した。軍だけでなく警察などからも人を募り「第一次ダンジョン攻略作戦」が開始された。


 ダンジョンを攻略し、消すこと。それを目的とした作戦だった。

 莫大な予算と人員を割いて行われた作戦は二年と言う年月を掛けて失敗した。


 集められた人員の六割が死にダンジョンは放置するのがいいと言われ始めた。


 そしてダンジョン発生から五年後。遂に未曾有の大災害が起こった。

 スタンピードが発生した。


 ダンジョンは危ないからと周囲十キロを高い壁で覆っていたお陰もあり、日本の被害は当時の人口の四割の死者で収まった。

 四割も死んだのは日本にはダンジョンが五個あるせいだ。国に一つしか無いところもあれば、複数ある場合もある。


 日本人特有の用心深さが幸をそうしたお陰で、同じような規模の国に比べると、遥かに少ない死傷者数だった。


「何あのおっさん……」

「浅い階層なのに……初心者荒らし?」


 十四層でスライムを討伐しているとそのような声が聞こえる。俺のような長年やってる冒険者がこんな階層でスライムを狩ってるのは単純な理由だ。


 どうしようも無いから。


 ダンジョン発生から五年で起こったスタンピード。その騒動が収まったのはそれから五年後。

 大都市の殆どがインフラをやられた。生活もままならなかった。

 そしてダンジョン発生から十年。政府は冒険者ギルドの設立を宣言。


 全国から魔力持ちの人を集めた。当時十五歳だった俺もそこに招集……いや。親に売られてそこに居た。

 当時の招集は自由意志ではなく強制だった。


 その為魔力を持った人の家族にはお金が入った。それでもかなりの少額だ。一人頭十万くらい。

 しかし俺のクソ両親はその十万のために俺を売った。


 武器の支給も無し、装備も何も無い。

 ジャージに落ちていた金属バットが俺の装備だった。


 人が沢山死んだ。戦い方も分からない。怖がってそれでも義務だからダンジョンに入らないといけない。

 みんなで固まって一層一層攻略していった。


 一人、また一人と殺された。罠にかかって目の前から人が消えたことも。毒で吐血したことも。

 仲間の死体の中に隠れたこともある。


 しかもその当時魔力持ちは不遇な扱いを受けていた。飯の配給はゴミ同然。カビの生えたパンに具の無いスープもどき。


 人類の生活のために働け、ダンジョンに入れと言う世間の弾圧。

 ダンジョンの周りには魔力持ちが生活する建物が建てられ、魔力持ちは壁の外の外界に出ることを禁じられた。


 ダンジョン発生から十五年。遂に全国でストライキが起こった。

 そして暴力で支配しようとする一般人を魔力を持った人が虐げる時代が来た。


 銃弾を避ける、切られても大した傷にならない。

 ダンジョン管理をしていた国防大臣は中継にて拷問されて死んだ。

 プラカードを掲げて平和な世界に魔力持ちはいらないと声を張り上げていた一般人はダンジョンの中に放り込まれた。


 魔力持ちと国の内紛へ発展すると……そう思われた。


 国が冒険者に対する差別の撤廃を徹底させて、ダンジョンを囲う壁の外に出られるように魔道具も開発された。

 魔封じの腕輪。これのお陰で冒険者も普通に生活出来るようになった。

 それと同時に冒険者を強制では無く本人の意思でなりたい人がなれるようになった。


 ダンジョン発生から二十年。やっと冒険者の反乱は収まり、平和な世界が生まれつつあった。政府は当時の資料の揉み消しを行ってる。

 確実な資料がない為、当時の混乱で失われた。と言っており、今の冒険者育成学校では、五年から二十年までの事は、大混乱期として詳しい事を教科書に載せてない。


「はぁ……高山さん。長い間ダンジョンで活動されてこちらとしても助かりますが、浅い階層の魔物は初心者の為に残してください」


 建前の裏にめんどくさいが顔に出ている男性職員。ダンジョンから出て査定に向かい、収納鞄を渡すとそう言われた。

 冒険者ギルドから借りた収納鞄と呼ばれるものを返して査定をしてもらう。

 収納鞄は見た目よりも内容量が大きい。

 冒険者本人が持ってきてそのまま査定を行う流れだ。


「前にも説明しましたが冒険者歴が長い方が浅い階層の魔石を持ってきても金額は下がります。適正の階層での狩りをオススメします」


 これは初心者荒らしを防ぐため。長くやってると強いだろ。そんな先入観と新人を守るための規律。


 初心者がスライムの魔石を持ってくれば三百円。俺が出すと五十円。

 それでももう歳も取って魔物の早い動きについていけない俺にはこれしかない。


 白い目で見られながらギルドカードに振り込んで貰った。

 今日の収入は三千円。


 しかも六時間潜ってこの値段だ。

 こうなればいっそ冒険者をやめてしまえばいいと思うかもしれないだろう。


 十五歳の頃から冒険者をやって。二十五歳の頃に冒険者は強制から自由になった。

 当時の俺は喜んだ。そしてお金を貯めて普通の仕事をしようとした。


 そしてボロ雑巾のように魔物にやられた。近くに冒険者が居なかったら死んでいた。

 今は十万程度の回復ポーションが当時は一千万。それでも死にたくないので借金をして治してもらった。


 働き稼いで借金を返していつか普通の生活をと夢見た三十歳。また大怪我をする。

 借金は増えた。そして俺は無茶を辞めた。


 深い階層で高いお金を稼ぐよりも浅い階層で安全に稼ぐ方が良かったからだ。


 そして今は五十五歳。年々衰える体は魔力で強化出来ても無理をすれば直ぐにガタが来る。


 スーパーでもやしを二袋買ってアパートに帰る。

 力の無い手で鍵を探してやっと見つけて開けようとした時に大家さんから声をかけられる。


「あんたそろそろこの部屋更新だろ?悪いがリフォームして新しくする事にしたんだ。悪いが部屋探ししてくれ。二ヶ月もあるし長い間冒険者してんなら大丈夫だろ。すまんな」


 と言いながら大家はどこかへ行ってしまった。

 貯蓄なんて無い。このアパートも月五万の家賃がある。光熱費、水道代などもある。スマホなんて高価なもの二十年前に解約した。

 それでも年々生活が苦しくなる。


 熟練の冒険者の浅い階層での狩り制限。もっと頑張って借金を返していれば。

 毎日死んだようにダンジョンへ潜っていた。

 だからこの規定のことを知らなかった。


 やめても貯蓄なんて無い。これ以外の仕事なんて知らない。人とまともにコミュニケーションを取ったのは何十年前だ……。


 力なくドアを開けるとバサバサと封筒が落ちていた。

 請求書。電気、水道、ガス。嫌気が刺しながらもそれらを拾って中に入る。


 薄暗い部屋。使いかけのロウソクを出して火をつける。本当はダメなのだ。火事の原因になるから。


 ボロボロの装備を脱いでハンガーにかける。汗臭いシャツを洗濯機に入れるも文明の利器が使えない事を思い出してカゴに入れ直す。


「明日支払い……して……」


 そう呟きながら買ってきたもやしを開ける。普段は茹でるか電子レンジで温めていたが今は出来ない。

 中に塩胡椒を振る。大切に使おうとしていたのに、今は湿気で塩胡椒が出る穴は塞がっている。


 皮が向けてボロボロの指で何とか穴を開通させる。

 そして振るが。塩胡椒は湿気で纏まりになってしまっていた。

 ボーとしながら蓋を開ける。


 台所を探すが良さそうな器具などは何も無い。紙コップ、紙皿。捨てれて便利と、揃えたそれらは、買う金が無くなり大切に取っておこうと、思ったまま埃を被っていた。

 塩胡椒の入ってる容器に指を突っ込んで解す。


 摘んでもやしにかける。ダマになった所もあるが気にせずに袋を口を掴んで振る。

 ある程度混ざったと思ったら徐ろに指を突っ込んで食べる。

 味がしない部分、塩胡椒の塊で辛い部分。丁度いい部分に当たると嬉しい。


 それでも……生きてる。生活しなきゃいけないんだ。

 もやしを食べ終えると擦り切れそうなタオルを持って近くの公園まで行って濡らす。

 本来水飲み用の場所なので濡らすついでに掃除しておく。意外と汚れていた。

 公衆トイレで服を脱ぎ体を拭いた。


 そして家に帰り、布団を敷いて横になる。



 その時思い出した。慌てて消していたロウソクを付ける。そして冷蔵庫に向かった。請求書が来ているということは電気は止まってる。冷蔵庫も止まってる。


 開けると腐ったような匂い。

 チルトに入ったそれを取り出す。こんな生活でもちょっといい物が食べられるくらいの収入の時がある。

 本当に偶然見つけた半額のステーキ肉。

 週末に食べようと……。今週頑張ったら食べようとしていた。

 普段売り切れなのにツイてると喜べた。

 大切に食べようとしていたのに……。


 それは肉の色が変わり、明らかに食べれない汁を出していた。


 それを見た時何かが終わった。

 切れたと言うべきか。


 頑張って両手に持っていたものを全て落としたような感覚。足元が消える感覚。

 力なくそのステーキ肉をシンクに置いて布団へ戻る。


 タオルのような感触の敷布団。黄ばんだ枕。タオルケットのように薄くなった布団。


 涙が止まらなかった。

 この枕も布団も。初めて家族からも強制収用からも解放されて、ダンジョンの豚小屋のような所から出た時に買ったものだ。

 あの時はただ新品のふわふわの布団で寝れるだけで幸せだった。


 まだあのころは人並みの生活が出来ていた。何処で間違った。何で俺はこんな目にあってる。


 両親が死んだ知らせを聞いてホッとしたからか?

 葬式もせずに共同墓地に入れるようにした事か?

 長年冒険者をやってて浅い階層で新人の育成の邪魔をしてるからか?

 生きてるだけで周りを不快にさせてるから?


 何で俺がこんな…………。

 俺だって生きたいさ。堂々と胸を張って。でも……。


 悔しくて握った自分の手が目に入る。ボロボロでしわくちゃになっている。

 俺も歳取ったんだよな……。


 そう思うのと同時に少し心が軽くなった。


「そうだよな……老害が居着いてたら……みんなの邪魔だもんな」


 そして静かに目を瞑った。疲れからかすんなりと眠れた。






 次の日部屋の掃除をした。久しぶりにしたから結構汚れてた。

 夜明け前に目を覚まして掃除が終わった頃には日が出ていた。


 腐った肉をゴミ袋に入れる。ボロボロのタオルも、使わなかった紙コップも紙皿も。

 買い替えも出来なくて毛が広がった歯ブラシも。

 布団は畳んで紐で縛った。昔は両手で抱えながら帰ってきたのに。今は小さく纏まっている。


 腰を痛めないようにゆっくりと持ち上げて二回に分けてゴミを出した。

 そしてボロボロの服と装備を着て家を出る。


「売れるもん全部売ってたおかげか……。楽に済んだな」


 扉に鍵をかけてドアのポストへ入れる。

 戸締りは大丈夫。中の物も殆ど残ってない。


 コンビニで請求書の支払いを済ませる。そして公園のベンチで昨日買った最後のもやしを食べる。


「景色のいい所なら……もやしも存外悪くない」


 公園に設置されているゴミ箱に袋を捨ててダンジョンへ向かった。


 ダンジョンは入る為にギルドカードを出さないといけない。これは誰が入って、誰が出ていったかを調べるシステムだ。

 特別な事はない。受付でカードを水晶に当てるだけ。


 空いてる列に並んだ。朝はそこそこ人が多い。

 そして自分の番がきた。受付の方へ向かうと。


「高山さん!お久しぶりです!」


 と声をかけられた。顔を上げるとロングの茶髪をお団子に纏めた女性。中谷だ。

 彼女が冒険者ギルド職員になったばかりの頃にイチャモンをつけられていたのを助けてからか、彼女だけは俺に対しても態度を変えなかった。


「久しぶり。仕事は慣れた?」

「もう。何年やってると思ってるんですか。私も今は新人教育してるんですよ」

「そうか……。中谷さん優秀だから。新人も安心だろうね」

「そんなこと無いですよ。今日も潜られるんですか?」

「あぁ」


 そう言って水晶にギルドカードを当てる。

 中谷が「はい。確認取れました」と言うとギルドカードを仕舞う。


「そういえば高山さんこれを」

「これは?」

「来月からダンジョンで活動する際には録画か配信をする事になったんです」

「そりゃ……出来る人と出来ない人が出るだろ」

「んふふ。何と冒険者ならみんなに機材配布があるんです!」


 そう言ってチラシを渡してこようとするが手で制す。「次の人もいるから」と告げた。

「お帰りの時に声をかけてください。資料お渡しします」と笑顔で言われる。最初の頃のオドオドした雰囲気は無くなった。立派なギルド職員だ。

 そうして立ち去る時に声を掛けられる。


「今日もお気をつけて行ってらっしゃい」


 職員はみんなそう言って冒険者を送り出す。帰ってきた時にただいまと言うために。

 だから普通は「行ってきます」とみんな言う。俺もそうだった。でも今日は……。


「じゃあな」


 そう言って振り返らずに片手を上げて返事をした。

 後ろで中谷の声がした。「あの!」と聞こえたが進む。並んでた次の冒険者に遮られたんだろう。

 中谷は「おまたせしました」と対応を始めたらしい。


 まぁ。俺の最後の冒険だ。あの人が送り出してくれたんだから俺は幸運だな。

 冒険者の中でも人気高い受付嬢だし。


 自虐気味に少し笑ってダンジョンへ入った。

ご愛読ありがとうございました

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