第八百六十七話
カン・ファン子爵。
クロノス国境周辺の知事だったがのいつの間にか子爵か……。
私は僻地で惑星知事をしていた。
もともとは農家のせがれだ。
たまたま運よく建設会社で財産を築けただけの男でしかない。
昔は食うのも精一杯。
それを人生の全てをかけて食える惑星にした。
宇宙港を整備し、定期貨物路線を誘致し、農業や工業を振興した。
工場を作り、首都……いまでは王都になった惑星に出かけては地場産業を宣伝した。
住民に金を出し、中央で学ばせた。
帰ってこなくてもいい。
中央で就職しても、同郷会で動向を把握してる。
同郷出身者でお互いを助け合い、産業をやりくりして故郷に仕事を持ってくる。
そのシステムを作り上げた。
だが私の人生はある日終わりを迎えた。
ゼン神族による大量虐殺と破壊。
瓦礫と化した地元を見て……私は命を絶とうと思った。
家族も皆死んだ。
私の人生を賭けたものも灰燼に帰した。
せめて親を失った子だけはどうにかせねばならないと同郷会を動かしていたところ、国王陛下と出会った。
レオ・カミシロ・クロノス陛下。
どさくさ紛れに無知な国民に受け入れられた征服者。
そう思っていた。
だが国王陛下がもたらしたのは法と秩序だった。
法で自らを縛り、専横を許さず、権力の分散をした。
経済植民地化も避け、巨大になった自分の会社を株式分割や新株発行で社会の持ち物にした。
戦災孤児、失業者、住宅などの問題を完璧でなくとも解決し、たった数年でクロノスを法と秩序で平定した。
クロノスの歴史に残る英雄であるが、本人はそれでも雇われ店長を自認してる。
話してみれば異常なほどの現実主義者である。
まだ若年だというのに……学生でありながら銀河帝国の存亡を賭けた戦争で頭角を現したというのには伊達ではない。
国王陛下と比べたら……イソノ卿はまだかわいい若造だ。
二世議員によくいる甘さの抜けない若造……だから厳しく育ててる。
イソノ卿はレオ陛下を支える右腕なのだ。
甘さを抜こうと思ってる。
それに比べてレオ陛下の可愛げのないこと。
銀河帝国皇帝陛下も「婿殿を育てた憶えはない。勝手にああなった」とおっしゃるほどの現実主義者だ。
学生を率いて戦った中で、若者特有の甘さが抜けてしまったのだろう。
法にこだわるのも権力の分散も自分自身すら信じてない証拠だ。
リーダーとしての重責から学習したのだろう。
それでいながら現実的範囲での理想はお持ちだ。
なんという悲しい存在だ。
本当に哀れに思う。
救いは本人がそれを自覚してないことだろう。
聞けばクロノスで言えば政治的に干された惑星市長のご三男だとか。
クロノスでも開発を一度断るとそうなることは多い。
王都近郊でそうなった惑星は多い。
別にブラックリストに入るわけじゃない。
反対されるからと後回しになるだけだ。
そのうち存在が忘れられ懇親会や振興会にも呼ばれなくなる。
そんな惑星出身の陛下は権力者とは思えないほど市民寄りの思考だ。
だから国王陛下には取りこぼしがないようにと圧力をかけ続けている。
私があとどれだけ生きられるかはわからないが、死ぬまでにすべてを教え込もうと思う。
イソノ卿にもだ。
そんなことを考えているとラターニア王から通信が入った。
出てみればラターニア王は激怒していた。
「ファン卿! 君のしわざか!」
「なんのことやら……と、トボけたいところですが敬礼作戦のことなら違いますな。あれは陛下単独です。なんの相談もございませんでした」
「き、君は義理の息子をどうしたいのだね! 君の生徒だろう!」
「国内国外問わず情報を小出しにして多少誘導しておりますが、あれは陛下の素のお姿ですな。ポリーナ様がよくご存じでしょう」
「だが……本当に二十代の若者ができる行動かね?」
「本人はイタズラのつもりだったようで。それに陛下は職業軍人でもあります。そういう意味では若者らしい行動かと」
嘘である。
血気盛んな若者はやらない。
即開戦が当たり前だろう。
「行動は若者でありながら、手段は老獪。はっきり言って化物ですな」
「卿から見てもそうなのか……」
「ええ、その後のフォローを少しだけいたしましたが……くれぐれも銀河帝国の軍人が皆ああだとはお思いめされるな。クロノス王陛下だけが異常なのですぞ」
教育課程も調べたが、育ての母が厳しく責任を叩き込んだ以外はそれほど異常ではない。
むしろ自然の中でのびのび育ったようである。
動物の王になっていたとかいう記述は見なかったことにするとして……だ。
「どんな教育をしたのかと思ったが……元からああなのか……」
「ええ、元からのようでございます」
本人の資質が大半。
再現は不可能だろう。
「資質か……」
ラターニア王もタカ派から突き上げられてる。
腹芸の苦手なラターニア人相手ではさぞつらい立場だろう。
かといってレオ陛下の選択はあの場で最良の選択と言っていいだろう。
ゼン神族もレオ陛下の指揮能力の高さに何もできずに傍観していたと聞く。
レプシトールや鬼神国では「これぞ真の武人なり!」と評判だ。
国王陛下が褒められて悪い気持ちになるはずもない。
少なくともゼン神族側は計画の変更を迫られてるはずだ。
内部からの攻略は不可能。
そう判断してるはず。
そうでなければレオ陛下に蹴散らされる運命が待ってるだけだ。
ローザリアまでの時間稼ぎはできた。
あとは本当に内政からの攻略を不可能にしておけばいい。
それこそ私の仕事だろう。
王党派をまとめ上げ、野党とも連携してみせよう。
……それにしても……私はこれほどまでに忠誠を誓っているのだが。
なぜ我が王は私を警戒してるのだろうか?
いや警戒は大いに結構!
好々爺を装って近づいたのに一目で中身を見抜かれたのには驚いた。
あの警戒心の高さ!
まるで龍でありながら兎のような警戒心。
なんと素晴らしいのだ!
イソノ卿など警戒心すらないぞ……。
馬鹿者め……。
「ラターニア王陛下。我が王をよろしくお頼み申しまする」
頭を下げる。
するとラターニア王は困った顔をする。
「私だけでは支えられん。卿には長生きしてもらわねば」
「ふふふ……そうですな……」
クロノスへの最後のご奉公と思っておったが、まだまだ死ねぬな。
私はほほ笑むのだった。




