第八百六十六話
敵をガン無視してやった。
俺は完全に挑発行為だと思ってるが、ほかはどうだろうか?
まず王党派の元惑星知事で子爵が「なんと陛下は弱腰であるか!」と大騒ぎした。
うさんくさい顔したおっさんである。
でもこれ寝技。
クロノス議会奥義「大げさに追求してるふり」作戦である。
なんという汚い心だろうか。
さんざん大騒ぎして警備につまみ出される。
ここまで計算のうち。
……俺はまだクロノスを甘く見てたかもしれない。
あの小男で、はげちゃびんのおっさん……クロノスがめちゃくちゃになる前から「銀河帝国と組むべき」と主張してた人物だ。
この小芝居も計算のうち。
なめていい相手ではない。
80歳も目前だというのに俺のところによく連絡してくる。
話は基本的に地元の惑星やクロノスのことばかり。
自分の個人利益になるような要求は一度もない。
もちろんそれらの利権団体の要職に名を連ねていて、毎年馬鹿にならない利益が懐に入ってるはずだ。
そのくせその利益の大半は地元やクロノスのために使ってる。
イーエンズ爺さんと同じ妖怪のたぐいだ。
正直、こと根回しに関して勝てる気がしない。
俺の目が届かない団体の内部まで知ってるほどだ。
もちろん最大限使い倒しながらも全力で警戒してる。
俺の知らない方法でゼン神族と接触して俺とをゼン神族とを天秤にかけてるかもしれない。
ただ愛国心は本物のようだ。
今のところ許されてる。
こういうのがまだ数人いるのよ……クロノス議会。
軍人になるとさらに多い。
これができないのがパーシオン。
四角四面なくせに嘘つきだからダメ。
クロノスは奸雄ではあるが国を救おうとしてる人物ばかりだ。
つまり俺は常に値踏みされてる。
権力者ではあるが評価される側だし、今のところ合格点を出してるにすぎない。
そんなキレ芸おじさんと通信する。
「はっはっはっはっは! 私もゼン神族の間抜け面が見とうございました!」
まー、ご機嫌。
よほど痛快だったようだ。
ゼン神族のメンツを完全に潰したもんね。
「やはり陛下こそクロノスの未来を作るお方……ついていきますぞ!」
これはリップサービス。
俺が落第点取ったらすぐに切られる。
スポーツ推薦の学生みたいな立場だ。
俺が使い物にならなくなれば、すぐに権力を奪って王冠の台座状態にされるだろう。
正直……一番苦手なタイプである。
経験と人脈において逆立ちしても勝てない相手だ。
味方になってもらうしかない。
しかもこのおっさん……ささやかな趣味はあれど、浪費するわけではない。
権力も自分のためには使わない。
つまり恐ろしいほどの信念を持ってるのだ。
雇われ店長を自認してる俺では理解できないものだ。
こんな若造に媚を売っても恥ずかしいとも思わない。
だいたいクロノス滅亡時も軍人でもないのに自分の惑星で避難誘導ずっとやってたほどだ。
戦災孤児の問題もハーさんがやる前から手を付けてた。
それで気に入られて仲良くなったんだけど。
本当に警戒すべき妖怪だ。
「ローザリアとは?」
「まだ通信できてません」
これを言っていいのか迷うが言っちゃう。
一応軍事機密だ。
でも、どうせ軍からも漏れてるだろう。
その程度の人脈はあるおっさんだ。
こういう緊張感のある味方って一番怖いよね。
本当に未だにこういうのが苦手。
「これは……独り言ですが……」
はい、怖いの来た。
「レプシトールの通信会社が新しい通信システムを開発したとか」
知らにゃい……。
っていうか、カレンさんすら知らないことをなぜ知ってるの?
ねえ、おじたん。なんで知ってるの?
「音質はそれほどよくないようですが、遠くまで届き、暗号も強固。現状では最適かと」
冷や汗がドバドバ出た。
なんなのこのおじたん……。
「どうしてそんなことを?」
「工業は国の基本ですからな。レプシトールは商売敵。動向は耳に入るようにしてます。さあ、連絡先をどうぞ」
テキストが送られてきた。
カレンさんに送信。
すぐに返事が返ってくる。
『これベンチャー起業ですよ! 私も把握してません!』
『ですよねー』
『すぐにコンタクトを取ります』
はい玉キュン。
怖いわ……。あたい。
なにもかもわからないのが怖いわ。
ということでカレンさんにまかせる。
「子爵、感謝します」
「はっはっはっは! なんのなんの! 戦場に出られぬ身。後ろはまかされよ!」
たいへんご機嫌な様子で通信終了。
あたい……今日は疲れたわ……。
もう動けない。
すると執務室にケビンがやってくる。
「患者の統計出たよ……。今のところ重症なし。……って大丈夫? 顔青いけど」
「妖怪と一戦交えたとこ……」
「あの子爵?」
「そう。怖いよね……」
「でもレオ気に入られてるじゃん」
「嘘だー! いじめられてるだけだって! ひーん!」
「からかわれてるのはわかってるけどさー。あれ絶対、カトリ先生と同じタイプだよ! 実戦で育てようとしてるんじゃないかな」
手法が乱暴すぎるのだ。
おそらく俺を妖怪レベルまで引き上げようとしてるのだ。
ひーん!
子爵は敬礼作戦を大いに喜んだ。
だから合格。
間違えた手を打ったら……急に胃が痛くなってきた。
「栄養剤と胃薬出しとくね。ちゃんと寝るように。睡眠計のデータ提出ね!」
「へーい」
もう俺の味方はケビンしかいないまである。
だってイソノに言うじゃん。
「先生のほうが正しい」
絶対にこう返ってくる。
イソノは子爵を先生と呼んで慕ってる。
イソノには厳しい先生みたい。
「これを読め馬鹿者が!」って感じみたい。
でも俺には優しい。
それが逆に怖いのだ。
怖いと思ってるこの感情すら利用されてるかもしれない。
疑心暗鬼にもなるわ!
く、俺はベテラン議員になんか負けない!
俺がくっころしてるとケビンが呆れる。
「もーさー、レオって苦手な相手にはとことん弱いよね!」
「だってー、経験値が違いすぎるんだもん! 勝てないよあんなのー!」
かなり好意的な味方だから余計に怖いし。
「もー、子爵のおじいちゃん、そんなに悪い人じゃないよ」
純粋無垢なケビンはだまされてる。
「嘘だー! 子爵のおっさんほどの悪人見たことないって!」
あれは地獄の味を知ってる顔だ。
嫌いな相手に頭を下げ、靴を舐めてきて妖怪に至ったのだ。
俺は身震いする。
膨大な借りが発生してる味方が一番怖いのよ!
父親が多臓器不全で入院しました。
今日の感じで更新ギリギリだったので毎日は無理かもしれません




