第八百五十九話
新しくできた宇宙港から飛ばした通信衛星でローザリアのプロトコルで暗号化された通信を送る。
ずっと繰り返してる試みだ。
暗号化部分は俺たちが触るのは御法度だ。
なのでハードウェアは俺たちが作って、中のソフトウェアはローザリア製である。
ゾーク戦争前の枯れた技術のものなのでローザリア側には設計を開示。
傍受などの問題がないのを確認してもらってる。
ゾーク戦争後のとんでもないスペックのがあるけどそっちは使わせない。
こっちにも機密ってのがあるのだ。
小国からの留学生やある程度の支援は応じるけど、内戦を解決しろってのには応じないのと同じだ。
ほいほい差しあげられません。
こっちにも軍事機密や制作者の知的財産とかがあるのだ。
ローザリアだってこっちにプロトコルと暗号の仕様隠してるんだから同じだと思う。
それは俺が知的財産保有してるカミシログループ会長だとしてもだ。
役員会と株主総会でフルボッコにされて否決される未来しか浮かばない。
俺は自分の会社ですら独裁者になったことがないのだ。
まあ、いいや。実質中間管理職から何一つ進歩してない話は置こう。悲しくなるから。
ローザリアとの通信はハッキリしたものではなかった。
どうしても信号が弱く、信号を音声に戻せない欠落部分があった。
暗号化されてるしね。
復号化した音声は俺たちに公開された。
別に機密でも何でもないのだろう。
「我らは支配領域を縮小。シャーロット様、危険、帰還するな……」
ここからわかるのは包囲されてるんだろうな。
方位されてても惑星は多い。
不利は不利だが都市の方位とは状況が違う。
ここから粘れるし、勝つ目はある。
俺たちに不利な状況としては、シャーロットが来た方向にゼン神族の基地があることだろうか。
高確率でね。
俺だったら方位にこだわらないで基地を拡張して敵に備える。
するとローザリアが背後から俺たちを援護するだろうが、それも不利にならない。
地形なんて小惑星帯くらいしかないのだ。
別なところから味方を呼べばいい。
という平原みたいな戦争だからこそ、個人の武勇がわりと重要な時代に戻ったんだよね。
士気に、補給に、陣形ね。
戦略も重要なんだけど、物語の方の三国志みたいに蛮勇が強い。
戦争が数なのは変わらないけどね。
そうすると、やらなければならないことが簡単に理解できる。
宇宙港の建設と武装化だ。
通信信号の減衰からどう反射したのかがわかり、そこから求めた一辺から三角測量でおおよその距離がわかると。
さらにそこから信号に邪魔が入ったのもわかるし。
邪魔した物体の位置も推測できる。
するとそこから宇宙港と前線基地の適切な建築場所が割り出せる。
もちろん嫌がらせと位置測定のために信号は送り続ける。
物体が動けば、その都度計画を見直す。
もちろん相手も位置がバレてる前提で似たような質量のものを置いて罠を張って……。
あるかな?
ないような気がする。
一応頭の隅に置くくらいでいいか。
こちらはあらゆる信号を送る。
軍の機密情報に見せかけてデタラメな情報を送ったりもする。
さらに計画書ファイルを送ったり、その計画書ファイルに会議の内容風を装った音声ファイルを忍び込ませたりする。
文書ファイルが普段使わない領域に無駄なファイルを付け足すのだ。
妖精さんがでっち上げたラターニア王と俺が言い争ってる音声ファイルとかね。
もちろん暗号化してね!
ローザリア側も混乱するだろうが、そこはご愛敬。
何回か繰り返せば意図はわかるだろう。
え? ただの嫌がらせだけど。
純度100%の悪意だけど。
ゼン神族ちゃんも情報分析官くらいいるでしょ。
だからそいつらに最大限の愛をプレゼント。
俺の悪意を受け止めて!
……リコち……なぜ君は薄い本のファイルを送るのですか? ホワイ?
「みんな腐らせてみたいなって」
思想兵器をぶっ放す。
俺は知らん。
責任は取らない。
そんな中、シャーロットに会いに行く。
シャーロットは病院に隔離中。
いや、もうインフルエンザは治ったんだけど、ジェスターの特異性を考えて少し長めに養生してる。
リコちも一緒だ。
シャーロットはリコちと仲がいいらしい。
リコちはケーキとフルーツをどっさり持っていく。
フルーツは重いので俺と近衛騎士で運ぶ。あとリコちも。
ケーキはリコちの侍女さんたちが運ぶ。
……つうかさ、プレゼントが豪快で男前すぎんのよ。
あ、護衛や侍女の分もある?
やっぱり……リコち男前すぎない?
そんな我がクロノス家の嫁の一人の今日の服装はシャツに革パンに龍のスカジャン。
俺のスカジャンである。
果物運ぶからこれだって。
そうなのである。
うちの嫁、無自覚に男前なのである。
「シャーロット来たよ~♪」
リコちは両腕にフルーツの入った段ボールを抱えて病室に入る。
軍手を外して俺に無言で渡す。
あ、はい。
俺もギリギリ作業着じゃない系の服装。
軍手を受け取ってポッケに入れる。
なんか普通の婿さんっぽい。
近衛騎士と注意しながら段ボールを置いていく。
「ありがとう! 重くなかったか」
「旦那と家臣が手伝ってくれたから」
するとシャーロットの侍女さんが俺たちに一礼してから段ボールを開封する。
受け取ったよって合図が必要だったようだ。
すぐに病院の調理室に持っていく。
使ってもいいって許可が出てる。
「クロノス王もすまんな」
「いいって。友だちだろ」
奥歯キラーン。
別に口説いてるわけではない。
俺は常にこういうキャラだ。
真面目を装うのはもうあきらめた。
人には向き不向きがあるのだ。
「ふふふ……強いな」
「強くなんかないって。知らんうちにこんな風にされただけで」
「それでどう? 通信は?」
「あれ以降は妨害がひどすぎて復元できてない」
そりゃ邪魔もするか。
「それで、どうする?」
「どうもこうも位置関係はわかったから前線基地作って攻略開始かな。向こうがそれをさせてくれるかは別問題だけどね」
おしゃー、来いやー!
っていう展開もないだろう。
ちゃんと妨害してくると思う。
なければ分析官で会議。
戦費が調達できなかったとか様々な角度から敵を分析する。
ゼン神族が強いのは正体不明だからだ。
尻尾さえつかませてくれれば、いままでの敵と大差ない。
「ね、うちの旦那頼りになるでしょ」
「ふ、そうだな」
シャーロットがようやく笑った。
さーて嫌がらせ続行するぞ~。




