第八百七十四話
拠点制圧作戦が開始された。
拠点は古い宇宙港だった。
ラターニア宇宙軍少尉ダニエル・コーヘン、つまり私は突入班に選ばれた。
輸送シャトルの中でラターニア教の聖職者資格を持つ従軍聖職者が説教をする。
「これは聖戦です。あなた方アルファチームは同胞を救出する作戦に選ばれました。ラターニア軍精鋭として誇りを持って作戦を行ってください」
そんなのわかっている。
だが誰も異論を挟むことはなかった。
それよりも作戦への不安感が自分たちを支配していた。
敵は……、いや敵ではない。
誘拐された我らの同胞だ。
彼らは洗脳され、敵になっている。
殺したくない。
我らにとって同胞、それも子どもは保護すべき存在だ。
歯の神経を触られてるような気すらする。
副官のカッツは「神よ許し給え許し給え許し給え……」と繰り返している。
いくらかは殺さねばならないと思ってるのだろう。
他の部下たちも気分が悪そうだった。
それでも俺たちがやらねば誰がやる。
責任感と使命感だけが俺たちを支えていた。
いつもはくだらない冗談ばかり言ってるガビーも下を向いて神に許しを請うてた。
それでも俺たちがやらねばならない。
戦闘機の援護で突入する。
「神のご加護を!」
従軍聖職者はシャトルで帰還する。
銀河帝国製の戦闘服とプラズマライフルを装備し外に出る。
銀河帝国、クロノス、鬼神国、太極国のチームがすでに待機していた。
ラターニア人は白兵戦が得意ではない。
シンプルに筋力が弱いせいだ。
ラターニア人は他の種族に比べて骨格に対する筋量が少ない。
レプシトール人よりも華奢だ。
骨も太く筋肉も多い鬼神国人はラターニア人の戦闘種というのもうなずける。
それでも我らは銀河帝国軍が誇るスペース・レイダースの訓練を受けた精鋭部隊。
我々を訓練したヒューマ教官の顔に泥を塗るわけにはいかない。
泣き言は許されない。
太極国の精鋭部隊が声を張る。
「これから三分後に突入する!」
我らは息を整え、そのときを待つ。
心臓が高鳴る。
すると隣にいた鬼神国の男が背中を叩く。
「肩に力が入りすぎだ。気楽に行こうぜ」
その男の戦闘服には『カミシロ流』のペイントが施されていた。
なるほど……レオ陛下の顔に泥は濡れないな。
我々は同じ立場だ。
「感謝する」
「いいってことよ。なあに、最悪でも死ぬだけさ。ガキども助けに行こうぜ!」
男が拳を突き出してきた。
私も拳を出して突き合わせる。
「ほら、始まる。行こうぜ」
「ああ。『野郎ども行くぞ!』」
搬入口のドアを人形重機でこじ開ける。
作戦が始まった。
当然、敵だってそれはわかってる。
砲台のついた人形重機が待ち構えてた。
「まずはセンサーを潰せ!」
そう言って閃光グレネードを投げ込む。
これで自動照準機能を停止させる。
自動照準がなければ人形重機の砲台など反動が大きすぎて当てられるものではない。
すべてをマニュアル操作でやっているクロノス王たちがおかしいだけだ。
「投降しろ! 一緒に国に帰ろう!」
俺は呼びかける。
俺の言葉は瞬時に古代語に翻訳される。
砲台のついた人形重機にのっていたのは少年だった。
少年は手をあげながらゆっくり人形重機から降りる。
他の歩兵たちもその場に伏せた。
「拘束しろ!」
本当は拘束なんかしたくない。
彼らも被害者だ。
だがそんな甘いことは言ってられない。
私たちだって命は惜しい。
通信が入る。
「こちらベータチーム。容疑者を運び出します」
「頼む、『同胞』と言ってくれ」
「わかりました。『同胞』を運び出します」
ため息をつく。
まだ無傷だ。
少年たちもきっと帰れるだろう。
「また肩に力が入ってやがるぞ。ほら、力抜けって」
さきほどの鬼神国人兵士がケラケラ笑ってた。
「重要任務だからな、どうしても肩がこるのさ」
「違いねえ。俺もこの任務が終わったらメリッサ様の警備隊に配属されるんだ。その前の昇進テストってやつだ。だから実は俺も緊張してるんだ。内緒だぞ」
明るいヤツだ。
うん?
……メリッサ王妃の警備隊?
確か館花流以外の警備隊は女性だったはずだ。
「あんた……女なのか?」
手刀で叩かれた。
「女以外に見えるかよ!」
「いやすまん。戦闘服だったし声が低くてわからなかった。失礼したレディ」
「いきなりなんだよ。レディって……まあいいや。俺はユス。ほらうちの部隊についてこい。どうせ同じ任務だろ」
「そうさせてもらう」
私は部隊を率いて奥に向かう。
ユスの部隊は全員女性らしい。
だが屈強だ。
ラターニア人とは違う。
さすが鬼神国の精鋭部隊だ。
扉がある。
「ガキども救おうぜ! オラ! 重機!」
「へい姐さん!」
重機でこじ開ける。
銀河帝国の部隊ならハッキングして開けたのだろうが……。
我が国ではまだその技術はない。
重機でこじ開けるしかない。
ゴリゴリ軋む音を立てながらドアをこじ開けた。
「抵抗するな! 一緒に国に帰ろう!」
敵兵の態度は二つに分かれた。
一つは武器を捨ててこちらにやって来るものたち。
そして彼らを撃とうとするものたち。
「手榴弾!」
先に投げておけば。
後悔した瞬間、ユスの部隊が抜刀して突撃した。
閃光手榴弾が爆発する。
「負傷者を救助するぞ!」
残念ながら私たちに期待されているのは救助だ。
先に撃たれた少年たちを引きずって安全地帯にまで運ぶ。
撃たれた箇所に簡易止血樹脂を貼る。
「死ぬな! 家に帰るんだ!」
そう言って励ます。
まだ負傷者がいる。
私たちはどんどん負傷者を運び出して治療する。
遅れてやって来たベータチームが負傷者を車両に載せていく。
「鬼神国部隊を援護する!」
仲間たちがパルスライフルを構えながら突入する。
子どもたちが銃を向ける。
私は心の中で謝罪しながら肩を撃つ。
「ひッ!」
少年が倒れ、私は部下に拘束を指示した。
前も見ずに銃を乱射する少年が見えた。
「狙えない!」
「俺にまかせろ!」
私がそう言うとユスが近づいてぶん殴った。
「痛ってぇ……一発食らっちまった」
血が出てる。
「治療する」
「あー、いいって。まだ動けるよ」
そんなわけにはいかない。
勇者には敬意を払うべきだ。
「パッチを貼るぞ」
パッチを貼った。
これで問題ないはずだ。
「ユス撤退しろ」
「まだ動けるっつーの。鬼の体力なめんなよ」
ラターニア人だったら動けないほどの傷だ。
だがまだユスには余裕があるようだ。
「おうガキ、大人しくしてろ。家に帰るんだよ!」
「うるさいゼン神族に逆らう背教者め!」
まずい。
なぜかそう確信した。
少年が隠し持ってた装置のスイッチを入れるのが見えた。
次の瞬間、俺とユスは炎と光に包まれた。




