第八百七十五話
火に包まれる。
炎に包まれながら私は見た。
子どもの盾になりながら襟をつかんで放り投げるユスの姿を。
部屋ごと爆破する装置だったようだ。
子どもを投げるユスの腕に飛んできた破片ぶつかった。
ユスの腕がちぎれるのが見えた。
私は子どもをキャッチすると覆い被さった。
ラターニア人の頼りない筋肉が悲鳴を上げた。
同時に炎が戦闘服を焼いていく。
大丈夫だ。
この戦闘服は銀河帝国とクロノスの共同開発したゾーク加工されたもの。
爆風程度ではケガはしても死なない。
炎もしばらくは耐えられる。
だがゴリッと体の中で音がした。
「身体欠損! 止血します!」
システムメッセージが読み上げられる。
脚が痛いほどに締まった。
即座に傷口を樹脂が覆い、スーツが絞まって血流を止めてくれたのだ。
だがそのせいでなんらかの影響で足がちぎれたのだと思い知らされた。
意識が薄れそうになる。
ユスは大丈夫だろうか?
子どもは無事だろうか?
私は心配だった。
「ダニエル隊長! お、おい! 生きてるか!」
「いきて……る」
声が出せない。
どうやら死にかかってるようだ。
「ひでえ……おい、聞いてるか? 天井が落ちてきて足が潰れちまった! いま運ぶから動くなよ!」
「こ、子ども……先に……」
「ガキを守ってたのか! おい! もう一人救助!」
「ゆ、ユスが後ろに!」
「鬼神国の! あんたらの隊長があっちに埋まってる!」
「クソ! 姐さん!」
鬼神国人のチームが救助に向かう。
私は担架に乗せられて外に運ばれる。
隊員たちも担架に乗せられてた。
足の感覚はもうない。
両足共に潰れたのだろう。
意識が遠く……。
「お、おい、起きろ! 生きてるか!?」
「あ、ああ……」
意識を失いかけるが何度も叩かれる。
そのたびに起きるがだんだん容態が悪くなっていく。
考えはまとまらず思考が溶けていく。
よだれが口から流れ……とうとう意識を完全に手放しそうになる。
すでに自分がどこにいるかもわからなった。
「クッソ! 救助は!?」
「来たぞ! 電気ショック……」
ドンッ!
背骨が折れるような衝撃が襲った。
おそらく背骨は無事だろうが、肋骨は折れたに違いない。
「よし、輸送機に載せろ! 心臓モニターつけておけ!」
輸送機に運ばれる。
もう返事する体力もない。
運ばれていくと窓から大きな物体が見えた。
人形戦闘機。
見たことのない機種だ。
歩兵と言えども自陣営の装備か否かくらいはわかる。
「パイロットは元海賊ギルド『皆殺しのセンゾ』」
「死んだはずだ!」
「宇宙港にクローン装置が発見されました! クローンです!」
「厄介な!」
「攻撃してきます!」
そのときだった。
とても美しい機体がやってきた。
もうほとんど見えない目にも美しい光が飛び込んでくる。
「レオ陛下の『黎明の光』やってきました!」
「よし今のうちに撤退しろ!」
がくんと機体が揺れる。
無理な操作をしたのだろう。
ベルトで固定された体がわずかに傾いた。
呼吸器をつけられたユスが見えた。
よかった……生きてるようだ。
こうして俺たちは無事脱出することができたのだ。
後日。
失った足は銀河帝国の技術で再生され、病院の外出許可が出た。
今いるのは銀河連合が建設したローザリア救助作戦用宇宙港の病院だ。
失ったはずの足は元通り。
むしろ古傷がなくなってきれいになった。
「んでよぉ、筋肉が落ちちまってよー」
ユスが腕を見せる。
確かに少し細くなった。
素顔のユスは、美人と言えるかはわからないが、なかなか愛嬌のある顔立ちだ。
ショートカットでツノが生えてる。
「聞いたか? 手術でさー、俺のたちのダメになった組織ごと薄くカットしてから固定して再生するんだってよ。で、を先に繋げて神経はドローンとナノマシンで繋げて、そしたら筋肉と血管を再生するんだってよ。俺たちは薄切り肉か!」
ユスはゲラゲラ笑う。
私も釣られて笑ってしまった
再生前の肉片や手術したときに除去された肉片は焼却されて小瓶に入った灰が戻ってきた。
これをどうしろと?
とりあえずどうしていいかわからず従軍聖職者に預けた。
クロノスからラターニアに寄贈された神樹の近くにまいてもらえるそうだ。
ユスも鬼神国で同じことしてもらうそうだ。
「それでさー、あのガキ。助かったってさ」
「それはよかった」
あのとき救った子どもは爆発で重度の火傷を負いながらも一命を取り留めた。
一時は危なかったらしいが皮膚や、そのショックでダメになった臓器を再生し、今は意識を取り戻したらしい。
眼球なんかも再生したそうである。
恐るべし……銀河帝国の医療技術。
少年はラターニア人と鬼神国人の混血だそうだ。
遺伝子情報の登録がされていてすぐに両親が見つかった。
他の救出された子たちもひどい火傷をしたが再生治療を受けて今は元気とのことだ。
実はこの作戦では各国指導者は兵士から犠牲者が相当数出ることを覚悟していたようだ。
だが蓋を開ければケガ人が数人。
一番状態が悪いのは私とユスだ。
犠牲者と呼べるかはわからないが死んだのは元海賊ギルドの連中だけだ。
皆殺しのセンゾは一刀両断。勝負にすらならなかったらしい。
私たちはリハビリのために当分入院。
私はしばらく松葉杖が必要だ。
たまに力が入らないときがある。
転倒の危険はあるが新しい神経に慣れさせる必要がある。
慣れさえすれば戦線に復帰できるそうだ。
「ねーねー」
「どうした?」
「リンゴむいてくれる? もらったんだけどさー、まだ思った通り手が動かねえんだわ」
「貸せ」
リンゴをむいてやる。
なぜ仲間はむていやらなかったのだろうか?
とはいえその辺を聞くのは異種族に評判が悪い。
ラターニア人はいちいち細かいと言われる原因だ。
異種族のとの付き合い方マニュアルにも「気になっても根掘り葉掘り質問しないように」とある。
「切ったぞ」
「うっわ……うさぎ……あんた手先が器用なんだな」
おそらく……ユスは元から皮をむくの苦手なのだろう。
面倒で私に押しつけただけのようだ。
「いやー、固形物食えるようにもなったし、酒飲みたいなー」
「ダメに決まってるだろ」
「ラターニア人は相変わらずだなー。少しくらいいいだろ」
「痛み止め効かなくなるぞ」
「待って……まだ痛み止めやってるの? 俺ら」
「ナノマシンで逐次やってる。退院するまでこうだ」
「嘘だろ! 酒なしかよ!」
ユスが叫んだ。
この話には続きがある。
作戦での活躍が評価されて私はポリーナ様の親衛隊入り。
ユスは無事にメリッサ様の親衛隊に入った。
つまり同じ職場になったのである。




