第八百四十六話
「さーて、やるか」
今日は便所掃除の当番。
俺たちは軍人。
仕事を忘れないためにも宮殿の一部区画の清掃当番を交代でしてる。
もちろん俺もだ。
女子のママ組は免除ね。
野郎のパパ組?
お前らはやれ。
エプロンにゴム手袋をつけて男子便所に突撃だ。
便器に容赦なく酸性洗剤をぶっかけていく。
便所掃除は塩素派と酸性派がしのぎを削る戦国時代。
でも俺は酸性派。
ブラシでゴシゴシ。
なお最新型清掃ロボットによるレーザー消毒については考慮しないものとする。
あたい……ロボットに負けるなんて悔しいわ。
ま、ロボットが常に使えるとは限らない。
漂流したり、機体が限界だったり、惑星で遭難したり。
そうなったら最後は手作業である。
やはり戦闘力も大事だが、それ以上に生活力が求められる。
サバイバル能力も必要だしね。
火を起こしたりとか……。キャンプ行きてえな。
子ども小さいからまだ無理だけど。
「レオの兄貴! 女子便所終わったぞ!」
「終わったであります!」
タチアナとシーユンが当番終了を知らせに来る。
二人は現在帝国士官大学校医学部受験に挑戦してる。
そう言わないと勉強しないから受験というていにしてる。
実際は試験免除だ。
タチアナやワンオーワンのような重要人物を自由にさせるわけがないだろうが!
すべて宇宙海兵隊の陰謀である。
はっはっは!
洗って流して終了。
自動洗浄剤も補充しておく。
あたい……お掃除ロボットになんか負けないわ!
で、掃除終わって執務室で休憩。
レンがお茶を入れてくれた。
レンはすでに仕事に復帰。
ビースト種凄え。
子どもたちは、うちのおかんたちが世話してる。
ある程度動けるし、落ち着きがないのでなかなか苦労してるようだ。
猫のきなこも子育てに参加。というかいたずらに積極的に参加。
本人は狩りを教えてるつもりのようだ。
そのため運動能力は天元突破。
手がつけられない模様。
いなくなると近衛騎士まで投入して探す状態だ。
あたい……そこまで凶悪じゃなかったわ……。
そう。いまみたいに……。
天井裏からきなこがにゅっと顔を出す。
あたいの逃走経路用の通路を使ってる。
「なーん」
シュタッと降りてくる。
するとその背中には六つ子が乗ってた。
「あい!」
みんな得意げな顔。
ほめてほしいようだ。
「はいはい。危ないことはしないでね」
全員なでなで。ついでにきなこもなでなで。
レンはほほ笑んでる。
すでになにかをあきらめた表情だ。
すまない夫がこれで……。
「お義母様に連絡いたします」
すぐにおかんと乳母軍団がやって来る。
「あい!」
六つ子たちはうれしそうである。
そう、好きなんだよね。
脱走するのに。
「なーん」
きなこが俺のソデを引っ張る。
うん?
どうしたん?
「にゃん」
なにかおかしい。
一緒に通風口に入る。
ほう……。
「にゃん」
所属不明の黒い戦闘服を着た人が倒れてた。
猫パンチ食らったのだろう。
きなこが不審者をくわえるて運ぶ。
うーん、狩りの練習したのね。
おそらく敵じゃない。
友好国や併合予定の国から俺の動向を探りに来た連中だ。
おそらく通風口に盗聴用の装置を仕掛けようとしたんだろう。
いわゆるコンクリートマイクみたいなやつだ。
俺の部屋で起きた振動を音声に変換するつもりだったのだろう。
食い物の話と子どもの話と園芸の話くらいしかしてないのに……。
そもそも潜入工作員自体がいるのは知ってるし、別に止めるつもりもない。
きなこが子どもたちに狩りを教えてるから気をつけろとは各国に言ってある。
自業自得だ。
俺の部屋の会話なんかより文官を買収される方が困るんだよね。
だからそっちは文官に厳重に注意してる。
で、買収持ちかけられた文官は上に報告。
上は状況を見て二重スパイさせるか誤情報を流すかを判断。
向こうがくれたお金は臨時ボーナスになる仕組みだ。
友好国でもこんな感じ。
そもそもどの情報欲しいか言ってくれれば流すんだけどね。
まあラターニアや太極国も工作員の育成をしたんだろう。
うちは破壊工作じゃなきゃ怒らないから工作員の育成にちょうどいい環境なのだろう。
だから基本放置。危険なときは情報流してる。
今回は子どもたちの狩りの練習に使われるから気をつけてねって感じで警告してた。
でも捕まっちゃったと。
うちのこたちの初めての狩りの獲物は潜入工作員……。
そしてこの人はおそらく一生、「クロノス王の赤ん坊に捕まった間抜け」といじられる運命だろう……。
かわいそうに……。
でも大丈夫か。
どうせこれから狩りまくるだろうし。
捕まる人数も増えるだろう。
この人は形式的に尋問したら解放しようっと。
どうせくだらない情報しか持ってない。
ところが俺は知らなかったのである。
まさかうちの子たちが「あのレオ王の子どもたちだ。戦闘力を把握し続けろ」なんて言われてるなんて。
そう、本命はうちの子だったのだ。
そのためならば乳児に捕まるのも想定内。汚名も覚悟の範疇。
この工作員の人も太極国の有名人だったようだ。
その後も懲りずになんどもうちの子たちに捕まるのだ。
なおこの人、厨房のスタッフでもあって美味しい料理を提供してくれる。
毒? 盛られない盛らない。
盛ったが最後、俺が料理しきるもんって話になるからしない。
俺とシーユンが決別しない限りないだろう。
あくまで訓練してるんだろうなとそのときは思ってた。
ま、シフト外で子どもたちの世話をしてくれる男性スタッフが一人増えたと考えようと思う。
その後、ラターニアや太極国、鬼神国までが「レオ王の六つ子対策会議」という謎イベントを始めたようだ。
当然、俺はハブかれてる。パパなのに!
それにさー、六つ子はまだ普通の範疇だと思うのよ。
とんでもなく元気なだけで。
ビースト種だし。
一番ヤバいのはどう考えても永遠ちゃんだと思うんだよね。
顔は嫁ちゃんそっくりで、中身俺。
しかもテレパシー使えるっぽいんだよね。
つまり超能力適性あり。
おそらくジェスター。
まだ検査しないけど。
パパ……いまから不安だわ……。
俺はそう真面目な顔しつつも「昼飯イモ食いてえな」と思うのだった。
ヨシ、自分たちで作る昼飯はジャガイモ蒸かそう。
あと炒飯でも作るか。
なぜかレンは微笑みながらも「そういうとこやぞ」って目を向けるのだった。
風邪引きました……かなり調子悪いです




