第八百五十七話
さて、飯を食って病院へ。
例の元怪物と会いに行く。
なんかねえ、聴取に応じないんだよね。
「強きものを呼んでこい」
そう主張してるらしい。
危険な人物相手なのでゾロゾロ護衛を連れいていく。
今回はフルパーティー。
レオニダス隊にジェイソン隊、近衛騎士団にレプシトール忍者隊がいる。
俺を送迎する長ったらしい自動車の前後左右を装甲車が囲む。
カトリ先生は「レオなら大丈夫だろ」と言って来なかった。
病院に到着してゾロゾロと隔離施設に行く。
地下の油圧ゲートを抜け防弾ガラス越しに怪物と会う。
そこには、小さな少女がいた。
「……帰ろうか」
はい解散。
芋でも食べよう。
すると女の子が焦った様子で翻訳機をつけて怒鳴った。
「待て! 強きもの! 帰るな!」
「あー……うん。オッス、オラ、レオ・カミシロ・クロノス。クロノス王だ」
「ゲートキーパーだ」
「それ名前?」
「我に名はない。製造型式だ。ゲートキーパーシリーズ」
はあ……、落ち込むわ。
「ちょっと気分落ち着けていい?」
「う、うむ。なにかあったのか?」
「いやさー。俺も子どもいるわけでさ~。子どもが体いじられて一人で暗いとこいたとか聞くとさ~。さすが精神的ダメージがあるのよ」
ホント、子どもできると考え方変わるよね。
こう胸が締め付けられるというよりも、神経直接触られたみたいな痛みがある。
「我は子どもではない。何百年も施設を守ってた偉大な戦士である!」
「そういうところだぞ~」
いい子だわ。
なんの疑問も持たずに施設を守ってたとか。
それにしてもゼン神族にはイライラさせられる。
「ま、お疲れちゃん。『強者と戦えば平穏が訪れる』だっけ? 解放されました。めでたしめでたし」
「ふむ。強きものよ。家来にしろ」
「嫌です~。クロノスには労働基準法ってのがあるんです~。未成年は働けません」
「我は五百歳より上ぞ!」
「妖精さん。再生した肉体年齢は?」
「十二歳くらいですかね?」
思ったより大きかった。
もともと小さいのか。
「はい。もっと大きくなったら士官学校入ってそれからね」
「な、なんだと! 戦士を愚弄するのか!」
「ダメですぅ。法律で許されてないんですぅ。戦士なら掟の重要さは知ってるでしょ」
「掟か……ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
納得はしてないが掟の重要さはわかるようだ。
ふう、助かった。
「それなら我らの近衛にしましょうか」
後ろを見たらシーユンと禁軍が立っていた。
誰かいるなあとは思ってたけど、護衛の人数多すぎて気がつかなかったわ。
「ふむ……誰だ?」
「シーユンである。太極国皇帝にして銀河連合盟主クロノス王レオ・カミシロ・クロノスの妻である!」
「うん? シーユン、いまなんか発言にバグが発生したんだけど?」
いまどさくさ紛れに「妻」って言わなかった?
なお禁軍の後ろには当然という顔をして野球応援団兼シーユンの草野球チームがいる。
そういや今日はこれからプロ野球の試合があったな。
ファンイベントの国際試合で太極国が来るやつ。
応援に行くついでに寄ったのか。
なお誰も妻発言にツッコミを入れない。
当たり前だろって顔してる。
あと銀河連合ってなに?
俺初めて聞いたんだけど。
なんか野球応援団や禁軍も「す、すげえ、歴史の転換点に俺たちは立ち会ってるぞ!」、「さすがシーユン様!」、「太極国皇帝兵並びにクロノス王万歳!」とかテキトーなことをほざいてる。
「レオくん、ヴェロニカちゃんが『銀河連合』を承認しました。ラターニア、鬼神国、バトルドーム加盟諸国、プローンも決議後に合流する予定です」
そこで俺は初めて理解した。
はめられた……。
嫁ちゃんがコソコソなにかやってるのは知ってた。
でもまさか俺をハメる策略だったとは……。
嫁ちゃん! せめて相談して!
「ねえ、なんで俺が盟主なの? ラターニア王でいいじゃん。一番年上なんだから! あと妻って!?」
するとシーユンは妖しく笑う。
「もう外堀は埋めました」
複数の意味である。
つまり俺が盟主になるのは確定。
まあこれはゼン神族との戦争までだろう。
シーユンはどうなんだろう?
もう少しして俺がおっさんになる年齢になれば幻滅するんじゃないかな?
それもあと数年だ。
とりあえず棚上げしとこう。
秘技、後回しの術!
ということで銀河連合の話もなにもスルーしてゲートキーパーに話しかける。
「シーユンとこが仕官してほしいってさ」
「うむ……では世話になろう」
ということでゲートキーパーちゃんの士官先は決定。
俺は知らん。
「ところでさー、あの施設はなんなの?」
俺が聞くとゲートキーパーちゃんは難しい顔をする。
「我らの製造法だ」
それは知ってる。
「だいたいさー、ゼン神族はなに考えてたのよ?」
「太陽の民の殲滅と聞いているが」
俺たちじゃん。
「でもさー、もう太陽系はないんでしょ?」
出太陽系の講義で習った気がする。
「それ以上は知らぬ」
「ですよねー」
現場の兵士なんて誰と戦ってるかくらいしか知らないだろう。
それより上を考えるのは俺たちの仕事だ。
「じゃさ、ゲートキーパー。君はなぜ体を改造されたの?」
「戦士の義務だ」
そういう文化か。
個人の主張は存在しない。
上がそう言うからには従えって感じだろう。
パーシオンでも見た全体主義だろう。
住むには楽なんだよね。
自分で考えなくていいから。
働きさえすれば食えるし生活には困らない。
非人道的な扱いをされたとしても、非人道が非人道であると認識しなければ問題はない。
クロノスみたいな自由な社会が個人単位ではオーバースペックまである。
自由に対する責任を負わない社会ってのはそれはそれで楽なのだ。
嫁ちゃんの前の銀河帝国だって上の言うこと聞いてればいいだけの社会だった。
個人の自由と責任があるのは帝都民の一部だけだ。
だれもそれに疑問なんてなかった。
公爵会すらも上層部の言うことを聞いてさえいれば安泰だったのだ。
その究極の形がゼン神族の社会なのだろう。
銀河連合でもクロノスでもそういう路線は嫌だな。
俺はほどほどに自由でいいかげんな社会にしたいと切に願うのだった。




