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第八百五十五話

 メリッサと松さんで話し合いをした。

 最初から問題などなかった。

 ただメリッサは「もう少しはやく着いていたら」と繰り返し言ってた。

 俺が何度も悔しい思いをしたやつだ。

 みんな大なり小なりそういう思いを抱えているのだろう。

 客観的には傲慢の極み。

 俺たちは無意識に自分たちが勝てる前提で話をしてる。

 俺は勝てたのは半分は運。

 嫁ちゃんの指揮が半分の半分。

 仲間たちが優秀だったのが半分の半分。

 俺の貢献度はゼロだと思ってる。

 だってあの頃はまだ学生だったし。

 クロノス王になってからは多少の貢献があると言わないと回りが許してくれない。

 だからしかたなく「貢献してますうッ!」って言ってる。

 実際は優秀な文官と妖精さんの貢献である。

 何度でも言うが、俺は現場指揮官がせいぜいの器である。

 とにかく俺が言いたいのは「たられば」は成立しない。

 ジェスターの能力的に考えてもおそらく最適なタイミングだったはずだ。

 松さんはそれを理解してるのかはわからない。

 そりゃ松さんからしたら銀河帝国皇帝陛下の目の前で恨み言を言えるはずもなく……。

 ……ま、多少遠くてもメリッサの一族はもはやカミシロ家の親戚。

 気にしたら負けか。

 銀河帝国には不敬罪が存在してるけど、こんな身内の話で適用するほど嫁ちゃんは暴君じゃない。

 というかね、不敬罪って世論が暴走して暗殺や暴動が起きそうになる前に対処するための法律だからね!

 あと政治闘争で負けそうになったときに盤面ひっくり返す手。

 ムカついたくらいでいちいち断罪してると重臣どもに病死に見せかけて処される諸刃の剣……。

 麻呂もそうやって死んだのだ。

 王様業は雇われ店長。

 加盟金は自分の命。

 過酷な運命なのである。

 というわけで松さんの大人の態度に救われた。

 メリッサはこういう心理戦わからないからな……。

 松さんは内心ブチ切れ、怨み骨髄に徹すかもしれない。

 だけど館花一族の嫁という宿命と今後の自分の生活、その他諸々を考えて恨みなど口にしない。

 再婚だって考えてるだろう。

 もちろんそこには亡き夫の名誉を守りたいという気持ちも大きくあると思う。

 ……あるよね?

 誰か『ある』って言ってほしい。

 館花家的には、大人しくしてれば下に置くつもりはないだろう。

 メリッサの子どもの乳母に指名したのもそういうことだ。

 メリッサを、外宇宙の超大国クロノスが後見人なのだとアピールしてるのだ。

 ああ、こういうのが理解できるようになるほど心が汚れたくなかった。

 もっと視野が狭く、「仲良くていいねえ」くらいの理解力ならどれだけ楽だっただろうか。

 とにかくメリッサのメンタルが回復してくれればいい。

 メリッサはうれしそうだった。

 俺たちは二人っきりにしてレストランを後にする。

 二人っきりなんて言ってるけどクロノスの護衛は残してるけどね。

 メリッサはクロノス王妃なのだ。

 一般人のような生活はもうできない。

 悪いの俺なんだけど。

 ごめんね。

 嫁ちゃんの入り婿のままだったら苦労させなかったのに……。


「婿殿、焼きそば食べたい」


 やはり足りなかったか。

 小鳥のような量の食事だったもんね。

 焼きますかね。

 宮殿に先に戻って食堂で焼きそばを炒める。

 ニーナさんたちもやって来て食事会の用意。

 男子どもも集まってくる。

 みんな家族が亡くなったりしてる。

 イソノの野郎も来た。


「よ」


「お義兄さんどうよ」


「まだ具合悪いみたい。入院伸びたって。家帰りたがるから面会もダメだって」


 イソノのお義兄さんは依存症の治療中。

 入院が伸びたってことはあまり状態が良くないようだ。

 帰還兵問題は真剣に考えないといけないな。

 うーん空気が微妙になってきた。


「ま、お前はいちいちオロオロせず偉そうにしてろ。王様なんだからよ」


「それが一番苦手なんだっての……」


「いいんじゃねえの。お前は逃げないんだからよ」


「なにそれ……」


「独裁でもなく、ブレーンは優秀。でしゃばる気もなければ、手柄が必要がわけでもない。要するにいい王様ってことだ」


「手柄なんていらねえよ~。国民の手柄にしとこ」


「そういうところな~。自我を出さない。だから国民の手柄はお前の物になる」


「それアレだろ。有名建築物を作ったのは大工さんなのに、権力者が作ったことになるやつ」


「そういうことだ。それができちまうんだからお前は賢王ってことだ。今のところはな」


「含みもたせるのやめて!」


「人生の最期で暴君になるのは王様あるあるだろ」


「そんなあるあるいらねえ!」


 権力が人を変える。

 それだけは阻止したい。

 アホと言われ続けたい。


「あー、でもどうせいろんなところに借り作りすぎて首回んなくなるんだろ。もうわかってんだよ!」


 王制の弱点はここ。

 メリットは長期安定政権なんだけど、デメリットは長期すぎて派閥に借りを作りすぎて首が回らなくなる。

 なんの意思決定もできなくなる。

 リーダーシップ? そんなものはない。消滅する。

 もしくは借りを帳消しにするために重臣の一斉粛清を敢行して政治がガタガタに。

 粛清したそいつらも子分や仲間の派閥に借りを作りまくってて、それがデフォルト起こして貸し倒れが起きると。

 この借りってのは信用なんだけど、当然お金もぶち込んでるので異様な不景気もセットで到来。

 だから王制はちょくちょく長い不景気が到来すると。

 破産処理と借りが大きくなる前に政権交代する制度なら長く続くよねって話……なんだけど不思議なことに民主主義の方が簡単に崩壊するんだよね。

 これが不思議なことに。

 相互不信であっと言う間に崩壊する。

 レプシトールはそこを企業による独裁でカバーしてたんだけど、金がなくなって崩壊と。

 王制に戻ったわけである。

 わけわからん。

 結局、国家運営って生き残った側が偉そうに言ってるだけではなかろうか?

 やだ怖い!

 二代目で潰したくない!

 せめて老舗になりたい!

 本当に俺はそう思うのだった。


「陛下。ごはんくださいであります!」


 ワンオーワンが来た。

 うむ。


「我が忠臣ワンオーワンよ。日頃のそなたの忠誠心に敬意を表して大盛りにして進ぜよう!」


「ははー!」


 あ、少しわかってきた。

 この大盛りを仲間にやり続けて銀河大盛りMAXとかの無茶な量要求されるようになって首が回らなくなるのか。

 で、諸侯も銀河大盛りMAXを自分の懐に入れてるわけじゃなく、子分に配ってるから組織がデカくなると要求量が増えると。

 うーん。まあ、いいや。

 今回は大盛りにしておこう。


「つまり給付は薄く広くってことだな」


「お前の思考がまるでわからんのだが。説明しろバカ」


 イソノと帰還兵の話し合いをしたのであった。

 焼きそばって重要。

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― 新着の感想 ―
やっぱ賢王じゃん
メシで例えると即理解出来るのがホントカワゴンw
焼きそばから始まる国家運営。
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