第八百七十二話
幸いヒトミちゃんの親はすぐに見つかった。
ヒトミちゃんだけじゃない。
親がいなくなってた子もいる。
ラターニアでどうにかするとのことである。
あんまり細かい話はわからない。
クロノス人やパーシオン人は福祉局に送る。
家族がいれば引き渡すし、いなくても我が国は養子縁組制度が充実してる。
鬼神国人は戦死率が高く、親のいない子どもはどこかの徒弟になるもののようだ。
軍人になるしかないんだろうけど。
でも軍人といってもいろんな職種がある。
給養員や補給員になってもいい。
賢ければ軍の文官だって目指せるだろう。
軍師はオススメしない。
最近指摘されて気づいたんだけど、言うこと聞かない味方に根回ししてなんとか軍を回すのが軍師なんだって!
俺がやってる仕事じゃん!
死ぬほど苦労するのでオススメしない。
おかしいな。
俺のイメージだと一番楽なポジションのはずだ。
なのにこの扱いよ!
つまり想像上の軍師は、作戦を作る戦略士官である。
まさにホワイト!
実際の軍師はあちこちに根回しする泥臭い仕事である。
一番鬼畜生な労働!
今回の件も国王としての外交もあるけど、基本的には軍師の仕事。
イソノの野郎は俺のケツ拭き係。
外務大臣として頭を下げまくる仕事。
クロノス人や銀河帝国人は基本的に腰が低いと思われてる。
間違ってない。
だけどね、我らは知ってるのだ。
こういう場面でアホなことやらかしてコケた国家を。
そう、我らは二ヶ国は出太陽系以前の歴史を保有する国家なのだ。
ほぼ銀河帝国成分だけどね!
ベルガーさんに聞いたらかなり珍しいみたい。
だからベルガーさんたち古代人が保有する歴史との照合作業をしてる。
これは10年はかかるだろうなって感じ。
ま、そんなもんである。
だから俺やリコちで将来的に災厄が起こりそうなことを取り除く。
ラターニアにもくれぐれも親元に返せばいいってわけじゃないと言い聞かせる。
ラターニアは契約にうるさいのにそういうところで雑なのよ。
なるべく恨まれないように立ち回る。
俺は後の世に災いを残したくないのだ。
ヒトミちゃんも監視対象だ。
監視って言っても親とうまくやれるかどうかね。
親子だからといってうまくいくとは限らない。
ヒトミちゃんは4歳で誘拐された。
これはラターニアからの報告書でわかってる。
親を忘れてるくらいだ。
かなり辛い生活だったと思う。
『思う』としか言えない。
俺の要請で、しばらくは福祉局で生活。
ラターニア語を忘れてるくらいだ。
親元と施設を行ったり来たりしながら生活する。
ラターニアでは美談ってほどじゃないけど、怒りをおぼえつつも、少し中休みできる話題になってる。
ゼン神族だけは殺すって国民が団結してるけどね。
「リコ先生! わたし、漫画家になります!」
別れの日、そう言ってヒトミちゃんは泣いた。
リコちはなんとも言えない表情をしたという。
だって本人、クロノス王妃と憲兵と漫画家の三足のわらじを履いてるもん。
漫画家はほぼ趣味。
一応、外務省と軍の広報課から原稿料が出てるらしいが……。
収入の柱はクロノス王妃だし、お小遣いは銀河帝国とクロノスの憲兵隊から出てる。
そんな安定した生活のリコちはそっと目をそらした。
心が汚れちまったリコちはキラキラした笑顔を直視できなかったのだ。
「ガ、ガンバッテネ!」
というわけで一つお仕事は終わった。
問題は今後、戦艦を何も考えず撃ち落とすわけにはいかなくなった。
大人だったらまだ心は傷まないんだけど、子供相手じゃなー。
ラターニアも行方不明者リスト作って、議会は連日大騒ぎ。
国民は必ず救うべきという派閥と兵士の命を優先して救えるものだけ救うしかないという派閥が対立。
乱闘騒ぎにまでなったそうだ。
気持ちはわからんでもない。
お互い国民を思っての行動なので国民も怒るわけにもいかず静観。
ただ世論的には兵士の命優先という現実主義派が優勢だ。
だが全て救え派も決して少数意見ではない。
議会前には抗議デモが起こった。
ラターニア人なので静かなもんだけどね。
殴り合いにまで発展するほうが異常事態なのだ。
鬼神国は戦いの中で死ぬことは誉れ。
たとえそれが洗脳だったとしてもだ。
きちんと死者をともらえば許されるとのことだ。
レプシトールは……まあやめておこう。
彼らのモラルにだけは期待してはいけない。
爆弾仕掛けてからゼン神族に返そうって言ったやつ、お前更迭な。
俺はそういうのは許さないからな。
冗談でもやめろよ。本当にやめろ。
まだ鬼神国のほうが理解できる。
ゾーク、プローン、屍食鬼はゼン神族に嫌われてたようだ。
今回の兵士の中にはいない。
こういう細かいところからゼン神族の本音が透けてくる。
俺はこういう読み合い得意だからな!
てめえコラ、良い手考えちゃったとか思ってるんだろ?
ハッハー! お前らがクズみたいな手段使ってくるたびに俺たちはお前らを分析するの。
分析さえしちゃえば怖くない。
お前らは神族名乗ってても人。それもカスみたいな連中だ。
ケツモチのヤクザが星の神だかなんだか知らんが、お前らの行動で大した連中じゃないのはわかってる。
うちの座敷童ちゃんのほうが明らかに立派だ。
怖くなんてないもんねー。
ブツブツつぶやいてたら、リコちに呆れられる。
「たぶんレオくんを怖がってるんだと思うよ。ゼン神族……」
「なんでぇ!?」
「だって自信満々でやった策を全部見抜かれて、台無しにされて、晒し者にされて、いまじゃ全宇宙の敵扱いだもん。私だったら絶対レオくんと戦わないよ……」
「こんなラブリーな怪獣なのに!」
「怪獣なのは認めるんだ。そ、怪獣。戦えば戦うほど損をする」
「……ひどい!」
でも反論もできない。
わざとそういう戦い方をしたのは事実だ。
そもそもさー、神を自称する連中なんて引きずり落とせばいいわけよ。
カスみたいな戦略使ってくるのはわかってる。
だったら世界にそれを宣伝してしまえばいい。
権威はコンテンツ力で引きずり落とす。
これ古代からの知恵。
「……ほらね。ゼン神族もあきらめればいいのに」
「あきらめたら今度は外交で第二ラウンド!」
外交に持ち込んでくれる。
外交チャンネルさえあれば侵略的コンテンツと文化交流で無理矢理仲良くなってやる。
「ぐはははははははー!」
「……ちょっと敵が可哀想になってきた。ほんとそういうとこやぞ」
リコちはあきれてた。




