第八百六十一話
ゲートキーパーちゃんは太極国士官見習いである。
太極国は士官養成所という制度はあるにはあるが、基本は徒弟制。
武官学校と呼ばれる私塾から推薦を受けて、士官養成所に入所。
そこで下働きから教わる。
推薦状が必要なのは国費の節約だそうである。
要するに頭いいけど怠惰なものを最初から排除する制度だ。
我が銀河帝国の場合、士官学校入学試験をひたすら難問化させて弾いている。
なぜ俺が入学できたのかは永遠の謎である。
太極国の場合、副作用として養成所への入所前に家とは別の派閥が形成されてることがあるだろう。
同じ私塾出身のものを優遇するわけである。
銀河帝国の場合は私塾よりも貴族の派閥が優先される。
どちらにせよ派閥から組織が腐っていく傾向ではある。
だが太極国の場合は、私塾の栄枯盛衰があるため一定期間でリセットされる傾向がある。
ある日突然、無名の塾から天才が生まれることは珍しくないのだ。
そこで派閥の新陳代謝が起こり武官の権力構造が塗り変わる。
うーん力技。
その点、銀河帝国の組織としての新陳代謝はほとんどない。
とにかく受験戦争ってのは子どもにとっては地獄だけど、社会にとっては利益が大きい。
問題点は過酷な子ども時代のせいで性格がひん曲がってカスみたいな権力者が量産されることだろうか?
こう、なんというか……あんばいが難しいよね。
で、ここからが本題。
皇帝であるシーユンが直接ねじ込んだゲートキーパーちゃんであるが、禁軍が大切に育ててる。
外国人の友人だけではなく、自国の友人もねじ込みたいという思惑もあるだろう。
一人友人になれば自国の社交をさらにねじ込んで、有力派閥の姫と友誼を結ばせる。
そうしたら、結婚相手としてその兄弟をねじ込むと。
「クロノス王の妻」宣言したが、いまならまだ取り返せると思ってるのだろう。
異論が出るのは当然かなと。
俺がクロノス王になるとき、子どもできる前に嫁ちゃんと離婚させろって意見も根強かったし。
うちの場合、嫁ちゃんの権力が強いし、俺を手放したくない勢力の方が多かった。
そもそも俺と離婚するメリットが全くないし、反対派が強弁を繰り替えす中、クロノスは周辺国を併合し超大国になってしまった。
その結果、離婚を主張する連中の意見は無視された。
現在では発言そのものがなかったことになってる。
その余波が今度はシーユンに来てるということだろう。
そりゃねー。
そのうちクロノスが統一国家として君臨する未来が見えてる人も多いのだろう。
俺は好きで併合したわけじゃねえっての。
特にパーシオンは今でもいらん。
広いだけでなんの得にもなってない。
ローザリア側の通り道で防衛に必要だから維持してるだけ。
マゼランやオーゼンもさっさと独立してほしい。
できればローザリアとの航路の管理を担う国になってほしい。
通行料やアマダ警備と組んで運送をして、必要な軍を持っていればいい。
そうしたら俺たちで管理しなくていい。
圧倒的に楽だ。
いまは無理だろうけど。
徹底的に教育して次世代に期待するしかない。
そんな薄汚い思惑の中、ゲートキーパーちゃんは禁軍で面白可笑しく訓練されてる。
そもそも戦闘力は化物じみてる。
生身になって腕力こそ弱くなったが、剣術を教えたらみるみる上達した。
たまに廊下を歩いてると戦いを挑まれるが、太極国の直剣で素早い連撃を繰り返してくる。
いやー、人間に戻す前より強くなってんじゃん。
あとはスタミナだよね。
なんて思ってたら見つかってしまった。
「あ! 強者!」
「はーい。ゲートキーパーちゃん。お元気。お店の制服似合うじゃん」
太極国の民族衣装だ。
そこに昔の化粧を施されてる。
「ぬ、ぬう! 見られるとは屈辱だ!」
「いいじゃん。かわいいんだから。はいこっち来て」
シーユンや禁軍と並んで写真を撮影。
まだ撮影され慣れてないようだ。
ポーズが硬い。
面白かったのでルーちゃんママに送信。
「太極国と草野球して打ち上げしてるよ」って添えて。
ゲートキーパーちゃんは少し前にニュースになったので顔くらいは知ってるだろう。
それほど大きなニュースがないときに使われるんじゃないかな?
「ぬ、ぬう! 我慢したのだから戦え!」
もーねー、会うたびにこれ。
ゲートキーパーちゃんは常に戦いを求めてる。
別に戦いを求めててもいいけど、こうも頻繁だと正直面倒だ。
するとシーユンがほほ笑む。
「ステージで戦ってあげてください」
ま、いいか。
「ルーちゃんママに渡すから誰か録画して」
「では自分が」
野球に巻き込まれたジェイソンくんがカメラで撮影してくれた。
なおイソノのバカはすでに酔っ払ってる。
この状態でなければマスク・ド・イソノに押しつけようと思ったのに!
「剣は」
「用意しております」
仕事のできる男。
ジェイソンくんは例の神刀……それはやめて普通の木刀……あるのね。
やはり仕事のできる男は違う。
ゲートキーパーちゃんも太極国の訓練用の木剣を構える。
「勝負だ! 強者よ!」
素早い連打が来る。
力の抜けたちゃんと習った剣術だ。
前より強いな。
直剣だから手首は柔らかく。
手首で回転運動させることで切れ味が増す。
対して刀は曲剣。
最初から円運動のガイドつき。
しかも素直に振り下ろすのが最大攻撃力になる曲線だ。
要するに手首スナップして余計な回転運動作るなって話。
刀の邪魔をしないことが求められる。
帝国剣術の競技では手首動かすんだけどね。
そっちの方が距離稼げるから。
俺は古流がベースなので手首動かさない派閥。
ここだけでも延々と語れるけど、もう猛攻の最中だ。
攻撃を流して流して流して……。
「当たらぬ!」
そりゃね。流してるからね。
省エネで戦ってる。
するとゲートキーパーちゃんの呼吸が乱れてくる。
はい、チャンス。
パリング!
思いっきり弾く。
体重が軽くなったせいでゲートキーパーちゃんは体幹ごと崩れる。
「はい、ギブアップする?」
「はあ、はあ……まだまだああああああッ!」
がんばり屋のせいか、まだ続けようとする。
息切れてるんだから無理すんなよ。
と思ったら蹴りが飛んできた。
はい、下から蹴り足すくい上げてちゃぶ台返し。
顔面から床に突っ込みそうになったので服をつかんで起き上がらせる。
「最後のはいいけど、単体で運用はよくないぞ~」
距離詰めるのに使って連撃するとか。
苦し紛れに出すとこうなる。
「ま、なんでも逃げは良くないよって話」
「ぐ、ぐう! 手も足も出なかった!」
「ゲートキーパーちゃんかなり強いよ。俺と相性悪いだけで」
「相性とはなんだ!」
「すべての攻撃が全力の相手。もっと虚実混ぜないと」
俺はフェイントしてこない相手には強い。
「ぐ、ぐう……」
この辺のやりとりはあとでニュースになった。
痛い攻撃してないから太極国とのほのぼの交流会って感じかな。
いやー、こういうのが続いてくれればいいのよ。
子育てとか。




